第35話 透明人間
「……そうしてフェルーノはドンと呼ばれるに至ったってわけだ。あくまで噂と推測で脚色された話だろうけど起きたことは事実。ドン・フェルーノがボスになってから組織の人間が暴れ始めたのも確かだ。」
「すげぇ話を聞いたみたいだな」
そういうドロガを押しのけてクロスは聞いた。
「金より命……フェルーノは何故命を欲しがるんだ?なにか狙ってるのか?」
「全てに復讐するためさ。ヤツを追いやったマグヌスへのな。」
「そんなんでターンバックストリートを支配できると思ってるの?」
そう聞くマリナにプロテンスは「さあな」と首をかしげた。
「お前グラディウスだろ。」
急なドロガのその言葉に3人は身構えた。
「さっきからフェルーノの話だとか「全てに復讐するため」だとか。あたかも自分が見たかのように断言できている。まるでそばで見てきたように!グラディウスなんだろ?プロテンス!」
プロテンスは少し笑った。
「何がおかしい」
そういうドロガにプロテンスは答えた。
「察しがいいな。でも、ダウトだ。俺はグラディウスじゃない。正確に言うとグラディウスに潜伏していた人間だ。」
あまりの衝撃に3人はその場で絶句した。
「潜伏って何のために…」
そう言いかけたドロガを無視して話を続けた。
「俺はプロテンス3号。連邦捜査局局長代理レグルスだ。完全無欠外部から迷い込んだあんたらの味方だ。」
「局長代理ってすげぇな!」
「まぁな。俺はここターンバックストリートにてプロテンスとして生きている。ここは犯罪が多いからな。何かあった時すぐに対応できるようにしている。特にグラディウスには目を光らせているんだ。義手屋はただの趣味だ。」
「すげぇよ!レグルス!でもこんなこと喋っちまっていいのか?」
そう聞くクロスにプロテンスもといレグルスは言った。
「俺はお前たちを信用しているから話しただけだ。それに裏切ったとしても殺せるからな。」
「言うな…?」
そうニヤつくドロガにレグルスは笑いかけた。
「でもこれからどっちで呼んだらいいわけ?プロテンス?レグルス?」
そう聞くマリナにレグルスは答えた。
「どっちでもいい。好きにしろ。あんたら名前は?」
「名乗り遅れたな。俺はクロス。こっちがドロガでこっちがマリナ。」
それ聞いたレグルスは「よろしく」と軽く手を挙げ、ロディアに義手と義足を付けた。
「これであとはロディアの努力次第で滑らかに歩けるようになるよ。」
「ロディア。歩けるか?」
そう手を伸ばしたクロスをロディアは掴んだ。
「ありがとう…クロス」
そしてロディアはクロスの目を見て言った。
「昨日からずっと優しくしてくれてたのはクロスだったんだね…。ありがとう。今ならよく見える。」
そう言われたクロスは少し紅潮した。
「さて。俺はお前らを外の世界に出してやらないかん訳だが……そういう訳には行かなそうだな。なんか訳があんのか?」
「あぁ。おれたちはロディアと約束したんだ。妹を見つけるってな。」
そういうドロガにレグルスは呆れたように言った。
「そうか。俺はあくまでここの人口を増やさないことに尽力せねばならない。お前らの手伝いはできねぇよ。」
「あぁ。ロディアの義足と義手。それだけで感謝してるよ。」
「そういや、義足と義手を作るにあたってポイントが加算されるんだ。」
そうわざとらしく言うレグルスに4人は視線を集めた。
「確かその中にターンバックストリートツアー券があった気がするなぁ…。」
「来てくれんのか!?」
そう笑みをこぼすドロガにレグルスは言った。
「しかし、まだポイントが足りてない。これからターンバックストリートで1つミッションを頼むよ。もちろん俺も同行する。子羊ちゃんには危ないからな。」
「ミッションってなんだ?」
「あぁ、」
***
「ここの半グレ集団の基地”ホロノウス”を殲滅することだよ。」
レグルスの店を出た、ドロガ、マリナ、クロス、ロディア、レグルスの5人は半グレ集団ホロノウスの殲滅に向かうことになった。
「ちょーっと待った! レグルス!それってめっっちゃ、危険なんじゃない?」
「半グレ集団はだいたいグラディウスに吸収されるか淘汰されるかなんだがここホロノウスだけは自立してる。」
