第二話 魔法少女の朝
第一章 魔法少女である◾️◾️
二日前
私はパジャマ姿で真っ白な空間に浮いていた。
「え? 何これ……」
周囲を見渡しても眩い光があるだけで本当に何もない真っ白な場所だった。
『フハハハハ、おい、お前! びっくりするくらいわしとの相性がいいな!』
目の前にあった光から声がした。
女性らしい高い声だ。
「どちら様ですか?」
『うむ、わしはお主が住んでおる神社に祀られておる鬼じゃ』
ここまで聞いて夢だと確信する。
確かに私の家には鬼の神様が祀られているけれど、神託を受けるほど信心深くは無いつもりだ。
「いつもお世話になっております。ご用件はなんでしょうか?」
とりあえず丁寧に光に向かって頭を下げる。
『おう、意外と殊勝な態度じゃな……』
困惑した様子でふよふよと浮いている光をじっと見つめる。
どこか困惑した空気が伝わってきた。
『まぁ、良い。面白いものを見つけたので外に遊びに行く手足が欲しかったのじゃ。
お主、今日からわしの巫女として手足となるがいい!』
「それはつまり、鬼様が私の体を乗っ取る。という事ですか?」
私の言葉に光が頷くように上下に動いた。
『わしもお前の体を動かせるようになるだけだ。
基本はお前が動かせる。
生き物に寄生する美味そうな虫を見つけたので少々外食にな……』
その言葉に頬がピクリと動く。
生き物に寄生する敵。
「それは強いんですか?」
『わしの敵では無いが、抵抗はあるだろうな……』
戦い、特別な力。
「それってつまり……魔法少女ってコト!!」
『は?』
◆
現在
「そして私は念願の魔法少女になったのでした」
『いや、魔法少女ってお前が言ってるだけじゃが……』
鏡の前でポーズを決めつつ朝の支度をしていると鬼様が呆れた表情で鏡越しに私を見つめる。
いや、私が私を見つめてる状態だけどね。
「不思議なパワーを使って、変身して、怪人と戦う。
これを魔法少女と言わずになんと言うんですか!」
『わしの巫女』
ムー、と頬を膨らませていると首筋にゾワッ、と冷たい空気が走るような感覚がした。
「え、鬼様……今のって!」
『おう、怪人じゃな……』
まだ朝ごはんも食べてないのに。
椅子に置いてあった鞄を持って跳ぶように階段を降りる。
祖母が用意してくれてた朝食を味噌汁で流し込んでから家を飛び出した。
「行ってきマフ!」
/
建物の屋根から屋根へ、
違和感を感じる方向へと跳んで移動する。
「鬼様は敵と遭遇してから変身と先に変身ならどっち派ですか?」
『そもそも変身とか必要なのか? 全身を力で覆うだけでそこそこ神力使うのだが……』
鬼様の言葉にわかってませんね、とため息をつく。
「変身でパワーアップは基本中の基本です! 古事記にだってそう書いてあります!」
『わしが読んだ古事記とは違うなそれ……』
私はそのまま前方に視線を向けると向かいのビルの屋上に蹲る人影が見えた。
「鬼様! 変身です!!」
私がポーズをキメると仕方ないの、と鬼様はBGMを口ずさみ。
全身が青い光に包まれる。
「愛と希望を力に変えてーー
ーー邪悪な闇を打ち払う
魔法少女! オーガブルー! ただいま参上!」
『毎回それやるのか?』
衣装チェンジと同時に長い嘴を持つカラスのような怪人がコチラを向く。
手の中には齧られたのか頭の無いカラスの死体が握られていた。
「気付かれた!」
『大声で名乗りを上げといて何を今更……』
カラス怪人は嘴を大きく広げてガァと鳴くと背中の翼を広げて大きく飛んだ。
『ほう、アイツは空を飛ぶのか?』
「何を呑気に言ってるんですか! 逃げられますよ!」
珍しい、と感心してる鬼様に焦って一気に跳躍する。
あっという間に地面は遠ざかりカラス怪人の高さまで体が浮いた。
『馬鹿じゃのお主』
内臓が浮く感覚と鬼様の言葉にすぐに状況を理解する。
空中じゃ出来ることない。
カラス怪人が身動きの取れない私に向かって足の爪を広げて突進してくる。
鉤爪が私の腹部に迫る。
どうにかしようと両手足をバタバタと動かすけれど、僅かに体勢を変えるだけで避けきれる程は動けない。
『まったく、世話の焼ける……』
接触まで瞬きの距離まで迫った足に横から羽衣が巻き付く。
そのまま振り回すように空中で位置を入れ替える。
『地上まで付き合え……』
そのまま引き寄せられたカラス怪人の首を掴み、地面との間に敷くように拘束する。
ドシャッ、と弾けるような音と落下したビルの屋上が崩れて下の階まで突き抜ける。
カラス怪人はピクピクと痙攣しているが腰からありえない方向に折れ曲がっていた。
「か……勝った〜!」
周囲を見渡すと、ビルは使われていなかったのか埃っぽい空気が漂っている。
『思いのほか手こずったが、わしの敵では無いな!』
そのまま動かなくなった怪人に手を伸ばそうとする腕に力を入れて止める。
「鬼様、やっぱり食べないとダメですか? 口からじゃ無くても神ぱわーで吸収とか」
眉間に皺がよるのがわかる。
自分の気持ちと関係なく表情が動くが変な感じ。
『そもそも食うために出て来ておるのじゃ! あんまり文句言ってると壊れた建物直してやらんぞ!』
ムッ、と口をへの字に曲げた。
鬼様は気にせずに怪人から核を回収して口に放り込む。
「ウップ……」『美味じゃな!』
言い終わると天井の穴から外に出て青いオーラが建物を包み込んでいく。
まるで時間が巻き戻るように穴は塞がり、元通りに修繕された。
「変身解いてください」
ため息を吐いた後、全身が再び青く発光して制服姿へ戻る。
ポケットからスマホを取り出して時間を確認する。
予鈴十分前、ここから走っても学校まで二十分。
「鬼様! 遅刻しそうなので走ってください!」
『食後の過度な運動は控えた方が……』
「そういうのはいいので!」
魔法少女の朝は多忙なのだ。
何度も時間を確認しながらビルの屋上を駆けるのだった。




