初めてのお出掛け
※カギカッコの使い分け
「 」=表のセリフ
( )=主人公の心の声
《 》=リリアの心の声
前回の失敗から数日がたったが、なかなか良い計画が思いつかない。
(このままではまずいですわ)
あまりの進展の無さに、部屋の中をウロウロしてしまう。
バンッ!
すると、突然部屋のドアが勢いよく開いた。
(なにごとですの!?)
思わず身構えてしまう。
しかし、次の瞬間ふっと体から力が抜ける。
リリアがズカズカと私に近づいてきた。
そして腑抜けた顔で私を高く抱き上げる。
(リリア、後ろの侍女が引いていますわよ!?)
「今日はお出掛けしますわよ! お前も我が家の一員ですもの。常に最上級でなくては。まずは服を買ってあげますわ」
《……きっと可愛いだろうな。迷っちゃいそう。どこから回ろう!》
(一体何をさせられるんですの)
嬉しそうなリリアに呆れながらも、胸の奥はなぜかあたたかった。
馬車の中ではリリアの膝の上に寝そべっていた。
(そういえばこの世界に来て初めての観光ですわね。あの時は必死でしたもの)
私はあの出来事からもう何日も経っていることに衝撃を受ける。
今までの人生でこんなに毎日が早く過ぎることはなかった。
ただただ、毎日が退屈だった。
(それにしても、よく見ると私のいた世界とはやっぱり異なるのね。あれなんてどうやって動いているのかしら)
窓から外を覗くと、畑が辺り一面に広がっていた。
不思議なことに、鍬がひとりでに耕している。
(そういえばこの世界には魔法があるんでしたわね。屋敷にいるときは見たことがありませんでしたけれど。私も魔法が使えるかもしれませんわね)
のどかな風景から、ポツポツと家が増えはじめた。
歩いている人も目に見えて増えてくる。
「安いよー。お買い得だよー」
呼び込みの声がおおきくなる。
市場にはあまり行ったことがなかったため、窓に張り付くように眺める。
しかし、少しずつ喧騒が遠のいていく。
すると、今度はドレスやタキシードを着ている人が増えてきた。
キキーッ。
馬車が止まった。
リリアに抱き抱えてもらい、馬車から降りる。
「さて、どこから回ろうかしら」
(犬用の服が売ってるようには見えませんわ)
いかにも高級そうな服屋が建ち並んでいた。
(リリアに似合いそうな服がたくさんありそうですわね)
突然、ふわっとおいしそうな香りが漂ってきた。
くんくん。
「ちょっと、どこに行くんですの?」
ちょうど私にリードをつけようとしていたリリアが、驚いたような声をあげる。
しかし私は無意識のうちに、匂いのする方へ走り出していた。
(ここですわ)
匂いは薄暗い路地の奥からだった。
何やら人が集まっている。
その中心からいい匂いがした。
私は吸い寄せられるように集団に飛び込んだ。
「おい。この犬どこから迷い込んできたんだ?」
「わからない。だが、吠えられると困る。始末しろ」
(っ、は! ここはどこですの?)
あまりにいい匂いに夢中になりすぎて、周りの状況が見えていなかった。
いかにも怪しい黒いフードを被った大男達が、紺のフードを被った子供を囲んでいる。
(しまったわ! 私としたことが、変なところに飛び込んでしまったわ。今からでもリリアのところに戻らなくては)
私は急いでその輪から離れようとした。
しかし私の短い足では逃げられるわけもなく、首元に冷たいものが当てられる。
ギラリ、と鋭く反射する。
(またですの!? もう懲り懲りですわーー!)
死を覚悟し、ギュッと目を瞑る。
ボッ。
「ぎゃー!!」
(何が起こりましたの!?)
パッと目を開く。
私に刃物を向けていた男が急に刃物を落とし、手を押さえている。
その手は真っ赤な炎に包まれていた。
(まっ、魔法ですわ!!)
「何者!?」
大男達は焦り出し、辺りを素早く見回す。
「私の駄犬に何をしていますの!?」
《なんなの? このいかにも怪しい男どもは!
しかも私の可愛い可愛いわんちゃんに手を出すなんて! 許せないわ》
小柄な少女が路地の入り口に立っていた。
右手には激しく燃え盛る炎の玉が乗っている。
それをこちらに向けて構えていた。
(この声は、リリアですわ!)
「チッ。……一旦引くぞ。」
男達はすぐに暗闇に消えていった。
「急にいなくなったりして!」
《大丈夫かしら? 怪我なんてしていたら……》
心配そうに近づいてくるリリアをみて、こわばっていた全身がほぐれる。
(リリア〜! 怖かったですわ!)
「わん! くぅーん」
リリアに駆け寄る。
「……私の手を煩わせるなんて、許せませんわ」
《大丈夫そうね。心配で心臓が止まるところだったわ。……私のことが嫌いになって逃げ出したのかと思った》
言葉とは裏腹に優しく撫でるその手にホッとしつつ、心配をかけてしまったお礼に、
ペロッ。
リリアの手を舐め、耳と尻尾を最大限垂らしてお座りをした。
「反省してるようなら、いいですのよ」
《何そのポーズ! 可愛すぎ!! 撫で撫でしまくりたい!っ、ダメダメ、リリア。我慢、我慢よ》
口の端がヒクヒクしている。
——それを見つめる黒い影が伸びていた。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
今回は、リリアとレイラのお出掛け回でした。
犬の服を買いに来たはずが、思わぬ事件に巻き込まれてしまったレイラ。
そして最後に現れた黒い影……。
一体何者なのでしょうか?
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次回は9月5日21:30に更新予定です。
ぜひ、次のお話も読みに来てください!




