第31話 そういえば
その日の夜、みなが自室に戻った後、マリナはドロガを呼び止めた。
「ん?なんだよ。」
「ちょっと付き合ってよ。」
2人は邸宅の外に出た。
「あの…昼の1件、体大丈夫?」
「大丈夫だって!そのことはマリナがいちばん分かってるだろ?」
「いや、そうだけどさ、なんかコアとかがあったら潰されてたりしないかな…って」
「いや、だったら生き返ってねぇって。」
「でも呪術なんてさ、かけられてるの初めて見たし、ドロガもかけられたのって初めてでしょ?」
「そうだな。死ぬほど痛かった。死なねぇけど。」
「痛すぎてアホになってたりしない?馬鹿だったりしない?頭おかしくない?」
「ちょっと途中からおちょくってるだろ。」
マリナが笑いかけた後、ドロガが話し始めた。
「マリナこそだよ、結界の時、派手にぶっ放してたけど、それ以来ずっと手が震えてる。大丈夫なのかよ。」
「えぇー?なにそれ。そんなこと言うタイプじゃないでしょ。」
「いや、クロスに聞いてるんだ。魔力ってのは、使えば腹も減るし眠くもなるもんなんだろう?早く寝なくていいのか?」
「ドロガにしては鋭いね。隠してたつもりだったんだけど」
「もう腹減ってねぇのか?」
「まぁまぁかな。食べすぎたら太っちゃうしね。」
そこに戸を開け出てきたのはクロスだった。
「おぉ、お前らもここにいたのか。」
「あぁ、クロスは?」
「タバコを吸いに来た。」
「そうか。じゃあ、3人揃ったところで、おれの身の上話だが、推測を話したいと思う。」
「「推測?」」
「あぁ、マリナとふたりで旅していた時バーグリーブって魔物にあったんだ。」
ドロガはマリナとクロスに自分の話を稚拙ながらも話した。
「まじかよ……やべぇ話を聞いたみてぇだ。」
そう言うクロスと同様マリナも驚いていた。
「まぁいい。今日は寝よう…眠たくなってきた。」
そういうドロガにマリナは言った。
「じゃあそろそろ戻ろっか。せっかく温まった体が冷めちゃう。」
「そうだな。クロスは?」
「もう一服してから戻るよ。」
***
翌朝…
「降りてこい!今日も朝ごはん作ってやったぞ!」
そう言うランヘルにマリナとクロスがどついた。そして冒険者に見合わない巨大なテーブルを8人で囲むことになるなど冒険者たちは思いもしなかった。
「いいか?ここ一体では魔族、魔物の存在がとことん遮断されている。冒険者ギルドもない。よって、あんた達の依頼とやらもないだろう。」
「まぁね。ギルドあっても使えないし。あーし達不法入国者だから」
そう呟いたマリナにランヘルは血の気の引いた顔で叫んた。
「不法入国!?ダメだろ!それは」
「そうか。それがどうかしたか?」
「どうかするさ!今頃お前たちを血眼になって探しているはずだ!こんな家に立ち戻っている場合じゃねぇ!」
「まぁ、それはいいだろ。実際のところ捕まっていないんだ。」
「いや、お前たちが良くてもこの俺が悪いんだ!今すぐ東の門に向けて迎え!早く町から出るんだ!」
そう焦るランヘルに落ち着いている顔でドロガは言った。
「俺たちは北へ行きたいんだ。もうこの国は出るよ。」
「北の門は厳重だ。お前ら如きが入っていい場所じゃねぇ!」
「あーし達なら大丈夫!」
「え…何を根拠に……」
「おれたちは最強なんだ!」
「はっははっ。頭おかしいだろほんと。まぁいい。北の門をどうにかして開けてもらおう。公園長の職権乱用だ!北に連れて行ってやる!」
***
「ランへルのやつに「先に、北にある廃村で身を隠せ」とは言われたが…。ほんとにここか?」
一行はランへルがエドワードから返してもらった馬車をカタカタ言わして北の廃村に統治や膜していた。
しかしそこには活気に満ちたそこだけ光が当たっているような、そんな村が広がっていた。
「廃村なんて嘘じゃねえか。」
「ここじゃないんじゃない?」
そう謎を深めるばかりのドロガとマリナは首をかしげた。
「あの…お兄ちゃんたち!」
そう声をかけたのは背丈の小さな少年だった。
「どうしたの?」
そう声をかけたマリナに手紙を渡した。
「あのねあのね。僕村の外には出られないから、これ隣の村にいるお母さんに渡して貰えないかな?」
「いいよ。」
「良くないだろ!急いで廃村を探さないと!」
