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第十九話 普通でいいんです

 建物の隙間を縫うように跳躍し、目的地に着地する。

「鬼様! 変身!」『テレッテレッテレッテレ――』

 全身が青い光に包まれて、服装と髪色が変化していく。

「愛と希望を力に変えて――

――邪悪な闇を打ち払う

 魔法少女! オーガブルー!

 怪人め! そこまでだ!」

 久しぶりに鬼様レーダーに怪人が引っかかり、現場に急行した。

 気合を入れた私の目の前には胸を赤い槍に貫かれたアリ怪人がいた。

「お疲れ様です。魔法少女様」

 困惑する私に答えるように空からセーラー服姿の鮎喰さんが降りてきた。

「あ、はい……お疲れ様です」

 思わず敬語で返した私に鮎喰さんがクスクスと笑っている。

 アリ怪人の胸に突き刺さっていた槍がブワッと広がりアリ怪人を包み込むと、ゴリゴリという硬いものを咀嚼するような音の後、小さく縮んでいき、最後にはファミレスで見た赤蜘蛛に戻った。

『わしの分は?』


 

 /


『納得いかん!』

 昼休み、鬼様が頬を膨らませてコガネちゃんに文句を言っている。

 現在、私とコガネちゃんは屋上前の階段で駄弁っていた。

 屋上は一週間前、蓮夜先輩の件から立ち入り禁止だ。

「う〜ん、そう言われましても……私は普段の怪人退治には関与してませんし……」

 コガネちゃんは頬をポリポリと掻きながら苦笑いを浮かべている。

「そもそも鬼様って神社でお祈りされてるとお腹減らないんでしょ? 鮎喰さんに譲ってあげたら?」

 私の言葉にグッと眉間に皺が寄った。

『お主、わしが何故外におるのか忘れたのか? アイツらを食う為じゃ! 何故飯屋に来たのにたくあんだけ食って帰るような真似をせねばならん!』

「う……うん、なんかごめんなさい」

 あまりにわかりやすい例えについ謝るとコガネちゃんがクスクス笑っている。

 昼休みにこうして駄弁っていると魔法少女になる前を思い出す。

 鬼様がいる以外はまるで昔に戻ったみたいだ。


「このままでいいのかな?」

 思わず溢れた言葉にコガネちゃんがじっと私を見つめた。

「……いつまでもこのままじゃいられません、今も少しずつ団地攻略の準備は進んでいます」

 そう言いながらコガネちゃんはポチポチとスマホを触っている。

「だったら、私達も何かやった方が――!」

 ペチッと額に小さな痛みが走った。

「いたっ!」

 見ればコガネちゃんが人差し指を弾いている。

「前にも言いましたけど、私達は中学生です。歩ちゃんも鮎喰さんも特別ですけど、だから普通にしちゃダメなんてルールは無いんですよ」

  そこまで言って、コガネちゃんが私の両手をとった。

「だから、とりあえず怪人の事は置いておいて、今週末はみんなで遊びましょう」

『そういえば、玲子はどうした? ここには来ないのか?』

 コガネちゃんがいい事言ってくれてたのに鬼様がなんか台無しにしちゃった感がある。

「はぁ、吹奏楽部の練習だって、もうすぐ発表があって三年はそこで引退だから気合いが入ってるんだって……」

 来週の水曜日に文化祭、とは名ばかりの発表会がある。

 私達二年生もクラス毎に合唱を披露する予定だ。

 吹奏楽部は午後の部の最初に発表があるらしい。

『ほう、玲子は何か楽器をするのか? 琴か? 尺八か?』

 随分古風な楽器を挙げる鬼様に思わず笑ってしまう。

「コントラバスだって」

 


  ◆


 夕日に染まった音楽室、来週の発表会に向けて課題曲をみんなで練習する。

 先生の指揮に合わせて、楽譜の上に一音ずつ置いていく。

 心なしか、以前よりも緊張しなくなった。

 以前ミスをしていた所も難なく弾けている。

 最後の合わせ練習が終わると先生に褒められた。

 

「お疲れ様、玲子ちゃん……」

 放課後、部活が終わって部活仲間が話しかけてきた。

 名前は確か。

「潤ちゃん、何か用事?」

 私の言葉に潤が一歩後ずさった。

 何かやってしまっただろうか、と窓に映った顔を見る。

 特に変わった様子はない。

「いや、大丈夫かなって……ほら、蓮夜君と仲良かったでしょ?」

 聞いて思い出した。

 蓮夜、私の幼馴染で一週間前、怪人の手で帰らぬ人となった。

「もう、気にしてないよ……」

「そっか、しばらく浮かない顔してたから、今日は笑えてるみたいで安心したよ」

 潤ちゃんの指摘を受けて私は頬を触る。

 私に笑顔が増えたならそれはきっと魔法少女様に会えたからだ。

「憧れの人に会えたんです」

「好きな人とか?」

 心が風に吹かれた植木のようにザワザワと震えた。

 ニコッと口角が上がったのが自分でもわかる。

「そんな所です」

 それだけ告げて音楽室を後にする。


 蓮夜……深月蓮夜そんな人もいた。

 私の幼馴染でいつも側にいた。

 そして一週間前に突然消えた。

 でも、何故だろう、いなくなった気がしないのだ。

 ずっと側にいるような。

 そこまで考えて突然胸が熱くなった。

 赤蜘蛛と心臓が重なって、ドクンと大きく跳ねたような、そんな気がした。

「美味しかったなぁ」

 不意に口から出た言葉に驚いて口に手を当てる。

 空から舞い降りた黒い翼、スマホを触る蓮夜、驚いた表情を浮かべる彼に向かって大きく口を開ける。

「もう、人は食べちゃダメですよ……魔法少女様が嫌がりますからね」

 変なことを口走らないよう、魔法少女様の前では気を付けないと。

 そんな事を考えながら、軽く跳ねるような足取りで廊下を歩き始めた。

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