第22話 重責
一行はヴィラキャンプを使いつつも、連日の土砂降りの中休みなく歩き続けていた。しかし程なくして全員が禍々しい存在に気づいた。
「待って…、あれなに…?」
雨の中姿が朦朧と見えていたがそこで全員の動揺を遮断し、シエロが口を開いた。
「あの角…魔族です。とても大きいですね…」
そこには3mほどある魔族がいた。
「いや…待ってください!小さいのもいます!それ含め3人です!」
3人の魔族はゆっくりと着実に近づいていた。
するとシエロは話し始めた。
「前衛にフリン様、クルヴァ様、ドロガ様!後衛にクロス様、マリナ様、私、の陣営を組んでください。!」
全員が頷くと大きな魔族は触手を出しぶるんと鞭を打つように動かすと走り近づいてきた。
「私たちは、パーグリーブ様の名の元ドロガ様の身柄を預かりに来ました。 」
「わりぃな。それは難しい話だ。 」
そういうクロスに脇目も振らずフリンが先に飛び出した。
「6対3だ!負けるはずがねぇ!」
それを鶴の一声にドロガとクルヴァも後に着いた。それに続くように小さな魔族も向かってきた。
「最初から戦闘開始をゴングを鳴らされるとは。バーグリーブ様も舐められたものです。」
と、少し不服そうな顔をした。もう一方の小さな魔族もうなづいた。
そして先程喋った小さな魔族が交渉を持ちかけた瞬間だった。有無を言わさずシエロが「シャトーノーン」と呟いた。攻撃魔法は小さな魔族の右腕と右半身の一部を削り取った。
血を垂らしながら息を切らす魔族を見てシエロは冷静に言った。
「そうですか。やっぱりこいつもコアは心臓ですか。」
前衛の3人はいちばん大きな魔族に立ち向かって言った。
そこでもう1人の小さい魔族が呟いた。
「ロイファー。今です。」
「おぉ。」
そういわれた大きな魔族は触手を振った。
「こいつは殺られるかもしれねぇな…」
そう呟くフリンにドロガが背中を叩いた。
「負ける想定のある戦いほど愚かなものはねぇぜ」
大きく頷いたフリンは剣をロイファーと呼ばれている大きな魔族に向けた。
「俺らはお前らを殺して先をゆく冒険者だ!」
「ふっ言うようですね。ロイファー右ストレート」
そういった傍から触手のコーティングで尖らした拳で右ストレートのパンチを繰り出した。
「もしかして!あのちっちぇ魔族がいないと戦えないんじゃねえ?」
そう話すドロガにクルヴァは真っ先に小さい魔族の首を横1文字に切り伏せた。
「やるじゃねえか!クルヴァ!」
「うぅうぅ」
司令塔を失い、唸るロイファーに重症をおった小さな魔族が塵になっていく間にポツリと「ロイファー暴れろ」と言った。その瞬間ロイファーは奇声をあげると同時に触手を四方八方に伸ばし暴れた。
「待ってください!もしかしたらこの魔族目が見えていません!」
そう叫ぶシエロは触手からの攻撃に弾かれた。
「シエロ! 」
そうよそ見をして叫ぶフリンも触手に当たった。それを見て盾の魔法を展開しながらマリナは叫んだ。
「シエロちゃんの言った通りこいつは目が見えてない代わりに耳がめっちゃいいんだ!」
みなが目を見開いた。
「できるだけ音を出さないように倒そう!」
「そんなんできるのかよ!」
攻撃を交わしながら弱音を吐露した。そしてクロスは怒鳴った。
「お前ならできる!死ぬ気で行け!」
「殺ってください!!クルヴァ様!」
そう鼓舞されたドロガとクルヴァは助走もつけず大きくとび上がり剣を真下に振り下ろした。
しかし、胸まで来た時、剣は止められた
「あれ?」
「それは心臓です!おそらく魔力で守っています!」
起き上がったシエロは杖を向けて言った。
「シャートーノーン」
エメラルドグリーンの閃光を浴び塵になっていくロイファーを見てドロガが呟いた。
「やっぱ魔法ってすげえ。」
そういうマリナはハッとしてシエロとフリンの元へ走った。
「大丈夫?シエロちゃん!フリン!」
「えぇ。問題ありません。」
「いや、だいじょばない」
