新たな気づき
人々が忙しく行きかうような音に目が覚める。
体のあちこちが軋んでいるようだった。
(私は本当にまだ生きていたんですわね。瀕死だったはずですのに、そこまで痛くありませんわ。誰かが助けてくださったのかしら。
——ところで、ここはどこですの?)
周りを見ると、豪華な天蓋が目に入ってきた。
終わりのない審判の世界では地面でそのまま寝ていたため、あまりの柔らかさに驚きが隠せなかった。
(ベッドはこんなに柔らかかったのですわね)
ガチャ。
ドアが開く音がした。
誰かが近づいてくる。
「あら、迷惑な薄汚い犬が。ようやく起きましたのね?」
《あんなに傷ついた犬ははじめてみたわ。もう良くなったのかしら》
(おかしいですわ。部屋には1人しかいないはずですのに、声が2人分聞こえますわ)
私は近づいてくる人物を確認するため、起き上がろうとした。
「ベッドが汚れるから、動かないでくださいまし!」
《怪我しているんだから、動いちゃだめよ!》
またもや、2人分の声が聞こえた。
もしかして……。
私はそばに来た人物を確認した。
(鮮やかな赤髪に、黒い切れ長の瞳の少女。それに、この部屋に掛けられている蛇とグリフォンの旗。見覚えがありますわ)
私はかすかな記憶を手繰り寄せる。
「リリア様!」
侍女らしき人物が部屋に入ってきた。
なぜか怯えた様子だった。
(……リリア?)
少女の目の前までくると、勢いよく深々とお辞儀をしながら、
「申し訳ございません! そちらの犬は私達の仕事でしたのに、お手を煩わしてしまいまして」
「嫌ですわ、謝られても。それ相応の覚悟がおありでして?」
侍女の顔が真っ青になる。
《こんなに重症なのは、私が急いで帰ろうとしたせいだもの。自分で面倒を見るのは当たり前じゃない》
また、声が聞こえた。
しかし侍女には、その声は届いていないようだった。
「追って沙汰を伝えるわ。下がりなさい」
侍女は慌てて部屋を出て行った。
《とりあえず今はこの子の怪我が重いもの。静かな方がいいわよね》
(なぜか、少女の心の声が聞こえる気がしますわ。それにしても、この外見にリリアという名前。
——私が探していた悪女に違いありませんわ!)
リリアはベッドの近くの椅子に腰掛け、心配そうに私を見ている。
(私、やっぱりついていますわ! まさか、私を轢いた馬車に乗っていたのがリリアでしたなんて。これで、リリアのそばに来れましたわ)
じっと見つめてくる視線に耐えきれず、目を瞑る。
(ですが、どういうことですの? 言葉と心の声が全然違いますわ! そのせいで侍女にも恐れられていて。このままでは味方などできそうにありませんわ)
「ごめんなさいね」
《ごめんね》
不器用にそっと触れてくる手に、なんとも言えない思いが込み上げてきた。
それからも、リリアは私につきっきりで看病してくれた。
お風呂で傷口もゴシゴシと洗う侍女達を見かねて、
「こんなこともこなせないなんて!」
《もっと優しく洗ってあげないと、傷口が悪化しちゃう》
と、傷が痛まないように慎重に洗ってくれた。
私が夜中に傷のせいで熱が出た時も、医者を叩き起こし、
「治せないのなら、クビよ」
と言い放っていた。
《お願い、よくなって》
また、明け方まで唸っている私の額にハンカチをのせてくれたり、体を優しく撫でてくれていた。
しかし侍女達はリリアを恐れて、あまり部屋を訪れることはなかった。
(リリアはなぜ言葉と心の声がズレているのかしら?そのせいで恐れられていますのに。はぁ、私が喋れたらリリアの優しさを皆に教えて差し上げますのに)
こんなにも誰かに伝えたいと思ったことは、一度もなかった。
(何かを自由に伝えられることも、当たり前ではなかったのですわね。
——最近は新たな発見が多いですわ)
ふと脳裏に、過去の自分が浮かんだ。
(そういえばリリアほどではありませんが、私も似たような喋り方でしたわ。
……まあ、恐れられてはいませんでしたけれど。今となって聞いてみると、酷いものですわね)
私の周りはあたたかかったのだと、今更ながらに気づく。
(これだけリリアによくしてもらったんですもの。私が回復したら味方づくり、頑張りますわ!)
自分が誰かの役に立てること、それが待ち遠しかった。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
今回は、リリアを通してレイラ自身に新たな気づきがあったお話でした。
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次回は9月3日21:30に更新予定です。
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