第9話 誕生日
明け方ガタガタと音を鳴らす行商人の牛車の音に揺られ2人は眠りから覚めた。
「わりぃな。おれが案内できるのはここまでだ。」
「エキサイトまでは無理って言ってたもんな。もとよりそのつもりだし。なんならふた晩も連れていってくれてありがたいよ。」
「なぁに。商業のついでだ。」
ふたりは行商人に礼を言った。
「なんだ、明け方に下ろしちまった詫びだが、西の方に数十分歩いたところに町がある。買い出しにしても泊まるにしても満足の行く町だ。行ってみるといい。」
2人はサワコフ村にて老婆に案内された城下町エキサイトへ向かっていたが、行商人の助言により、少し寄り道して、西にある町に向け、進むことにした。
行商人に別れを告げたふたりは西へ真っ直ぐ歩き始めてすぐに光を帯びた町の姿が見えてきた。
街の名はライトリア。少し小さい町であった。そこはエキサイトから5日歩いたところにある。たまに行商人が来るが、村はほぼ地産地消によってやりくりをしていた。
町の真ん中には市場があり、肉、野菜、パン、などなど…が売られていて、生活は安定していた。
そして魔法使いが多く住んでおり街灯に火をともしたり作物を成長させたりなど貢献していた。
「いやぁ!ここの町はなんでもあるなぁ!」
「じゃあ、2手に別れて買い出しにいうか。」
そう言うマリナにドロガは怪訝な顔で言った。
「もう依頼は受けんなよ?ひとりじゃやられちまうからな。」
「わかってるって」
マリナは苦笑いで言った。
しかしドロガは心配して気が気ではなかった。
***
夕暮れ時、マリナは先に帰っていた。
「喜んでくれるかな〜」
ドロガにプレゼントを買っていたのだ。日頃の感謝も含め、ドロガの誕生日が分からないなりの誕生日を祝うものだった。しかしもうひとつ理由はあった。
「よう!マリナ、遅くなったな」
「ほんとだよ、遅すぎ。」
宿に戻るとふたりは夕食を取ることにした。ドロガはマリナに、連れられ町の路地に入っていた。
「おい…こんな所に飯屋なん…て……」
ドロガは感嘆した。
「すげぇ…すげぇ綺麗だ!」
そこには美しくライトアップされた二階建ての料理店があった。なんでこんなとこをと、マリナを見るドロガは声が漏れていた。
「あーしは町の人に聞きまくって、やっとの事で見つけたんだ。ライトアップされててめっちゃ美味しい店!」
ふたりは店の中へ入っていった。
「ありがとう。感激だよ。」
エビを食べながらドロガは言った。
「いえいえ。いつもの感謝!あと…これ……」
そっと箱を置いた手をドロガに向けた。
「なに?」
「プレゼント。」
「は?頭でも打ったか?」
「ばか!早く受け取れ!」
「明日は大嵐だな」
そう笑うドロガは箱を開けた。そこにあったのはターコイズブルーの盤面を持つ綺麗な腕時計だった。
「誕生日プレゼントだよ。」
「誕生日…いつか知らねぇだろ…」
そういうドロガは既に涙を目に浮かべていた。
「それに、日頃の感謝も含め…ね?」
「おれ、誕生日祝われたの初めてだよ」
ドロガはマリナの手を取って目を見て言った。そう見るドロガの目には涙が浮かんでいた。
「ありがとう…」
「え、ちょ、待ってよ、そんなの」
一筋の涙がこぼれた時ドロガは動揺するまりなを見てふっと笑った。
「ばーか嘘泣きだわ」
「だっさ…」
それからドロガはマリナの目を見て言った
「まじで、ありがとうな。」
マリナは、喜んでくれたんだと笑みを浮かべた。
「でもなんで時計なんだ?」
と聞くドロガにマリナは話し始めた。
「それはね…」