そして手当をしていたクロスは「大丈夫」と笑って見せた。シエロもフリンも掠っただけで、クロスの治癒魔法で処置することができた。
「すごいだろ!うちの司祭は!」
誇らしげに笑うドロガにクロスは照れ隠しでドロガの肩を叩いた。
「今日は疲れちまったし一旦キャンプだな。」
大袈裟に肩を抑えながら言うフリンにシエロが「休みたいだけでしょ?」と、頭を叩いた。
「でも今日は一旦休んだ方がいい。明日は朝早くに出発しよう!」
そういうクロスに疲れ切っていた全員が賛成した。
***
その夜、目が覚めたマリナはヴィラキャンプの外に出た。するとそこにはクルヴァが座っていた。
「やっぱりここか。ヴィラキャンプの裏とは策士だねぇ。誰にも邪魔されない。」
クルヴァはノートも出さず少しだけ頷いた。
「明日は朝早いよー?体冷やさんようしないと。」
また、クルヴァは頷くだけだった。
「ねぇ、クルヴァ。クルヴァってさ、仲間に頼られるのって嬉しい?」
やっとノートを取り出したクルヴァはサラサラと書いて見せた。
『いや、怖い』
その紙を見て少し驚いた
「驚いた。クルヴァも怖い時あるんだ…あーしもね怖いんだ。今日の戦闘だってさ全然活躍できなかったしさ。」
そして食い気味にクルヴァはマリナの肩を叩いて紙を見せた。
『お前は魔族の耳がいいことに気づいた。防御魔法で庇いながら僕たちにそれを教えてくれたのもお前だ。』
「でもみんなは戦って。フリンとかシエロちゃんとかは怪我するまで頑張っていたのに…」
マリナはストンとクルヴァの横に座った。
「悔しかったんだ。みんな頑張って活躍して。なのにあーしだけ何の魔法も出来ない。できて、自分一人の盾だけ。自分の身を守るので精一杯だったの。」
マリナはそう続けた。
「悔しかったんだ」
『その悔しさこそ己が課した重責だ』
サラサラと書くペンさばきの音が2人だけの空間に響いていた。
『魔法を出すことだけが貢献じゃない。お前が後ろに立っているという安心感が、俺達の剣を鋭くする。』
「あーしが…」
『次回は更なる大暴れを見せてくれ』
マリナは涙目になった目を拭って答えた。
「うんっ…」
***
翌朝、全員は荷物をまとめ、歩を進めることとなった。
「なぁ、フリン、お前大丈夫か?貧血とかないか?」
そう大袈裟に心配するクロスにフリンは笑ってしまった 。
「大丈夫だって!」
1番先に出たシエロが全員に行き渡る声で話した。
「ここから国境沿いに進んだ先、カエルムという国があります。一旦そこを拠点にしましょう!」
一行はカエルムを目指し開けた道のりを歩き始めるのであった。
「でもなんでバーグリーブは自分では来なかったんだろう。ロイファーも特別強い魔族では無かったよな。」
そういうドロガにシエロは食い気味に言った。
「いいえ。ロイファーを倒せたのは、ふたつの強豪パーティが合わさった結果です。」
「強豪?んなこたねぇだろ。」
そう返すクロスにフリンも便乗してきた。
「いやいや違うぜ?クロスくん。俺たちはだいぶ強いぜ?昨日のロイファーにしろパズブランカの1件にしろ普通の下手に強いパーティを恐ろしく上回ってる。」
「そうか。そうだな。」
納得したドロガは前を向いた。
「バーグリーブ。おれとマリナとガゼットの3人で逃げたんだ。触手を起爆させて。」
「触手を起爆!?」
ドロガとマリナ以外が驚愕した。
「そんな触手あんのか!」
「そんなのチートです!」
「あぁ。確かに触手が爆発した。その煙幕でおれたちの目から逃れたんだ。だいぶ追い詰めた。あと少しだったんだ。」
そしてドロガはみんなに向けて言った。
「次出会った時このメンバーなら安心して戦える。」
「その前に別れるさ。ガキのボディーガードなんざごめんだね。」
そういうフリンを叩いたシエロは「助け合いましょ!」と、笑顔で言った。
「なぁシエロ。フリンとクロスあんなに意気投合して大騒ぎだぜ?魔族魔物に見つからねぇかな」
「賑やかで良いではありませんか。クロス様達の加勢のおかげです。フリン様…普段はあまり騒がない人でしたから…嬉しいんです。」