「なんだ、やべえのか?」
「あぁ。このまま放置してるとグラディウスに並ぶ第2の勢力になりかねない。」
「でもそんなレベルの集団をどう一掃するってんだよ。」
そう聞くクロスにリグルスは答えた。
「あぁ。それはな、ホロノウスにグラディウスをぶつけるんだよ。」
「相打ちってことか?」
「まぁ、万が一上手くいったらそうなるな。」
リグルスは少し諦めたように言い放った。そして真剣な顔をして話し始めた。
「お互いにスパイ容疑者を作り出すんだ。お互いがお互いを疑りあって衝突を誘発する。そこで脆弱になった所ホロノウスをグラディウスに討ち取らせる。グラディウスはまた今度機会があったらだな。」
「なんでそんなにグラディウスを避けるの?やっぱ潜伏して思い当たる節があったとか?」
そう聞くマリナにリグルスは答えた。
「まぁな。ドン・フェルーノとは目を合わせたからな。あいつは人を殺すのに躊躇がないやつさ。目つきでわかる。それに触発された手下も馬鹿だ。イカれてる。ターンバックストリートの頂きを夢見てたゴロツキが逃げ出すほどにな。」
「ターンバックストリート…甘く見てたな。」
「ロディアの体もグラディウスにやられたのか?」
そう聞くドロガにマリナは怒った。
「ちょっと!ロディアちゃんにそんな事言わないでよ!」
ドロガは「わりぃな。」とどうでも良さそうに言った。
「とにかくホロノウスを叩く。これが最優先。それぞれ潜伏して扇動しよう。」
そう言いだしすレグルスに4人は意気込んだ。
「グラディウス班は俺とドロガ、ロディア。ホモノウス班はクロスとマリナで行くぞ。」
拳を合わせ気合いを入れるドロガと反面少し落胆するクロスを見てレグルスは笑った。
「お前らほんと面白いやつだな。」
そして5人はそれぞれ歩き出した。しかしそこにある男が覗き見をしていた。光らせた指を耳に当てボソッと話した。
「こちらプロテンス2号。プロテンス4号を発見。追跡します。」
***
マリナ、クロスで構成されたホロノウス班は本拠地ホモノウスハウスの前で立ち尽くしていた。
「スパイ容疑者を作るなんてどうしたらいいの!?」
「わっかんねぇよ!レグルスのやつ具体的に説明してくれなかったしよ!」
そうパニックになる2人はお互いため息を着いた。
「クロス。あんたが容疑者になりな。死にそうになったら助けてあげるから。」
「ふざけんじゃねぇよ!なんで俺なんだ!」
「か弱い女の子を囮に使うつもり?」
「おめぇはか弱くねぇだろ!」
「とにかく!クロスは囮り!」
「待て。これ、透明人間を作り出したらいいんじゃないか?」
「透明人間?どういうこと?どうやってその透明人間を作り出すの?」
そう疑問を投げかけたマリナにクロスは真剣に説明した。
「あぁ、手紙だよ。」
「手紙?」
「あぁ、ここらのギャングなら一日に何枚も手紙が来るはずだ。そこにあえて全て完璧な封蝋を使った空の手紙を送る。」
「どういうこと?」
「精巧な封蝋の手紙を無視できないからな。」
「それと透明人間と何か関係あるの?」
「その手紙にはある欠点を作るんだ。」
「欠点?」
「あぁ。途中で封筒が開くようにするんだ。」
「なるほど!それで誰かが勝手に読んだと勘違いしてスパイを作り出すってことね!でもどうやって封筒を勝手に開くようにするの?」
「それは…魔法で…何とかならねぇの?」
「残念だけど、そんな魔法はないよ。」
そう落胆するマリナにクロスはあることを思いつく。
「待てよ。シュバイデンの涙だ。」
「シュバイデンの涙? 」
「あぁ。ガラスを急速に冷やした時に起きる現象だよ。内側は脆く外側が固くなって、ある一定の場所に力が加わった時にだけ壊れるんだ。」
「もしかして!」
生気を取り戻したマリナにクロスは笑みを浮かべた。
「そうオランダの涙を封蝋で再現する。封蝋をした後に急速に冷やせばオランダの涙と同様、外側は強く内側には歪みがでる。ちょっとの衝撃で割れてくれる!」
「さすが!クロス。頭いい!」
「でもそんな簡単に冷やせる方法なんて…」
そう頭を巡らすクロスの背中をマリナはぽんぽんと叩いた。
「冷やすのはお任せあれ〜」
そう言って手から杖を取り出したマリナにクロスは顔を明るくした。
