第二十五話 作戦会議
四章スタートになります。
第二十五話 作戦会議
空はどこまでも晴れ渡り、朝日がベッドに降り注いでいた。
「鬼様、おはようございます」
鏡に向かって挨拶すると、鏡に映った私がニカっと笑った。
『よく眠れたか?』
「はい、とっても」
罪悪感は消えてない、でも歩き始められない程じゃない。
私はベッドから飛び起きて階段を駆け降りた。
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「大変ご迷惑をお掛けしました」
放課後、私の家にやって来た鮎喰さんとコガネちゃんに深々と頭を下げる。
「頭を上げてください、魔法少女様……私は大丈夫なので!」
鮎喰さんが両手を前に出して焦ったように声を上げる。
その横でコガネちゃんが腕を組んでドヤ顔を決めてる。
「私にはもっと感謝してくれてもいいんですよ!」
『おうおう、わしには何か言う事ないのか?』
「鬼様も、今回はありがとう」
『よし!』
鬼様と私のやりとりをコガネちゃんが見て顔の前で指先を合わせて笑った。
「歩ちゃんが元気になってよかったです」
コガネちゃんの言葉に鮎喰さんがコクコク頷いている。
正直、私よりも鮎喰さんの方が心配だ。
この件について私は鮎喰さんが泣いてるのを見てない。
「鮎喰さん、もう私に遠慮しなくてもいいからね」
私の言葉に鮎喰さんがキョトンとした表情を浮かべる。
「……ああ! 家ではちゃんと悲しんだので大丈夫です!」
笑ってみせる鮎喰さんの顔がどこか無理をしているように見えた。
コガネちゃんも眉間に皺を寄せている。
「本題! 本題に入りましょう! 実は団地攻略の目処が立ったんです!」
コガネちゃんがカバンからノートパソコンを取り出して開いてみせる。
それを見た鮎喰さんが大げさに驚いてパソコンに視線を向けた。
「それはすごいですね!」
ここだけ切り取ると通販番組みたいな急な方向転換だ。
これ以上この話題に触れない方がいいんだろうな、と察して私もパソコンの画面に目を向ける。
カタカタとキーボードを操作してコガネちゃんが目を薄く開いた。
「前回は鮎喰さんがいなかったので簡単におさらいから入りましょう、団地は四棟の集合住宅から構成されています。北側に二棟、駐車場を挟んで南側に二棟です」
頭の中で前回の団地戦が思い出される。
中を確認だけするつもりが、大立ち回りを演じる事になって建物が一つ無くなった。
「南側は前回二つとも制圧したんだよね」
私が言うと鮎喰さんが苦笑いを浮かべて顎に人差し指を当てた。
「あの日はいきなり大きな結界の力を感じたので……今となっては間に合ってよかったです」
コガネちゃんも怪我をしていたし、私も死にかけてた。
鮎喰さんが来てくれなかったらと思うと正直ゾッとする。
私達の言葉に小さく咳払いしてからコガネちゃんが頷いた。
「前回の反省を活かして先に情報収集をしておきました。これを見てください」
コガネちゃんがパソコンのマウスを動かした後、画面をこちらに向ける。
パソコンの中には私が戦った集合住宅と同じ作りをした建物が見えた。
「何これ?」
私の問いにコガネちゃんが再びドヤ顔を決める。
「北側の建物の立体モデルです!」
マウスを動かせばクルクルと画面の中でCGの建物が回り、クリックすると建物の中まで確認できる。
「すごい! いつの間にこんなの作ってたの?」
私の言葉にコガネちゃんが満足げに頷いている。
画面を見ていると鮎喰さんが口を開いた。
「壊れた柱や壁まで再現されてますけど、どうやって調べたんですか?」
「ドローンですよ、三台とも怪人に壊されてしまいましたが、かなり建物の中も確認できました」
コガネちゃんは手を顔の前で揃えると事もなげにそう告げた。
「ドローン三台は大事件では?」
私の問いにコガネちゃんがこちらを見た。
「出来る準備を怠って誰かの命が危険に晒されるのは嫌なので……」
コガネちゃんの言葉に鮎喰さんがうんうん頷いてる。
「そうですね、魔法少女様の命には代えられませんから!」
「鮎喰さんもだからね⁉︎」
私の言葉に鮎喰さんが、キョトンと瞬きをする。
その向こうではぁ、とコガネちゃんがため息をついて頭に手を当てた。
「話を戻しますね、これを見てください」
コガネちゃんがキーボードを操作すると二つの建物を繋ぐように地下に道が表示された。
「これは……地下通路、ですか?」
鮎喰さんが睨むように眉間に皺を寄せる。
「そうです。二つの建物は地下で繋がって一種類の怪人の群れが縄張りにしています」
『ほう、面白いな……ではそれはどのような怪人なのじゃ? 当然掴んでおるのじゃろう』