***
翌朝、朝食を済ませたふたりは少し観光をすることにした。この町は山岳地帯にあり、山から大きな川が流れていた。その川からなる滝グランデはここ1番の名物だった。キラキラと太陽光を反射させる滝をふたりは話していた。
「いやぁ、最近はとことん平和でいいなぁ」
「なに。アルタンといる時はそんなに忙しかったの?」
「あぁ。まず、アルタンのやつ魔力を垂れ流しなもんで魔物魔族は狙ってくるわで大変だったぜ」
「へぇ、あのアルタンが…」
「途中で抑えれるようになったけどな。」
「あんたは魔力察知に引っかからないね。」
「”さっち”?”たんち”じゃなかったけ?」
「あー。そこからかぁ」
マリナはため息を着いた。ふたりは手近なベンチを見つけてマリナは説明を始めた。
「まずね。この世界には黒魔術と白魔術っていう2つの魔法が存在するの。」
マリナはドロガがちゃんと聞いてるのを確認しながらゆっくりと話を続けた。
「黒魔術は原始的な魔法。要はこの世界に元々あった通常の魔法。そして白魔術。これは、黒魔術に対抗すべく開発された魔法。これが魔法学校で習う魔法ね。」
「おう。」
「そして本題だけど魔力探知と魔力察知には大きな違いがある。まず、ドロガの言った通り魔力察知はアルタンの使う黒魔術の魔法。これは相手の魔力を推量ったりするだけじゃなく、1度見た相手かつ、目の届くところならどこにいるか魔力の移動でわかる。」
「そういや、そうだったな」
「そう。ただ魔力察知は相手の魔力を推し量ることしか出来ない」
「なんだ雑魚か。」
ぽかっと殴られたドロガは大袈裟に頭を抑えた。
「でもドロガの言うことも一理ある。黒魔術から派生したと言っても違いないからね。」
「マリナは魔力抑えてんのな」
「うん。3歳から訓練して6歳には使えるようになったよ」
「エリートじゃん」
そういうドロガにマリナは少し誇らしげになった。
「そういうドロガも魔力めっちゃ抑えてるよね」
「ねぇんだよ。」
「え?」
マリナは聞き返した。
「ないんだよ!魔力が!」
「え!?魔力の無いレベルじゃないよ!なんで生きてられんの?」
ドロガがうるせぇと後ろをむくと男が立っていた。
「そこの2人」
彼は60歳程の男だった。
「冒険者かい?」
「そうだけど」
「もし良ければ依頼を頼みたい」
男は人差し指と親指でお金のジェスチャーをした。
「どんな依頼だ?」
「この町にあるエイル様の銅像を磨いて欲しい。」
「報酬は?」
食い気味にマリナは、聞いた。
「銀貨5枚と…。あとは大魔法使いロザリーの著書だよ」
マリナはそれを聞いて興奮した。しかしドロガは誰かさっぱりわからなかった。
「白魔術の大魔法使いロザリーは数々の功績をのこした魔法使いで、魔族の上位騎士”九鬼”の内の3人を討伐した人なんだよ!」
マリナは続けた。
「アルタンが追っていった、黒魔術の大魔法使いダイレン肩を並べる人なんだ。」
「へー。アルタン凄いやつのとこに行こうとしてたんだな」
「ロザリーっつーことは女か?」
そう聞くドロガにマリナはまだ興奮が収まらずにいた。
「そうだよ。とにかくロザリーは強い女性でね、白魔術の魔法使いにとって彼女は憧れの的なんだ。」
そしてマリナは男に聞いた。
「でもいいの?こんな大切なもの…」
「いいんだいいんだ。それくらい大変な依頼だからな。 」
そして食い入るようにドロガは言った
「とにかくこう話してちゃだな、何も始まんねぇ。エイルの像の所へ連れていってくれ」
「あぁ、そこに見えるやつがエイル様の像だよ」
街の奥に、ある林からちょこんと飛び出た頭が見えた
「嘘だろ…デカすぎだろ…」
