第一話プロローグ オーガブルー参上!
世界は誰に対しても優しくない
スーツにスカート、飾り気のない黒い服を着た大人達が私と横に座る祖母に挨拶をしていく。
額に飾られた父と母は笑ったまま動かない。
幼かった私はただ、父と母がいる日々は二度と帰ってこないのだと漠然と感じていたのを覚えている。
塞ぎ込んで部屋に引きこもった私に祖母は何度も優しく声をかけてくれた。
でも、それも何処か遠い世界の出来事のような気がして。
私はつけたままのテレビをじっと眺めていた。
テレビには再放送の魔法少女アニメが流れていた。
過酷な現実に立ち向かうその姿に幼心に憧れた。
「これだ……」
部屋を飛び出して驚く祖母に笑顔を見せる。
「私、魔法少女になる!!」
◆
薄暗い路地裏にぐちゃぐちゃと粘着質な水音が響く、視線の先で虎と人を足して二で割ったような姿の怪人が生ゴミを漁って食べていた。
『なあ、歩よ本当にやるのか?』
私の口から相棒の鬼様が何やら不満そうな声を上げる。
「何言ってるんですか鬼様! あんなに練習したじゃないですか!」
『お前にさせられたんじゃが……』
私はそのまま怪人の潜む路地に足を踏み入れた。
足音に反応して怪人の尖った耳がピクリと反応する。
「そこまでだ! 怪人!」
私の言葉に怪人は不機嫌そうに唸り声を上げながらジロリ、とコチラを振り向いた。
鞭のように振るわれた尻尾が壁を凹ませてコンクリートに亀裂を入れる。
「なんだぁ……貴様は」
おあつらえ向きな怪人の言葉に思わず口角が上がる。
「私は、通りすがりの魔法少女だ!」
腰に手を当てて指を指す決めポーズでノリノリで怪人に名乗りをあげた。
『テレッテレッテレッテレ、テーレレーレ、テーレレーレ』
私の口から鬼様が軽快な歌を口ずさみ始める。
一拍、間をおいてから、くるりと体を回転させた。
「変身!」
「愛と希望を力に変えて――
――邪悪な闇を打ち払う!
魔法少女! オーガブルー!!」
全身に青い光を纏わせながら、私服姿から青を基調にしたゴスロリっぽいフリル多めの衣装に変身していく。
そして決め台詞と共に腰回りから二本の羽衣のような帯が伸びた。
「…………本当になんだ? 貴様は……」
後ずさる怪人にニコリと笑ってもう一度答える。
「魔法少女、オーガブルーです!」
『そういう意味ではないと思うぞ……』
鬼様が喋ると私が私にツッコミ入れてる感じになるからやめて欲しい。
私に呆れた鬼様がため息をつく。
私の体で。
一瞬、怪人から視線を外した瞬間。
風切り音が鋭く耳をついた。
私の顔を引き裂こうと眼前に鋭い爪が迫る。
それを腰から伸びた羽衣が絡めとるように受け止めていた。
『油断しすぎじゃぞ……』
「すごい! 魔法少女っぽい! 鬼様、技名つけましょう! オーガヴェールとかどうですか⁉︎」
テンションが上がった私に鬼様が改めてため息をついた。
攻撃が通らなかった事に焦ったのか、トラ怪人が壁を蹴りながら跳躍する。
『逃げる気か?』
「逃がさないんだから!」
足に力を入れると、鬼様が足に光を集めてくれる。
そして解放された力によって一息に相手の頭上まで跳躍した。
その瞬間を目撃していなかったトラ怪人は見渡すように下を確認している。
「どこ行きやがった!」
「上だよ!」
合わせた瞳に月をバックに拳を構える私が映った。
『さぁ、その命、頂戴するぞ!』
鬼様の言葉に拳に収まりきらない青い光が路地全体を照らしていく。
「必殺! ラブ・オーガ・フラーシュ!!」
閃光と共に振り抜かれた拳が怪人の頭部に直撃し、胴体から分たれた首から上が地面に衝突した。
まるで潰れたトマトのような見た目に思わず顔を顰める。
「うわ、グロい」『ハハハハハ、成敗!』
静かになった路地に鬼様の笑い声が響いて遅れて怪人の胴体が落下した。
とりあえず腕を持ち上げてガッツポーズの様な姿勢をとる。
一秒、二秒、三秒……
「鬼様、何か決まる感じのやつお願いします。戦隊の爆発みたいなの……」
『あたり一面、更地にしてもいいなら爆発させてやらんでもないぞ!』
嬉々としてそんな提案をする鬼様にやっぱりいいです、と腕を下ろした。
『そんな事よりも、ここまで付き合ってやったんじゃ……褒美をもらうぞ!』
ぐん、と引っ張られる様に体が私の意思を無視して首のない怪人の死体に歩き始める。
「待って! 鬼様、私やっぱりちょっと抵抗があるっていうか……」
『大丈夫大丈夫、初めだけじゃ……』
そのまま死体の断面、首から胴体に向かって腕を刺し入れた。
「ぎゃー! キモい! ぬるい! ねちゃねちゃする!」
かき混ぜ、まるでハンバーグのタネを混ぜるような気持ち悪い音と私の絶叫が路地裏に響く。
『お、あったぞ!』
言葉と共に引き抜かれた手には缶バッチでも掴むように三番の指で輪郭のボヤけた赤い光の玉が握られていた。
よく見ると、六本の足っぽいのがわさわさ動いてて虫みたいだ。
キモい。
「鬼様、これってなんですか?」
『怪人を動かしていた核のようなものじゃ』
質問に答えた鬼様が抵抗してキューキュー鳴いてる虫を掴んだまま手を合わせるような動作をした。
『では、いただきます』
「ちょ、ンー! ンー!」
抵抗虚しく私の口に放り込まれた虫を咀嚼していく。
ほんのりと鉄の味がしたそれを飲み込むと得体の知れない熱が内側から湧き上がってくる。
『おー、美味じゃ!』
「オェ……」
涙目で蹲る私の口から笑い声が発せられる。
中学生相手にこれはあんまりじゃないかな。
『何を険しい顔しておる。そういう約束じゃろ?』
「そうだけど! やり方!!」
世界は誰に対しても優しくない、でも私
魔法少女になりました。




