第32話 頼まれごと
「いいか?みんな、ここからまっすぐ北に向かうとプロシェヴィルグへ到達する。そして、そこに到達した時、フリン達とはお別れだ。」
カタカタと進む馬車の中でクロスは地図を見て、説明していた。
一行はポーコ市国を抜け、プロシェヴィルグへ向かっていた。
「そうだ…忘れてた…フリン…やっぱ気変わんねぇかぁ?」
「馬鹿野郎。苦情は俺じゃなくてシエロに言えよ。」
プリンに縋るドロガにフリンは言い放った。
「しかし、エルトライゼ高原は広いな。」
クロスは不思議そうに言った。
「まぁな。ここら一体の国を飲み込むように占めているからな。山ん中じゃねぇから進みやすいぜ。」
そうオズゾーが答えるとフリンが口を挟んだ。
「山ん中だと何か問題があるのか?」
それにまた、オズゾーが答えた。
「あぁ。あるさ。こいつが歩きにくくなるだろ?そしたら到着までの時間が遅れちまう。」
「そうなんだな。大変だ。」
一方ドロガは今度はシエロに懇願していた。
「頼むよぉ…みんなで一緒に行こうぜ…?」
「ではドロガ様達が来ていただければいいのでは?」
「いや、そりゃあ無理だけどよ……」
「皆さんの事は一生忘れませんよ。」
「うぅん…。」
「まぁ、ドロガ。きっとどこかでまた会えるよ!」
そう励ますマリナにドロガは泣き言を言った。
「でもおれ、もう1年くらいだろ…?」
「いや、そうだけど……」
言葉を濁すマリナにフリンが加勢した。
「今生の別れじゃねぇさ。お前らが南下した時必ず会える。いつか必ず会いに来い!」
「わかった。いつかの再開を誓い乾杯!」
カンッと水筒をぶつけたドロガとフリンにみなが笑顔になった。
そしてオズゾーの馬車は何一つ滞りなく、プロシェヴィルグにたどり着いた。
「じゃぁ。おれたちはここまでだ。」
そう言うフリンにドロガは涙目で手を握った。
「必ず会おう!絶対に!」
「わーってるよ。」
そしてフリンはカバンを漁った。
「あぁ、後これ。」
そう手渡した箱を開けるとか4枚の金貨と12枚の銀貨が入っていた。
「カエルムの時の依頼、全額だ。」
「えっ…お前たちの分は…?」
「要らねぇよ。俺たちは小金持ちだからな」
「わりぃよ。そんな、こんな大金…」
「これはお前たちが稼いだ金だ。受け取ってくれ。」
「そうか。わかった。ありがたく受け取るよ。」
「じゃあ、そろそろ行くよ。」
そこでオズゾーがフリン達に提案を持ちかけた。
「おれはカエルムに戻るが…ここからカエルムまでなら乗っけてやるよ。」
「ほんとか!助かるよ。」
そしてドロガは呟くように言った。
「”また”な」
そしてフリンは大きく答えた。
「おう!”また”な!」
フリン達の影が遠くなり、そしてゆっくりと消えていった。
***
カァァン!