そこには5メートル程の巨大なエイル像が堂々とそびえ立っていた。
***
「あーもー引き受けなきゃ良かったぜ」
「ばか!ロザリーの著書が手に入っただけ最高だよ。」
「そりゃ、マリナの尺だろ?」
そしてドロガは疑問を呈した。
「ありゃ?そういや、サワコフ村にはこんなの無かったよな」
「なんかね、エイルがサワコフ村に到着した時、この町は疫病に襲われたんだって。そこでオイルが現れて疫病は根絶されたから像を立てたの。」
そうマリナは説明を始めた。
「反してサワコフ村はエイルが死後もゆっくり過ごせるように像を立てなかったんだって。まぁ、お金がなくて作れない事からの後付けかもだけどね。」
「すげぇんだなエイルって」
「あーしも治癒魔法習おうかな」
「いんじゃね?」
「いや冗談だって」
とマリナは笑った。
「でさ、この像、マリナの魔法でツヤツヤにできないのかよ。」
「墓のタイルくらいならツヤツヤにはできるけどこの大きさは無理だわ」
「ちぇ。めんどくせぇな。」
「じゃあ、ドロガは下の方やって。」
「おう…って上の方は…」
そうドロガが言った時には既にその疑問は絶たれた。
「マリナも、空飛べんのかよ!」
「まぁね〜」
「じゃあ!上の方頼むな!」
2人は作業に向かった。
「よっしゃやりますか」
ドロガのげんこつをぶつけてゴンという音を境に掃除のゴングがなった。、
魔法が発する音を聞いてドロガは上を向いた。
「おい!さっき魔法じゃ無理って言ってたじゃねえか!」
「確かに無理だよ。飛びながらだし。でも頑固な汚れを取れるくらいなら魔法は使えるよ。」
「じゃあ、下の方も手伝えよー」
わかったわかったと笑いながら話すマリナにドロガはどこか不服な態度だった。
***
その夜二人は夕食、入浴を済ませ、マリナはドロガの髪を乾かしていた。
「ドロガまじで、髪乾かしたことないわけ?」
「おー。必要なかったからな。」
マリナは片手で熱を片手で風をだし温風を作り出していた。
「アルタンと2人の時はどうしてたの?」
「いやーあいつはマリナ見てーに便利魔法使えてなかったからな。」
「ふーん。」
マリナは少し嬉しそうに笑った。
「あ!やぱいちょっと待った」
ぶおっと、火花がちったかと思うとマリナは呆然としていた。ドロガの髪がチリチリにっていたのだ。
「ちょっと!おい!何してくれてんだよぉ!」
ショックを受けたドロガは鏡を見て落胆した。
「ごめんよー」
そう申し訳なさそうにいるマリナにドロガは言った。
「くっそー。おれにも魔法があればやり返せるのに…」
「それよりさ。もうこんな時間だし」
と時計を出して見せるドロガにマリナは反応した。
「使ってくれてるんだ。」
「あたりまえだ。友達から貰った大切な宝物だからな。」
マリナは欠伸をしながら言った。
「じゃ、寝よっか」
「そうだな」
「おやすみ」
***
翌朝ドロガは市場でかったスタッキングで不器用ながらに作ったカフェラテを飲んでいた。
「お、こっちの方が美味いぞ。今度アルタンに教えてやろう。」
「あーっ。頭いてぇー死にてぇー」
「マリナそれいっつもだな」
その日の昼間ふたりが出発する時、依頼をしてきた男が牛車に乗って2人の方へ来た。
「まぁ待て。その感じだと急ぎの用だろう?俺の牛車に乗っていけ。」
「いいのか!」
「町の周りは森林に囲まれてる。迷っちまったら元も子もない。最短距離で向かうぜ。どこへ行く予定だ?」
「エキサイトだ!」
「おうし!長くなるぜ? 早く乗れ!」
こうしてふたりは新しい足を手に入れて、また、エキサイトへ進みはじめた。




