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第5話 母親

ドロガとアルタン、そしてブラストが北西に歩き始めて2時間。とうとうブラストが音をあげた。


「もぉ無理!おれ死ぬ!もう無理!」


「はぁ…まだ、半分あるぞ?」


アルタンは呆れたように言った。現在、ファクターの根城へ向かって行く一行は直線距離約半分を越えて、ひたすら道のりを歩いていたがブラストの限界宣言で一旦キャンプをすることになった。


「はぁ…やっと一息できるや」


と、水をがぶ飲みするブラストに、計画的に飲め!と制止した。


「そもそも村のくせにデカすぎるだろ…」


アルタンは何もない原っぱに杖を軽く振った。するとふわっと花が咲き誇った。それを見てドロガとブラストは目を見開いた。


「なんだこれ!」


「植物を成長させる魔法だよ。生えかけの花を成長させて咲かせたんだ」


2人は魔法への大きな可能性を感じていた。


ドロガとブラストが花が咲き誇る原っぱであそんでいる中、アルタンはファクターとの戦いに心臓を速く鳴らしていた。そこにドロが、アルタンにおもむろに近づいて、ぽすっと頭に何かを乗っけた。


「たんぽぽだよ。アルタン。お前は気負いすぎだよ。もっと楽に行こう」


そう微笑む脳天気なドロガにアルタンは笑うしか無かった。


3人はまた歩き出した。


そこへ突如、1人の若い女が歩いてきた。


「もしかして冒険者の方々ですか?」


ドロガはそうだと答えた。


「でしたら食糧を分けて貰えないでしょうか……」


という女にこっちもカツカツなんだと説明をした。しかし返事は、でしたら食糧を分けて貰えないでしょうか、のみだった。何かがおかしいと感じたアルタンは女の足から紐が出てきていることに気づいた


その瞬間、アルタンは逃げろ!提灯アンコウの類だ!と叫んだ。すると突如地面が盛り上がり長い牙が生え揃った魔物が現れた


「「なんだこれーー!!」」


アルタンはすかさず杖を構え詠唱した。


「トロセアール!」


斬撃の魔法は魔物の牙にあたりヒビも作れなかった。ドロガも剣を振るも、2本だけへし折ることが最大限だった。


「魔力は弱いが頑丈すぎる!おれの魔法じゃ太刀打ちできない相手だ。逃げよう!」


魔力探知によって敵の居場所を捉えた。


「地面に潜り込んだ!ドロガ!お前の下だ!」


「え?」


バコン!地面を割って出てきた魔物に、ドロガはすんでのところで避けきれた。 しかしパニックを起したブラストはアルタンに殴りかかった。


「くっそ、パラリシス!」


アルタンは麻痺の魔法を不本意ながらもブロストに放ってしまった。麻痺するブラストを抱え魔物から逃げるアルタンとドロガはどんどん森の中に入っていった。一旦は巻けたと思い2人は息が上がったまま座って木に寄りかかっていた。膝に手を起きドロガは言った。


「よかった。死ぬかと思った」


というドロガに死なねぇだろとアルタンにツッコミを入れた。

その夜、3人は服を洗いキャンプをすることになったのだが。そこでブロストはアルタンが麻痺の魔法を使った事に憤撮っていた。アルタンもその態度に苛立ち、険悪な雰囲気になっていたのだ。ドロガは2人をなだめつつ仲直りを計っていたものの、これになんと二日足止めを食らってしまった。


そして、村の頂点にある入口から10キロ強の短い旅をた3人は、、ファクターの豪邸に着いた。


「ここだな。」


そこには周りの自然とは不自然に目を見張るような大きな豪邸があった。1階建ての平屋でグレーを基調としたモダン的な建造物だった。 鍵のかかってない扉をゆっくりと開けるとそこには誰もいない薄暗い空間だった。


「マジで魔族いんの?」


ドロガは呟いたがアルタンは気を許せなかった。その時だった。奥から女の魔族が現れ、ドロガは思わず言葉を漏らした。


「女!?女だったの?」


「誰も男と名乗った覚えは無い。」


彼女はソアリンド村を牛耳る魔族、ファクターだった。自分は住んでいるだけ。村人が過剰に反応しているだけだと、ファクターは自分を擁護した。


「魔族の嘘は十八番だからな」


アルタンはそう言い払った。そこにファクターは呆れたように語った。


「全ては自分のものになりうるものだ。それに価値を見出すほど愚かなことはない。人を食べるのは豚や牛も同じことだ。」


「人間以外にも食べれるものがあるだろう?」


アルタンはそう言葉を発した。しかしファクターは反論する。


「人間にも豚や牛以外にも食べられるものがあるだろう?それと同じさ。」


アルタンはああ言えばこう言うのファクターに、苛立ちを隠せないでいた。すぐにアルタンは杖を構えた。


「パラリシス!」


麻痺の魔法はファクターに当たり崩れ落ちた。全員が驚愕した。魔力探知をしたアルタンは特に驚愕した。


「魔力が…無い!?いや、魔力を抑えてるのか?」


「抑えてなんか居ないさ。私は本当に魔力がない。」


麻痺が弱まってきたファクターはゆっくりと立ち上がった。そして彼女は建物の奥に3人を案内した。するとファクターは、影からは乳母車を引いてきたのだ。3人は驚きを隠せなかった。