「静粛に!」
そう叫ぶ裁判長にランへルは顔を歪めた。
「いちいちそれ叩くのやめてくんねぇ?俺、それ苦手みたいだ。」
時を同じくして、ランへルはポーコ市国の裁判所の中央に立たされていた。
「被疑者ランへル。貴方には3件の職権乱用罪と2件の不正先導罪がかけられています。自覚はありますか?」
「あぁ、わーってるよ。北の門を開けたのと馬車を解放したのと…それから……」
「よろしいでしょう。では、あなたを懲役50年に……」
そう裁判を終わらせようとした裁判長に女が「異議あり!」と机を叩いた
「裁判官、テルーです。」
そう名乗る女はぺスカだった。
「ぺスカ?なんでこんなとこに…」
「被告人は違法入国者を国に入れ、不当な労働を強いていた事も考慮して判断すべきではないでしょうか。被告人には死刑を求刑します!」
そう言い切るぺスカにランへルは「お前味方じゃねぇの!?」と叫んだ。
「では、それ考慮して被告人を絞首刑に処す。」
「おっと、ほんとにこりゃまずいぞ。」
そう護送車に投げ入れられたランへルはある女がいることに気づいた。
「ティアコマラ!?あんたも捕まったのか?馬鹿だな。何やらかしたんだ?」
「バカ!あたしはあんたを助けに来たんだ。プロシェヴィルグへ亡命するよ。」
「はぁ?世界指名手配になったらどうするんだ?」
「こんなしょうもないことで世界は動かないよ。」
そこに馬へ繋がる窓が開けられた。
「ランヘルさん!」
「ぺスカ!なんでここにも!?分身か!?」
「ランヘルさんの金で護送車を買収しました!」
「まず、なんで絞首刑にしたんだよ!他になんかあっただろ!執行猶予とか!」
「懲役刑で連れ出すことは、隣の拘置所に行くのでまず不可能。それに執行猶予をつけるなんてことができる罪状じゃない。よって絞首刑にして刑場までの護送車を買収したのです!」
そう早口で言ったぺスカにランへルは頭が働かなかった。
「とにかく今の騎手は私です!北の門へ出ます!」
「北の門だと?どうやってあげるんだ?その俺の金で買収でもしたか?」
「いえ。今の私は公園長なので。」
「おうおう出世したなぁぺスカ。」
北の門が開くとランへルが乗る護送車が通り過ぎて走り去っていった。
「おい!テルースパークはどうするつもりだ?」
「私はテルースパークは大事です。でもランへルさん無くしてテルースパークは存在し得ません!」
「ぺスカ……」
「急なのですがドロガさん達にプロシェヴィルグへ追いつくのはどうでしょうか。」
「やだよ。あいつらとは馬が合わねぇからな。ワイワイするのは苦手なんだよ。それにティアコマラ。あんた大量の呪物はどうしたんだ?」
「あんたを助けるための手付金だよ。売られた恩を返すためにね。」
「ははっよく言うぜ。」
そう笑いかけたフリンに、ティアコマラは睨みをきかせた。
「これで貸し借りなしさ。わかったね?」
「あぁ、わかった。でも、プロシェヴィルグは呪術を禁止してる。どうするつもりだ?」
「あの時までずっとリューゲで上手くやってきたんだ。大丈夫さ。」
「随分楽観的だな。」
「あたしの読みは外れない。そして”プロシェヴィルグでは、あたしらは死なない。」
***
一方プロシェヴィルグに難なく入国し宿を取りいちばん近い村で買い出しをしていた。
「いやぁ、宿取れてよかったな!」
そう陽気に話すクロスに比べドロガとマリナは今だに落ち込み続けていた。
「お前はいいのかよ…フリンと仲良かったじゃねぇか。」
「元気出せよ。またきっと会えるって。」
「いいよな。お前らは未来あって。おれなんてあと1年あるかないかだぜ?」
「いや、そういう問題じゃないだろ!」
「いや、そういう問題だね。お前たちはきっと会えるさ!必ず!約束したもんな。でも!」
そう言い放ったドロガは弱々しい声で言った。
「おれは……1年さ。到底無理だよ…?」
「じゃあ、正直なことを言ってやるよ。もう、あいつらとは会えない。俺たちでもだ。情が湧いたのか知らねぇが、どんだけ旅しても所詮他人だ。」
「いや…そんなことない……アルタンとも約束したんだ。仲間である前に友達だって……きっと会えるって……」
そう弱音を吐くドロガにマリナは優しく諭した。
「ドロガ。クロスは何も意地悪で言ってるわけじゃないの。でも、実際、ほとんど会えないの。でも、あーしも信じてるよ。きっとアルタンやフリン達はどこかで会えるって。」
「何日も旅をしたんだ。情だって移るさ…… 」
そうポツリと言い残しドロガは反対方向に歩き始めた。
「ちょっ!どこ行くのドロガ!」
「先に宿に戻ってる…」
