第十八話 魔法少女と懇親会
「鬼様、お腹膨れてきたんですけど……」
『食ってるのだから当然じゃろ?』
それはそうなんだけど、私を無視して口にハンバーグを運ぶのをやめて欲しい。
『家畜の肉は神力にはならんが、お前と味覚を共有しておるからな、大変美味である』
座敷牢の少女を思い出してつい、許したくなる。
でもこれ以上は入らない。
「鬼様……もう、食えません」
鬼様に抵抗していると食べ終わった鮎喰さんが胸に手を当てて話しかけてきた。
「いらないならこの子にあげてもいいですか?」
そこまで言うと、赤蜘蛛が鮎喰さんの袖から這い出してきた。
赤蜘蛛が残ったハンバーグに覆い被さると端からじわじわと溶かすように食べ始めた。
「……可愛いですね」
小動物的な様子にコガネちゃんがぼそりと呟く、対して私の眉間には皺が寄っていた。
鬼様だ。
『玲子よ、お主が怪人だと言うならば聞きたい事がある。怪人とは何だ?』
「鬼様って食べた相手の事はわかるんじゃないの?」
夢の中の様子、青年との記憶を思い出して鬼様に聞くとまた、眉間には皺がよった。
『何でそんな事知っとるんじゃ? ああ、体を共有しとるせいで何か見たか……まぁいいが』
はぁ、とため息をついて鬼様がポリポリと頭を掻く。
『わしが食っとるのは感情じゃ、それだけでは正確な記憶までは読み取れん……こやつらについてわかっとるのは、えらく腹を空かせた存在だ、という事だけじゃ』
ハンバーグを半分食べ終えた赤蜘蛛を指差し鬼様が告げた。
鮎喰さんは考えるように顎に手を当てて黙っていた。
私と鬼様がじっと見つめると、鮎喰さんは顔を赤くして両手を胸の前で振った。
「私も全部知ってるわけじゃないんです! この子と繋がった時に感覚が流れ込んできただけで。だから、何を何から話せばいいのかなって……」
コガネちゃんがアイスココアを飲み干して目を少し開いた。
「そういうのはいいので、わかる事は情報共有してください」
少し言葉が冷たい。
「鬼様もコガネちゃんも、そんなじゃ話しにくいでしょ!」
私が静止すると、コガネちゃんの目がいつもの閉じて見える感じに戻った。
「はぁ、説明が簡単なところだけで大丈夫です……」
コガネちゃんの言葉に鮎喰さんが苦笑いを浮かべて頷いた。
「まず、この子達。怪人の名前はハングリーと言います、この子達自身は戦闘能力はほとんどありません、強めに叩いたら潰れてしまいます」
鮎喰さんの言葉にテーブルの赤蜘蛛がピクリと跳ねて縮こまった。
それをみて鮎喰さんが笑ってそんな事しませんよ、と赤蜘蛛に告げると付け合わせのポテトを食べ始めた。
「この子達は生き物に寄生すると力を扱うにふさわしいものへ宿主を改造する性質があります。それで生き物はみんな人型に近づくように改造してしまうんです」
食べ終わった赤蜘蛛がピョンと鮎喰さんの手の甲に乗って、休み始めた。
「恐ろしい生態が揃ってる割には可愛らしいというか、そうは見えませんけど……」
コガネちゃんがじっと、くつろぐ赤蜘蛛を見つめる。
「はは、この子は私と繋がって意思をある程度汲んでくれてるので、あの赤い槍もこの子が変化した姿なんですよ」
鮎喰さんが呟くようにハングリー、と口にすると鉛筆サイズの赤い槍に変化した。
『もっとデカかったじゃろ?』
「大きくもできますけど、目立ちますから……」
鮎喰さんが言い終わると、槍は蜘蛛の姿に戻って鮎喰さんの手のひらに着地した。
「この子達はこの世界の生き物じゃ無いのでこの世界に拒まれてしまっています。だから無制限に増える事ができないんです、でもこの世界、とりわけ世界に与える影響力が強い生き物を食べる事でその制限を弱める事ができます」
「人間……ですか?」
指先を目の前で合わせたポーズのコガネちゃんがじっと鮎喰さんを見た。
鮎喰さんは静かに頷いた。
「怪人達は人を食べてこの世界への影響を強めて、本体を呼び込む裂け目を完成させようとしているんです。そして、作りかけの裂け目が、おそらくあの団地にあります」
鮎喰さんが鋭い目つきでそう告げた。
「つまり、やる事は変わらないって事だね」
私の言葉に二人が目を向いて私を凝視する。
「え? 何かおかしなこと言った?」『そうでは無いが、元も子もないではないか。まぁ、お前らしいがな』
コガネちゃんがいつもの表情に戻ってため息をついた。
「団地については少し待ってください、準備してますから」
コガネちゃんがアイスココアを飲もうとして、中身が無かったので氷の溶けた水を飲む。
「でも、すぐに動かないとまた新しい被害者が……」
いいかけてコガネちゃんが私のお腹、ハチ怪人に貫かれたあたりを突いた。
「そんな、ふうに、突っ込んだ、から、団地で、死にかけたん、でしょう!」
言葉が切れるたびにツンツンと私のお腹を突いてる。
「ごめん、ごめんなさい! 突くのやめて」
私達が言い合っているとおずおずと鮎喰さんが手を上げた。
「あの、私が結界であの辺り見張ってるので動きがあればすぐにわかりますよ」
『あの結界か……便利な力じゃな』
鬼様の言葉にはは、と鮎喰さんが短く笑った。
「安心材料も増えましたし、一つ提案があります」
そう言ってコガネちゃんがカバンから三枚のチケットを取り出した。
「遊園地のチケット?」
私の問いにコガネちゃんがハイ、と答える。
「今週末、懇親会も兼ねてみんなで遊びに行きましょう!」