鬼様の言葉にコガネちゃんがもちろん、とパソコンを操作して画面に複数の画像を表示する。
灰色の毛皮に肌色のしっぽ、長い鼻とそこから伸びるヒゲ。
「これは、ネズミ?」
私の言葉にコガネちゃんがおそらく、と返事をした。
二足歩行の巨大なネズミ、それだけ聞くとマスコットかゆるキャラを想像してしまいそうだけど、リアルなネズミになると一気に気色悪くなる。
毛と毛の隙間から覗く肌色や黄ばんだ前歯がひどくグロテスクだ。
「なんと言うか……生理的に受け付け難い容姿をしていますね」
言いづらそうに述べた鮎喰さんの言葉にコクコクと激しく同意する。
『ネズミは古来より人間の敵じゃからな、病気は持っとる、作物や備蓄は食い荒らす。
おまけにどこにでも穴を掘る。
地下通路はそういうわけだろうな……』
何か嫌なことでも思い出したのか鬼様が眉間を揉みながら答えた。
「片方、北西側の建物は一階から二階に続く階段と一階の出入り口は瓦礫で封鎖されていて、建物に入るには地下通路を通るしかありません」
鬼様の言葉を受けてコガネちゃんが続けた。
『ふむ、巣穴は見たところ一本道……とはいえ脇道がない保証も道が増えてない保証もあるまい』
「だったらどうするんですか?」
鬼様の言葉に鮎喰さんが問いかけた。
「鬼様が建物ごと吹き飛ばすのはどう?」
前回の攻撃を思い出して提案してみると、鏡に映る自分の顔が渋い感じになった。
『建物二つ吹き飛ばすにはお前の体が保たん。
片方だけ吹き飛ばしてはその後戦えんから最後の手段じゃ』
「そこは期待してませんでしたから大丈夫です、それよりも鮎喰さんに聞いてみたい事があったんです」
そう言うとコガネちゃんが画面に一枚の画像を表示する。
『これは、赤い……ネズミか?』
そこにはカメラに向かって拳を振り下ろそうとする鮮やかな赤い毛皮のネズミ怪人が映っていた。
赤いネズミ怪人、思い出されるのは団地で出会った赤いハチ怪人とアリ怪人だ。
二体とも他の怪人よりも数段強かった。
「おそらく、統率個体です」
鮎喰さんが告げたタイミングで襟から二匹の赤蜘蛛が這い出してきた。
机に飛び乗った赤蜘蛛の片方に鮎喰さんが手をかざすと赤く輝き始めた。
「これ何の光⁉︎」
私が少し茶化して聞くと鮎喰さんがふふっと笑った。
「正直私もよくわかって無いんですけど、私たちが力を使うと赤く輝いたり結界内部からだと空が赤く見えたりするんです」
「つまり、力が強いと体まで赤くなるんですか?」
団地で見上げた空が赤く見えたのはそういう理由だったのか、と納得しているとコガネちゃんが鮎喰さんに確認した。
「なんとなくそうなるかなぁって気がするだけで確証は無いんですけど……」
『煮え切らん答えじゃなぁ』
鬼様が言うと鮎喰さんがしょんぼりと頭を下げた。
その態度に鬼様がため息をついて、鮎喰さんが一回り小さくなった気がした。
その様子を見てコガネちゃんがパンッ、と手を鳴らす。
「とりあえずこれは強い個体、という認識で間違ってなかったようですね……この個体は北西の建物を確認しているときに遭遇しました……そこが寝ぐらなんでしょうね」
「偶然そこに居ただけじゃない?」
私の言葉にコガネちゃんがニコッと笑ってみせる。
「歩ちゃんは上座下座がどういう基準で決まるか知ってますか? 侵入者が来たとき最も遠い位置が上座、古来から天守閣や玉座が城の高い位置にあるのも攻め込まれた時に敵が来にくいからです。
この出入り口が封鎖されており、赤ネズミが確認されたのは三階、侵入者からつまり最も遠い位置です。
偶然の可能性もありますけど、仮説としては十分だと思います」
「はい……」
早口で語るコガネちゃんに、つい空返事をしてしまう。
「そして今回はそれを逆手に取ります!」
勢いそのままにコガネちゃんが興奮気味に語る。
『ほう、その心は?』
鬼様の質問にコガネちゃんがニヤッと笑った。
「鮎喰さんが北東側、一階を押さえて出入り口を塞ぎ、歩ちゃんが北西の建物を急襲、ボスを先に倒して鮎喰さんと歩ちゃんが両側から攻める。斬首制圧作戦です!」
「ボスが出かけてたらどうするの?」
「それはあり得ません、団地周辺に張った私の結界にハングリーの反応は一切無いので、核一匹通ってません」
私の問いに鮎喰さんが答えた。
『まぁ、わしが逃す気は無いが……玲子の方にボスが行った場合は?』
鬼様の言葉にコガネちゃんが私が持ってるのと同じタイプのインカムを取り出す。
「これで逐一連絡を取り合って異常があったらすぐに駆けつけます」
そう言いながら、鮎喰さんにインカムを渡した。