そう喚くフリンにマリナは「いいでしょ!ランヘルがすぐ来るとは思えないし!」と答えた。
「ぼくの名前とお母さんの名前を教えてくれる?」
「うん。僕はマネス!お母さんはウィンクルス」
「古風な名前だね。わかった。必ず渡すと約束するよ」
「ありがとう!」
そう少年が言った瞬間さっきまでの村の活気が消え、廃村が姿を表した。
そしてそれに、皆が背筋を凍らした。
「まじか!なんださっきの!」
「わかんないよ!」
「こわいです!」
そうパニックに陥る皆にフリンが叫んだ。
「ただのゴーストだ!死にきれない人が亡霊となるがそれに意志はない。同じことを繰り返すだけだ!」
「でも手紙は実態だよ?」
「んなもん知らねぇよ。とにかくここで待とう。」
そう切り株に腰掛けたフリンにドロガとマリナは立ち上がった。
「おれたちは手紙を届けに行く。」
「バカじゃねぇの?ランへルにここで待つよう、言われただろ!」
「それでもおれたちは行くよ。約束しちまったんだ。」
「バカ。だめだ!」
そういうフリンを横目にオズゾーがある提案をした。
「俺の馬車で行けばすぐに行ける。1時間かからないだろう!」
「おい!オズゾー!お前の馬車がなければ…出発出来ないだろ!…」
そう口を挟むフリンにオズゾーは笑って見せた。
「仲間を見捨てるなんてできない。」
3人が乗る馬車はあっという間に小さくなった。
「馬鹿だよマジで。」
「まぁ、いいじゃないですか。」
そう励ますシエロにフリンはため息を着いた。
***
「いくら国でも隣町ならすぐ着くさ!最高速度で突っ走るぜ!」
林を駆け抜けていく馬車は数十分で隣町に着いた。オズゾーと馬車を置いて2人は村に入った。
「ここか?」
「そうっぽいね。」
そこに現れた少年にドロガは尋ねた。
「ウィンクルスって女を探しているんだけど知ってるか?」
「うん!ウィンクルスさんは有名人だよ!80歳を超えているんだ!」
「そりゃ長生きだな。おれたちはその婆さんに用があってきたんだ。案内してくれるか? 」
そういうドロガに少年は「うん」と言い頷いて歩き出した。
「ここだよ。この家に住んでる。」
少年につられてウィンクルスの元に向かった。そこには左腕を失った老婆が座っていた。
「あんたがウィンクルスか。」
「なんだい。見ない顔だね。」
「マネスって言うガキからあんたに手紙を預かってる。あんたの子供だろ?」
「マネス…?あの子は50年以上前に死んだはずよ。」
「あぁ。その死んだマネスから預かったんだ。」
「そうかい。それをよこしてくれないかな?」
「もちろんだ。」
一通り目をこらしたウィンクルスは涙を流した。
「…あの時、あの時あの子はこんなことを思っていたなんて……」
「何があったんだ。」
そう聞くドロガにウィンクルスは涙を拭ってゆっくりと話し始めた。
「50数年前、わたしは君たちが見たマネスのいた村に住んでいたんだ。……」
***
「お母さん、本を買っておくれよ!」
そうウィンクルスの袖を引っ張るマネスにウィンクルスは雑に剥がした。
「マネス、お前魔法使いになりたいなんて言うんじゃないだろうね。」
「そうさ!僕は魔法動物を魔法で守りたいんだ!」
「いい加減になさい。うちにはそんなお金ありません!」
「えー。じゃあ!明日の僕の誕生日に本を買ってよ!」
「はぁ、困った子だね。ダメさ。」
そういなされたマネスはあからさまに不貞腐れた。しかしそう言ったウィンクルスにはある計画があった。
***
翌日マネスの誕生日、ウィンクルスはマネスより先に起きて誕生日の本をマネスの枕元に置いた。
しかし、騒々しい外が気になりウィンクルスは外に出た。
「魔物だ!!!」
そう叫び走ってきた男にウィンクルスは驚愕した。
「なんだよ?魔物なんか入ってくるわけないだろう?ここは塀の中さ!」
「北の門が何者かにこじ開けられたんだ!」
「そんな馬鹿な!!」
「もう村は終わりだ!」
その時だった。重い地鳴りがした瞬間ウィンクルスの家が潰されていた。
「マネス!!」
そう潰れた家に駆け寄ったウィンクルスは魔物を先導していた魔族に左腕を切り落とされた。
「我らを見て臆さないとは何者だ。」
そういう魔族にウィンクルスは完全に萎縮してしまった。
「ウィン……ウィンクルス」