「え?まじで!?そうなのか!?」
「えぇ。寡黙とまでは行きませんがあんなに騒ぐことは滅多にありませんでした。」
「そうなんだな。なんか嬉しいよ」
「私もです。あんなに楽しそうなフリン様を見るのは嬉しいです。」
そこに水を差すようにクロスが話し始めた。
「でも、地平線の向こうに壁があるんだよな」
「ほんとだ。多分ドゥンケルハイトとの壁だな。」
「そんなのあるのか!?」
フリンは歩くペースを遅くして説明を始めた。
「本来、ラテオ王国は、ドゥンケルハイトとの間に平和的関係の維持を掲げ、塀を作ることはしなかった。そうでもしなきゃ皆殺しだからな。」
「そんなやべぇ国なのか。ドゥンケルハイト…」
ドロガ、クロス、マリナは「行かなくてよかった…」と胸を撫で下ろした。
「元々ドゥンケルハイトは民主主義の面を被った完全君主制。超独裁政治だ。聞くところによると。至る所にある歴代の大元帥の像の前で咳払いをしただけで死刑らしい。」
3人は背筋を凍らせた。
「まぁ、噂程度だがな。本題にもどるが約70年前のこと。カエルムが北方からの魔族魔物からの攻撃に備えることをきっかけにドゥンケルハイトに明確で物理的な壁を作った。
また、フリンは続けたを
「それからだ。ラテオ王国は魔族魔物の南下を引っさげドゥンケルハイトとの国交を絶とうとしたんだ。」
「で…でもなんであんなにちょっとずつしか作られてないんだ?壊されたのか!?」
「いいや。結局、費用がかさみ、設置は失敗。ドゥンケルハイトとの関係を悪くし冷戦状態に終わったんだ。」
「なんか、やばいな。もう両国がぶつかることはないのか!」
「今は冷戦も解消され、表向きでは仲良しこよしやってるようだが、裏ではバチバチだろうな。」
そこでシエロが切り出した。
「”ラテオに住むなら南に住め”なんてことわざもあるくらいですよ。ちゃんと障害を回避して上手く歩け。という意味です!」
「まぁ、あれだ。俺たちはドゥンケルハイトは用無しだ。カエルムに急ごう。」
***
それから2日後。一行はカエルムに到着した。
「ついたぞ!カエルム!」
カエルムは北方からの魔物魔族から守るためを名目にドゥンケルハイトと接しているそのため、高い塀を作っていた。
「おい!ここにも肉巻きおにぎりあるぞ!」
そのクロスの一声にドロガとクルヴァが走っていった。
「マリナ。俺さクルヴァがあんなにはしゃいでんの初めて見たんだ。」
「そうなんだ。意外だね。」
「あぁ。嬉しいよ。ただ単純にな。」
「向こうに色々露店がある。見に行かないか?」
「もちろん!あ、シエロちゃんも一緒に……」
「あいつなら大丈夫。今頃魔法道具見漁ってっから。」
「そう……」
***
「まず関所をとおんなきゃだな。」
「そうですね。私が行きます。」
そして5人は列を手繰り寄せるように関所に近づくシエロについて行き、関所までたどり着いた。
「3級魔法使い。その他5人です。通してください。」
そういうシエロに関所の男はニヤついた。
「ここカエルムでは世界魔法連盟が定めた階級で判断はしない。黙って並ぶんだな。助言をするならば、日が落ちると1度列は解散させられる。その時を待つんだな。」
6人は列の解散を宿にて待つことになった。
「宿を取れたぞ。そこに入ろう。」
そう陽気に言うクロスにみなの顔がパッと明るくなった。
「ほんとですか!助かります。」
そういうクロスとシエロは我先に宿へへ入っていった。
「すげえ!広いし、綺麗だ!いいのかこんな場所。」
そういうフリンにマリナが笑った。
「いいんだよ!どうせフリンの奢りだしね。」
「ふざけんな!」
そう叫ぶフリンに全員が不意に笑った。
「よし!明日は朝早いぞ!夕食食べて直ぐに寝よう!」
そのフリンの一言で全員が酒場に向かった。
***
一方、アゴーラ大陸最北端。エデンにて。コンパスを覗く人物がいた。
「やっと来たか…。」
そのコンパスは北を指さず、南に向いていた。




