第3話 服を買おうな
ドロガとアルタンはソアリンド村へ歩き始めて丸1日が過ぎた。
一行はセトリア村を避け迂回したことにより肥沃地帯オリエントに入っていた。高い木々のある森に囲まれており近くの海からの潮風から身を守っていた。よく開けたオリエントは太陽の光を良く浴びて動植物がよく育つ環境だった。
「ほんと、可愛いなぁ」
ドロガは少しふくよかな小動物を追って木々の方へ向かったが、アルタンに首根っこを捕まれ魔物が潜んでいるかもしれないと、制止された。
アルタンはこの素晴らしい環境の中で1つ謎があった。すくすく育つ草木や動物とは裏腹に高かったであろう木は上部がへし折られていたのだ。
しばらく歩いた先に2人は道中に大きな湖を見つけ、喉がカラカラのドロガとアルタンはそこで水を水筒に汲んで飲んだ。
「あー、生き返るぅ」
「だな。」
ドロガとアルタンは久しぶりに一息つくことができた。
しかし平穏は長くは続かない。芝生から反射する光に、アルタンは嫌な予感がした。この芝生に反射する物は無い。アルタンはバリバリという音に反応し、叫んだ。
「ドロガ伏せろ!」
アルタンはドロガの背中をグッと押して伏せさせた。すると芝生がカサカサと揺れたかと思うと体長10センチ程の大きい大量の羽虫がバリバリと音を立てながら頭上を飛びかった。
「レミードフライだ! 」
興奮気味に話したドロガにアルタンは頭にはてなマークを浮かべた。
「毒の特効薬に使う虫だ!2匹くらいなら取れるかな…」
レミードフライをキャッチしようとぴょんぴょん跳ねるドロガにアルタンはホッとしたように、じゃあ無害なんだな。と安堵の表情を浮かべた。アルタンにドロガはニコッと笑って見せた。
レミードフライは強い太陽の光のみで成長する、極めて特殊な昆虫だった。そのため、太陽をよく浴びる為たまに草むらから出きたのだ。
「すり潰して薬に混ぜることで薬の効果が倍になるんだ!売れば銀貨3枚は手に入いるぜ!」
興奮して話すドロガとは逆に虫嫌いのアルタンは気分が悪かった。
そう言っていることろにレミードフライは太陽の光を反射し、奥に綺麗な虹を作った。
「こういうのも旅の醍醐味なんだよな」
とひたるドロガの横でびちゃびちゃびちゃとアルタンは嘔吐していた。
「虫無理なんだよマジで………」
ドロガはアルタンの背中をさすってやった。
***
オリエントに入って8時間後2人はだいぶ体力が削られていた。オリエントの中の地図は無記述でコンパスと勘で歩かなければならなかった。
「もう疲れたぁぁぁ」
とうとう駄々をこね始めたドロガにアルタンはため息を着いた。
「あのなぁ。歩き始めてから2日も経ってないぞ、そんなんで旅出来んのか?」
「うるへぇな…」
こうは言ってもアルタンも疲れが出てきていた。そんな時に限って不幸は訪れる。正しく泣きっ面に蜂だ。重く羽ばたく音が背後から聞こえてきた。
2人が振り向いた時はもう既に逃げるには、遅すぎた。翼を広げる、灰色のたてがみを生やした魔物はじっとこちらを見ていた。オリエントとは魔物が獲物を食らう、”魔物にとって”の肥沃地帯だった。
アルタンは黒魔術のひとつ魔力探知をしたが、勝機はなかった。たてがみの魔物はアルタンの約3倍の魔力を持っていたのだ。 絶望したふたりが向きなおったコンマ2秒後、その場の空気が赤く染められた。アルタンはドロガの返り血を浴びた。ドロガが引き裂かれたのだ。
しかし、アルタンは何故かドロガが引き裂かれたことによって冷静さを取り戻した。自分でも不思議なくらいだった。鼓動が落ち着いてくるのも分かった。すーっと息を吸ったアルタンは塵の魔法を冷たく詠唱した。
「ポルボバイーラ」
やはりあまりの魔力の差に魔法が効かなかった。たてがみの魔物は大きな体でアルタンに近ずき、爪を出して襲いかかった。しかしアルタンは、すんでのところで避けた。
「ポルボバイーラ」
またしても効かなかった。しかし少しずつではあるが着実にたてがみの魔物の魔力を削っていたのは確かだった。アルタンは至って冷静で、だからこそ塵の魔法を打ち続けた。自分の魔力が減っていくのも感じながら。
しかし、一瞬の隙を見逃さなかったたてがみの魔物は、アルタンに噛みつこうとした。近づいてくる鋭い牙に、アルタンは敗北を悟った。
心のどこかで何となく生き延びれると思っていた。自分の魔法なら波乱な旅でも何となく生き残っていけると過信していた。
引き裂かれた傷が癒えたドロガはアルタンを蹴り飛ばした。がきんっ!と、牙と牙が当たる音でアルタンは自分が生きていることに気づいた。