「まじか!でかした、マリナ!」
「じゃあ、早速封筒と封蝋、そしてスタンプも買いに行かなきゃね」
「準備出来次第!戦闘開始だ!」
***
一方、レグルス、ドロガ、ロディアで構成されたグラディウス班はグラディウスが経営するカジノ”デイカジノ”に潜入することになった。
「なぁ、レグルス!こんな堂々と入っちまっていいのかよ!」
「大丈夫大丈夫。木を隠すなら森の中って言うだろう?ここは人数の多さにセキュリティは脆弱だ。グラディウスに潜り込むならここからが最善だ。」
「おれらにはロディアがいるんだ。あんまり激しいことはできないぞ!」
「わかってるさ。でもロディアを連れてきたのは妹を見つけられるかもしらないっていう希望を持っているからだ。そうだろ?ロディア。」
「フィミアと会えるの?」
そう問いたロディアにレグルスは「運が良かったらな」と、にこっと笑って見せた。
「それはそうとしてカジノからどうやってスパイ容疑者になり済ませばいいんだ?」
そう聞くドロガにリグルスは言った。
「あぁ。俺は顔がバレてる。ロディアは、そう動けない。寄って、これはお前が適任だ。ドロガ。相手の懐に潜りこめ。」
「あぁ。わかった。任せてくれ。」
そしてリグルスはロディアに言った。
「ロディアは俺と一緒だ。1人にはしねぇよ。」
「ありがとう。安心する…。」
そういうレグルスとロディアに割って入るようにドロガが話し始めた。
「しかし…だ。おれはどうやってスパイ容疑者になればいいんだ?」
「あぁ。その事なんだが、とにかく完璧を演じるんだ。誰よりも完璧に。そして幹部に近づくんだ。そして適切なタイミングで綻ばせろ。」
「デイカジノからか?時間がかかりすぎやしねぇか?」
「いや、おれの名前を使え。俺が潜入していた頃の名前をな。」
「なんて名前だ?」
「ユダだ。お前の名は今日、ユダだ。」
そう首を傾げたドロガはリグルスに聞いた。
「だとしてもそれでスパイ容疑者になれると思わないが…」
「あとは俺が補填する。俺はロディアとフィミアを探そうと思う。」
「あぁ。必ず見つけてやってくれ。」
「今回の作戦はお前が要だ。頼んだぞ。」
「任せろ!」
***
そしてホロノウス班。
「これで作戦完了だ。」
そういうクロスにマリナはグーサインをした。
ホロノウス班はホロノウスハウスに空の封筒を投函し、透明人間の作戦が完了した。これでホロノウスには存在しないスパイ容疑者を作り出すことができたのだ。
「これはクロスの大手柄ね。」
「そうか。ありがとうな。でもマリナの冷却魔法がなければ完成し得ない作戦だった。助かったよ。」
2人は勝利を確信していた。
「あとはドロガ達だな。」
「ロディアちゃん連れてどこ行ったんだろ?」
「多分だが、ドロガにスパイ容疑を着せる作戦なんじゃねぇかな。その間レグルスとロディアは妹を探せるしな。」
そう推理するクロスにマリナは手を叩いた。
「ほんとだ!確かにそうだ!あーし達を2人にした理由になる!」
「あぁ。レグルスはグラディウスに顔がバレてるし、ロディアはスパイ容疑者にできないだろうからな。」
「でも向こうはどうやってスパイ容疑者を演じるつもりなのかな。」
「そりゃわかんねぇよ。アイツらのことだ。何とかやってくれるさ。」
***
「あーあー。こちらプロテンス2号。プロテンス4号がデイカジノに入ったことを確認しました。グラディウスと接触する可能性あり。どうぞ。」
「こちらプロテンス1号。プロテンス4号がグラディウスと接触することは避けるべきだ。必ず阻止しろ。」
「ですがプロテンス1号。プロテンス4号とグラディウスとの関係は今は断絶されたのでは無いのでしょうか。」
「いや。まだ関係がないとは言いきれないな。やつがグラディウスと接触しようとしているということはやつとグラディウスの間にまだなにかあるのかもしれない。」
「分かりました。では作戦βを開始します。」
「あぁ。そっちに魔法使い4人を向かわせる。必ず接触をさせるな。」
「はい!了解しました。デイカジノにて待機します。」
「そして今回特例として…」
一瞬の沈黙の後でプロテンス1号は言い放った。
「殺害を許可する。」




