第十三話 二対二
一歩、床を砕く程に力を込めた踏み込みが生み出した速度で一瞬でハチ怪人の一体に肉薄する。
軽く握った拳が怪人の胸部に突き刺さった。
敵の中心で動きを止めた私を押さえ込もうと一斉に飛びかかった怪人達は振るわれたナタの様な羽衣によって両断されていく。
死体を貪っていた怪人達が一斉に私に向き直り、何体かが私に針の噴射口を向けた。
放たれた針は一本の羽衣によって防がれる。
そして、その羽衣が霧の様に消えた。
「鬼様⁉︎」『エネルギー切れじゃ!』
一本の羽衣が生まれたばかりの赤蜘蛛を掴み、私の口に押し込むと消えていた羽衣が復活した。
『やはり、今までの核と同じものじゃな……あの女がいなかったらもう少し持つんじゃが……』「見捨てるのは無しですよ」
眉間に皺を寄せるとわかっとる、と鬼様が軽く答えた。
怪人の死体から右手を引き抜き、それを他の怪人に向かって蹴り飛ばす。
避けようと動いた奴に向かって両足をそろえて跳ぶ。
頭部に向かって放たれたドロップキックに反応できず、怪人の頭はアニメのように回転しながら吹き飛んでいった。
それと時を同じくして羽衣も周囲の怪人の頭を掴み、盾の様に掲げると私の体勢が整ったタイミングで頭を潰して放り投げた。
数体、視界の端で針を発射する怪人に振り向かず、跳び上がる、羽衣が天井に突き刺さり空中で一瞬静止すると目の前を針が通り過ぎていった。
『注意力散漫じゃな!』「考えることが多いんですよ!」
一つの口で言い合いつつ、羽衣が天井を押す様に離す。
その勢いのまま、足にオーラを纏わせて針を放った怪人に踵落としを放つ。
青いオーラが怪人の体内を駆け巡り、水風船のように弾け飛んだ。
その間も視界の端で振るわれた羽衣によって怪人達が両断されていく。
地面に着地した瞬間、私の背後で揺らめく羽衣が一本消失する。
残り七本。
敵の視線は全て私に向いている。
「鬼様、数が減ってない様に見えるんですが……何体倒しました?」
『元々部屋におった数、大体三十程度は潰したと思うが、外から新しいのが来ておるな……』
見れば、ハチ怪人の中にアリ怪人も混ざり始めていた。
アリ怪人はハチ怪人と違って針を飛ばさないから流れ弾を意識しなくていいのは楽だ。
私が再び敵に駆け出そうとした瞬間、割れる様に私達を包囲していた怪人が離れていく。
「……降参?」『そんなわけなかろう』
私の疑問と鬼様の言葉に応えるように、窓枠を粉砕しながら二体の怪人が侵入してきた。
一体はアリ怪人と同じ特徴、顎と二本の触角。
だが体表を覆う甲殻が固まった血液のように赤黒く煌めき、体格も他に比べて大きく二メートル程はあるだろうか。
軽くマッシブに見える。
対してもう一体はハチ怪人、こちらも赤い体表だが私と同じくらい、百五十センチ程の小柄な体で室内にも関わらず飛んでいた。
私は壁際の女性を背後に庇い、部屋の中央で赤い怪人達と向かい合った。
他の怪人達は私達を取り囲むように大きく距離を取る。
『なるほどコイツらがこの場の頭か……』「ボス倒したら帰してくれるといいんだけど……ね!」
言葉終わりに踏み込んだ。
その勢いのまま赤アリ怪人に回し蹴りを見舞う。
顎スレスレ、上体を逸らすように紙一重で避けられた。
反転、赤アリ怪人の強く握った拳が私に迫る。
それを羽衣が私を背後に引っ張り回避させた。
背後に下がった私達に赤ハチ怪人が狙い澄ました針を放つ。
私の眉間目掛けて放たれたそれを羽衣が間に入ろうとして、弾けた。
かろうじて弾道を逸らされた針は私の顔のすぐ横を通過する。
形を失った羽衣が一本、霧散していく。
『チッ! これでは防ぎきれんか!』
私の背後、六本になっていた羽衣の内、三本が消えて残ったものの青が濃くなる。
「一筋縄じゃいかない相手だね……」
深く息を吐いて相手を見据える。
『アリを先にやるぞ、飛んでくる針は任せろ……』
声が響いた瞬間、赤アリ怪人と私の両方が同時に駆けた。
近づき、拳を振りかぶる赤アリ怪人の拳に合わせるように拳をぶつける。
パァン、と何かが爆発した様な音と共に衝撃が室内を震わせた。
速度は速いけど、見える。
鬼様の力が宿った私の目には赤アリ怪人がどう動くのか、それらが見えていた。
アリ怪人の振るう拳に丁寧に拳をぶつけていく。
側面から飛んでくる針は速度を増した羽衣に叩き落とされて私まで届かない。
やがて倒しきれないと察した赤アリ怪人が跳ぶように一歩引いた。
フッと短く息を吐いてその動きに合わせて距離を詰める。
それに反応した赤アリ怪人が迎撃しようと足を止めて、再び拳を振り上げる。
それを確認してからスライディングの要領で相手の股下を潜り抜け背後に回った。
赤アリ怪人は即座に裏拳を放つが、その拳は空を切る。
「上だよ!」
回り込み、即座に飛び上がっていた私が天井を蹴って赤アリ怪人に肉薄する。
私の拳に青い光が集まっていく、赤ハチ怪人と周囲を囲んだハチ怪人達が一斉に針を発射するが、その全てが羽衣に防がれる。
「必殺! ラブ・オーガ・フラーシュ!」
青い光はピシャ、と何かが割れる音と共に赤アリ怪人に接触し、まるでスイカ割りのスイカのように爆散させた。
着地と同時に背中の羽衣が二本消失する。
『残り一本、少々心許ないが……補給はさせてくれんわなぁ』
見渡せば赤ハチ怪人以外は距離を取っていた。
目の前でこちらを伺っている赤ハチ怪人が補給する隙を見逃すはずがない。
でも、
「大丈夫です。鬼様……今の私なら全部避けられます」
集中すれば怪人の羽ばたきさえ目で追えそうだ。
『ふむ、慣れてきたか……ならば一気に行くか!』「はい!」
一歩踏み出そうとした時、違和感を覚える。
怪人、私を見ていない。
「一体、何を見て…………っ!」
既に、針の射出口が向けられている。
その先には倒れた女性、とてもじゃないけど鬼様のオーラだけでは赤ハチ怪人の針は耐えられない。
『歩! 諦め――』「まだ助けられます!」
飛び込むように射線に割り込んだ、私に向かって針が発射された。
三発、発射された針は一発目を羽衣が打ち落とし、二発目を私が蹴り落した。
そして三発目、遮るように広げられた羽衣を貫通し、逸れた針が私の左足に突き刺さった。
「いっ!」
ズキッ、と激しい痛みが足を襲う。
羽衣は残ってこそいるが明らかに色が薄くなっていた。
『この、大馬鹿者が!』「はは、守りましたよ……」
眉間に皺がよる。
こうしている瞬間にも敵は待ってくれない。
一瞬、瞬きの間に私に肉薄した赤ハチ怪人が鋭い爪のついた腕を貫手のように私に突き出した。
避けようと力を入れた瞬間、左足から力が抜けた。
深く刺さっていないはずなのに。
意識を向けた瞬間に気づく、膝から下の感覚がない。
『毒か!』
「毒か!」
言葉が重なる。
私を守ろうとした最後の羽衣を突き破り、怪人の腕が私の腹部を刺し貫いた。