今ここで逃げることは無意味だと思ったドロガはダメ元ではあるが刃渡り10センチの小さなナイフで切りかかった。するとまるで巨大な大太刀で斬ったかの如くたてがみの魔物に大きな切り傷がパックリと割れた。たてがみの魔物はよろめいた。
「今だ!アルタン!」
そう叫ばれたアルタンはたてがみの魔物の魔力が著しく減っているのがわかった。
「ポルボバイーラ!!」
アルタンが杖を振るとたてがみの魔物は真っ直ぐたてがみの魔物に飛び、たてがみの魔物は塵となって消えかけていった。
「すげぇな!ドロガ!なんで生きてんだよ!」
興奮気味に歩み寄ったアルタンにドロガはついに答えることになった。
***
「じゃあ、2年間は不死身ってことか?」
アルタンは聞いた言葉をゆっくりと噛み砕いて聞いた。
「そう。2年たったら死ぬけどね」
アルタンは少し寂しかった。ドロガに残された時間はあと2年間だけであること。それに加え大切なことを自分に話してくれなかったことも寂しさの1つだった。
2人は幅8m程の道をまた、歩き出した。その頃にはもうとっくにたてがみの魔物は消えていた。ボロボロに破れ、血で汚れたドロガの服を見てアルタンは言った。
「まず、村に着いたら服を買おうな。」
そして間もなく今度はパチパチパチパチと拍手をしながら近づいてくる者がいた。髪は長く真っ黒でくせ毛の男だった。服装は貴族のような風貌でしかしどこか汚れっぽかった。
「私はブルージュ。ここ、オリエントに閉じ込められた魔族だ。可哀想な話だろう?50数年もここに閉じ込められたままだ。」
アルタンは察した。クラウン達が封印した魔族なのだと。横を見るとドロガは臨戦態勢を取っていた。
「待て待て。私は戦いを望んでいない。ただ、ここから出して欲しい。それだけだ。」
「そうしなかったら?」
恐る恐る、アルタンは聴いた。
「殺す。」
ドロガとアルタンに戦慄が走った。今まで見たことのない禍々しい魔力に圧倒されたのだ。ドロガは戦えるか?と、目配せをしたが、アルタンはもう塵の魔法を使うことができるほど魔力は残っていなかった。
「私を解放するにはふたつの選択肢がある。ひとつは私を封印したエルフを連れてくること。もしくは私以上の魔力を持つ召喚者にこの封印の外側に召喚者させること。どちらかだ。どうする?」
「オリエントを出たらどうする気だ。」
アルタンは聞き返した
「まぁ、気ままに暮らすよ。誰にも危害はくわえない」
「魔族は人を騙すことが十八番だろう。」
「じゃあ、なんで聞いたんだよ!」
苛立ちを見せたブルージュにドロガとアルタンは杖とナイフをそれぞれ構えた。 するとブルージュの背中からつるりとした桃色の触手のようなものが2本飛び出した。
逃げろと叫んだアルタンに気づくことなくドロガは心臓を貫かれた。アルタンは、バカヤローというように舌打ちした。
「ドロガ!今の俺たちは太刀打ちできない!」
「アルタン!塵は!」
もう、魔力がないと、返した。
「オリエントから出るぞ!」
「おおう!」
まともに走れないドロガはオリエントに首根っこを捕まれ引っ張られていた。しかし、10数歩走った時、ブルージュが伸ばした触手にアルタンの右肩が当てた。その勢いでアルタンは崩れ落ちた。
それを見たドロガは村の崩壊以来の喪失感に苛まれた。もし、アルタンが死んだら自分はどうなってしまうのだろうか。ドロガは涙を浮かべながらブルージュを睨んだ。
「そうそう!そういうのがいいんだよ!」
そういうブルージュはまた触手を伸ばしドロガを刺そうとしたがスっと避け、ブルージュに刃先を向けた。
しかし、ドロガの腹部はブルージュのもう1本の触手が貫いた。しかしドロガは今、引けば叩くチャンスはないと貫かれたまま走り近づいてナイフでブルージュの顔を横1文字に叩き切った。
ブルージュの頭は鼻の少し上あたりに直線を書くようにまるで大きな大太刀で切ったように切れた。ブルージュの頭は顔の下半分を残して落ちた。パクパクと口を動かしながら倒れていくブルージュを横目に
(また、あの時と同じ感覚だ…)
と、謎めいていた。そこでアルタンのことを思い出したドロガはアルタンを心配し近づいた。
「大丈夫か?アルタン」
「大丈夫。掠っただけだ」
ドロガは水筒の水でアルタンの傷を洗い、服を破いて包帯代わりに巻いた。服は初め、ドロガが自分の服を使おうとしたが流石に血に汚れていてアルタンが拒否しアルタンの服を使うことになった。
「改めて言うけど村に着いたら服を買おうな。」
***
アルタンは地図とコンパスを見ながら、北東の方角に進み、ドロガはそれについていった。高い木々が近づき、オリエントが終わりを迎えようとしていた。
誤字があったため改稿しました。