「ウィンクルス。その名を覚えてこう。」
そう剣を振り上げた魔族に細い水が降りかかった。そこの元には水鉄砲を構えたマネスがいた。
「お母さん!!僕が引きつける!!逃げて!」
そこでウィンクルスはマネスを置いて逃げてしまった。
はぁはぁと左手を抑え息を荒らして走るウィンクルスは涙を流した。しかしそれはマネスへの懺悔によるものではなく、ただただ魔族、魔物への恐怖から来るものだった。
気がつくと、ウィンクルスは隣町まで走っていた。
「大丈夫かい!この村まで来た人は2人目だ。襲われたんだろう?魔物に。よく来たね。」
そしてウィンクルスは思い出したかのように言った。
「あの…子供が……まだ、村に……」
「もう無理だ。あそこは焼け野原だよ。」
「そんな…そんな…ごめんなさい。マネス…ごめんなさい…」
***
「…そしてわたしは実の子を囮にでもするかのように逃げて生き延びたんだ。本当は死にたかった。でも実際自分の目にあうと逃げてしまうんだよ。」
「そういうもんなのか?」
「いや、わたしが臆病なだけさね。」
「手紙になんて書いてあったんだ?」
「まるで最期を悟ったかのようにマネスは手紙を残してくれてた。それにはこう書いてあったんだ。」
2人は息を飲んだ。
「『 お母さん、本なんて必要ないよ。お母さんと一緒に暮らしているだけで幸せだよ』ってね。」
「ウィンクルス、おれはお前に同情も慰めもできない。」
そういうドロガにマリナは「ちょっと!何言ってんの!」と止めたが、ドロガは話し続けた。
「でも、真っ直ぐに後悔してる気持ちは尊敬するよ。おれがお前みたいに仲間を失ったら多分真っ直ぐには見れないと思うから。」
村を出ようとした2人は少年に例を言った。そしてマリナは少年に2つコインを渡した。
「いいの!?ありがとうお姉ちゃん!」
「チップだよ。お母さんには内緒だよ。」
そう言い、マリナはドロガに追いつき、2人はオズゾーの馬車に戻った
「なんだったんだ?」
「難しい親子の話だ。」
そういうドロガにオズゾーは笑った。
「よし!廃村に戻るぞ!」
***
一方その頃、クロス、フリン、シエロ、クルヴァと既に到着していたランへルは、3人の到着を待ちわびていた。
「おい!お前たち急ぐぞ。北の門を開けていられる時間は少ない! 」
そう馬を走らせるランへルを6人を載せたオズゾーが操る馬車が追いかけるように走った。そして十数分走った頃、8人は門にたどり着いた。
「ここが北の門…! 」
そう圧巻されるドロガを無視してランへルは前を指さした。
「いいか!ここから真っ直ぐ北に向かえ!プロシェヴィルグはその先だ!」
閉まりかける門に滑りでるように出たオズゾーの馬車はランへルに向き直った。
「じゃあな!ありがとう!」
そう手を振るドロガにランへルは笑いかけた。
「いい旅をドロガ。」
ゆっくりと。しかし着実に門が閉まっていくのを見てらランへルは「寂しくなるな。あの家じゃ。」と呟いた。その時だった。
「構え!!」
そう衛兵に一斉にランへルは槍を向けられた。
「テールスパーク公園長、ランへル・ストローク。貴方をこの場で職権乱用及び冒険者の不正先導の罪で逮捕させてもらいます!」
「おっと。まずい。」
***
「出たァ!おもしれぇ場所だったな!」
「テルースパークは、圧巻だった!」
そう思い出に浸るドロガとフリンを横目にマリナはため息混じりに「不法入国者の烙印もここまでね。」と呟いた。
「そうだな。でも衛兵の目から逃げてたのも面白かったけどな?」
そういうクロスにマリナが笑いながら言った。
「いや、無駄に疲れただけだよ。」
「さぁ、切り替えてください!プロシェヴィルグに行きますよ!」
そう声を張ったシエロにクルヴァが皆を呼ぶように手を叩いて紙を見せた。
『 ランへルは連れてこなくてよかったのか?』
「あーそういえばそうだな。連れてきたかった。」
そう頭を抑えるドロガにクロスは言った。
「まぁ、あいつには、公園長っていう仕事があるからな。どっちにしろダメた。」
カタカタといきなり動く馬車に皆が一瞬戸惑うとオズゾーが声を張った。
「行くんだろ?プロシェヴィルグ!こんなとこで雑談してる暇ぁないぞ。」
「あぁ。行くぞ!プロシェヴィルグ!」