「私の子だ。男の子だ。可愛いだろう?」


ファクターは一瞬の沈黙の後、話を続けた。


「私はこの子を産むために魔力を使った。人間も食べたし、食糧もうばった。地元の住民を多く手にかけた。それはこの子のためだ。しかしそれを正当化はするつもりはない。」


ファクターは身構えてる3人に言い放った


「私がいる限りソアリンドに幸せは来ない。」


魔族らしからぬ発言に3人はたじろいだ。


「母親になって初めてわかった。大切なものを奪われる気持ちを。」


ファクターは驚きを隠せない3人に話を続けた。


「私を殺してもいい。だからこの子だけは、幸せにしてやって欲しい。」


3人は何も言えなかった。そこには、慄然とさせられる殺人鬼でも凄惨なことを起こす魔族でも何でもなかった。ただそこにいるのは1人の母親であった。


「父親はタングルという喋りが訛った人間だ。彼に預けて欲しい。名前は知れてる。南西の方に行けば会えるはずだ」


「わかった。ギルドのある方角だな。」


ドロガは自然と落ち着いていた。悲しくもなく怒りもなく、ただただ感情がなかった。いや、殺していたのかもしれない。


ファクターはドロガに自らの子を預けた。


「さぁ、私を殺してくれ。」


ドロガは同情の目でファクターを見つめたがそれに対しファクターはにこりと笑って見せた。ファクターは自分の未来も子供の未来も見据えていた。


「ファクターもういいか?」


アルタンは最後に聞いた。それに小さく頷ずいたファクターは自分の死を覚悟したようだった。しかし唐突にドロガは叫んだ。


「待って!この子の名は!」


静まり返った空間の中で1匹の咲き誇る蝶


「サグラード。聖なる子だ。」


こうしてファクターは最期に子供の名を伝えるに至った。


「ポルボバイーラ…」


最期に背中から蝶の翼を羽ばたかせ サラサラと散っていくファクターは、最後にまた微笑んで見せた。まるで花が散るように。


***


後味の悪い討伐に3人は静かに歩いた。たまに市場で仕入れたミルクをサグラードに飲ませながら。途中、商人らしき人に馬が引かせるワゴンの後ろに乗って東の冒険者ギルドまで連れて行ってもらった。


冒険者ギルドに到達すると報告書を提出した。ギルドは依頼をクリアした冒険者に報告書を書かせ、フクロウによって確認に向かわせるといった提携を取っていた。


しばらくすると、ルージュからの報告があった。


「ファクターの死亡が確認できました。本当にありがとうございました!」


3人は複雑な気持ちであった。多大なる報酬をもらい、冒険者ギルドを出て、ドロガはふたりと宿屋で別れた。タングルにサグラードを受け渡すためだった。


タングルの酒場を求め、人に聞いて回ってやっとの事でたどり着いた。既に街はお祭り騒ぎだったがドロがは興味がなかった。タングルの店の前で立ち止まったドロガは、大声を出して泣く男の声が聞こえた。何時間たっただろうか。ひとしきり泣き終わったタングルは、店の外のドロガの気配を感じ外に出た。


「なんやお前今日は休業やで……って、ピザ屋の時のガキやんけ!」


「あぁ。そうだよ。」


タングルは赤ん坊を見てそれは?と聞いた。


「ファクターとあんたの子だ。」


タングルは再び泣き崩れた。ぐしゃぐしゃの顔のまま赤ん坊の名前を聞くタングルにドロガは教えてやった。


祭りは3日3晩続いた。未だにドロガとアルタンは祝福する気にはなれなかった。


「こんなに後味のわりぃ依頼は初めてだよ。」


そういうアルタンに全くだ。とドロガは言った。ブラストは大いに楽しんでいた。村の南側の中心部にいると囃し立てられるため少し歩いたはずれの切り株にドロガとアルタンは座っていた。2人だけでで木でできたお互いのジョッキをコツンと鳴らした。


***


「いやぁ、なんか、旅ってちょーおもしれぇもんだと思ってたよ」


と、ドロガは伸びをしながら言った。


「意外とそうでも無いだろ?」


「そうだね。でも今回のは重すぎた」


「ありゃ特殊中の特殊だ。」


そう話す2人はブラストを宿において食糧調達に出かけていた。


「サーモンだ!美味そう…」


そういうドロガにアルタンはまた、制するように諭した。


「だめだ。保存が効くゴルチエパンとかみかんのピールとか。そういうものを買うんだ。あ、あと水も必要だな。酒もいるな」


淡々と買い物をするアルタンにドロガは少し落胆しながらアルタンの横を歩くのだった。


***


「じゃ、俺たちもう行くよ!」


ドロガはブラストに言った。


ブラストはドロガに治癒者として誘ったがソアリンドに恩を返し切ってないと断ったのだ。


「たまには遊びにこいよな。」


そう言うブラストは涙ぐんでいた。今までの恩と絆がまた、悲しみを深くさせた。


ブラストが手を振る中2人は後ろを振り返らなかった。旅を共にした仲間との別れは心苦しいものだったからだ。


後ろ髪を引かれる思いでドロガとアルタンは、少し太った財布と共にネペロへ歩き始めた。


ソアリンド村の最北端に位置する村の出口から歩きすすめ、少しずつ自然が増えていき、薄暗い森に入ろうとしていた。


「多分この先ずっと森だ。ソアリンド村はここで終わりだな。思い残すことは無いか?」


ドロガは答えた。


「ないっ!次だ!次はネペロへ出発だ!」


そう意気込むドロガにアルタンはほっとした表情でコンパスを見た。


「ここから真っ直ぐ北上か。4日はかかるぞ行けるな。」


「なんでおれが荷物持ちなんだよ… 」


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