そう言い残しドロガは立ち去ってしまった。
「ちょっと何言ってんの!」
そうマリナはバシッとクロスの背中を叩いた。
「でも事実だろ?」
「事実じゃないよ。あーし達友達だもん。他人なんて言わないでよ。」
そう言い放ったマリナは一呼吸置いて呟くように言った。
「……ほんとに思ってるの?」
「いや、つい、口をついただけさ。悪かったよ。」
「じゃあ、後でそれ、ドロガにいって謝りなさいね。」
「あぁ。わかったよ。」
「じゃあ、買い出し続けよっか!」
***
「ただいまー。ってドロガ何その顔色。終わってんね。」
そういうマリナにドロガは「あぁ。」としか返事しなかった。
「なぁ、ドロガ。さっきはごめん。」
そう言ったクロスにドロガは顔を上げた。
「もう会えないって言ったけど他人って言ったけど、全部思ってない!俺たちは正真正銘の友達だちだ!ほんとにごめん!」
少し顔色が良くなったドロガはクロスに向き直った。
「おれもきっと会えるってどこかで信じきってた。でもクロスは現実を教えてくれたんだ。その点では感謝してる。おれも勝手に帰っちゃって悪かった。ごめん。」
そしてマリナは大袈裟に手を叩いた。
「はい!もう終わり!仲良く行こ?じゃあ、ご飯でも食べべよっか。BBQのセット借りてきたんだ〜宿の裏庭でやろうよ!」
「いいな!そうしよう!」
そう笑いながら立ち上がるドロガにクロスは安心したように笑顔を向けた。
ジュゥゥゥゥ
「うまそーーー!」
「いい?まだだよ。あと5秒……」
皆が時が止まったかのように動きを止めた。
「いま!」
3人が肉を取り口に頬張るとじゅわっという肉汁とホロホロとした口当たりの食感が同時に襲ってきた。そして端っこの焦げた苦味もまた旨味を引き出した。
「「うめぇぇ!」」
「でしょう〜。あーしの故郷では炊事当番だったからねぇ〜」
「天才だな!こりゃ!」
そう絶賛するクロスにマリナは鼻が高くなった。
「にしてもこの肉うめぇな。何の肉だ?」
「ほんとバカね。味の違いがわからない馬鹿舌に食わせるにくじゃないんだよ?」:
そう自慢げに言うマリナに恐る恐るドロガは聞いた。
「え、もしかして……牛肉か…?」
「せいかーい!」
「まじかよ!どこでそんな金…」
そういうクロスにマリナは話した。
「もちろん!フリン達から頂いたこのお金でね。」
「そんなの大丈夫かよ。湯水のように使ってたらすぐ無くなるぞ?」
「プロシェヴィルグへ来た記念だよ。やっぱり革命前夜はこうじゃなきゃ」
「何が革命前夜だよ!」
そう笑い飛ばすクロスにマリナはつられて笑った。
「何笑ってんだ?」
肉を頬張るドロガにクロスとマリナは驚愕した。
「「食いすぎだ!お前ぇ!!!」」
***
翌朝…
「まだ腹いっぱいだよ。」
そう出てきたドロガに先に外に出てタバコを吸っていたクロスが笑った。
「そりゃ、お前あんだけ食ったらそうなるわ。」
「でもクロスも結構食べただろ?」
「ドロガ程じゃねぇよ。」
「でもなんか。静かだよな。前みたいに騒がしくない。」
そう言うドロガにクロスは優しく話した。
「これが本当の旅さ。少し夢を見てたくらいに思うのがいいんじゃないか?」
「そうだな。でも、おれ、あいつらのこと好きだったよ…」
「俺もだよ。ドロガ。」
「大所帯だと色々面倒だしね〜。」
そう唐突にマリナが話しかけてきた。
「おう、マリナおはよう。頭痛はいいのか?」
そう答えるようにドロガは声をかけた。
「おはようドロガ。今日はね〜調子いいみたい。」
そう答えたマリナは声を張って言った。
「さてプロシェヴィルグの探検にでも行きますか!」
「「さんせーい!!」」
「…と言いたいところだが、」
急にテンションを下げたクロスは言った。
「この宿の店主のマイケルっていうやつに頼まれごとをしちまってな。探検はそれ片付けてからでいいか?」
「なーにやってんのー?」
「ふざけるなよー」
そう野次を飛ばすドロガとマリナにクロスは弁解しようとした。
「酒で酔ってたんだ!でも1度引き受けちまったんだ。なかったことにはできないだろ?な?」
「だとしてもおれらの探検に支障をきたすぞ?」
「いや、まぁ、そうだが……たのむ!着いてきてくれ!」
そう頼み込むクロスにドロガは根負けしたように言った。
「まぁいいよ。みんなで行こう。」
「いいのか!?……マリナは…?」
「仕方ないね。ドロガが行くなら行くよ。」
「ありがとう…助かるよ!」
歓喜の声をあげるクロスにドロガとマリナは笑いかけた
「で、どんな依頼なんだ?」
「あぁ…えっと……ペンダントのお届けだ。」
「ペンダント? 」




