第20話 神様からのお告げ
ヴィラキャンプが始まった日の翌日の朝。 クロスとシエロを除いた4人は二日酔いで苦しんでいた。
「あのなぁ…飲み過ぎだよおめぇら。」
「みなさん酒雑魚すぎます。」
そういうクロスとシエロにドロガは血の気を引いた顔で反論した。
「お前らが酒強すぎるんだよ……」
「これじゃあ、今日出発は難しそうだな」
そうクロスがそう言うのに対してドロガは「時間が無い…」と答えた。
「じゃあ、お前出れんのかよ!今日はヴィラキャンプで一晩休もう。」
「そうですね。それが最適解だと思います。」
「シエロ…クロス…ごめんよぉ」
そう情けない声でフリンは謝罪した。
「まったくです。」
そしてクロスはシエロに申し訳なさそうに言った。
「もうほんとうちの2人が申し訳ねぇよ」
「いえ。こちらこそです…うちの2人も不甲斐ないです。」
「いや、しかし、俺たちだいぶ食糧使っちまったみたいで…大丈夫か?」
「えぇ。問題ありません!ヴィラキャンプの中にまだ食糧は沢山ありますゆえ、当分食料に困ることはないでしょう。」
「心遣い感謝するよ」
「いえ。どうせ私たちが消費する予定でしたので。」
「いやぁ、それにしてもヴィラキャンプ、すげえ魔法道具だな。こんなの世界を揺るがすレベルだぜ?」
「えぇ。世界魔法連盟が黙ってはいられなくなるでしょう。」
「やっぱそうだよな。」
「でも見つけた時、これは私たちが保有する義務だと思ったのです。他に存在しない唯一の魔法道具だと思いますので。」
「義務感ってやつか…」
「いえ。訂正します。好奇心ってやつです。」
ははっと笑ったクロスを見てシエロはつられて笑った。
「クロス様、地図によるとここから少し南に行くと小さな町があるそうです。時間つぶしに巡りに行きませんか?」
「そうだな…新しい本も読みたいしな。」
「読書がお好きなのですか?」
「あぁ。冒険のちょっとしたスパイスになるんだ。」
「では行きましょうか。」
2人は南に向かうことを4人に声をかけてから街へ向かった。
「町の名前はパシフィカ。地図通りに行けば2時間ほどで着くと思います。」
意気揚々としているシエロにクロスは反応した。
「そうか。だいぶ近いな。でもその地図折りたたんではいるがだいぶでかいだろ。」
「はい。四畳半ほどあります。」
「クソでけえな。」
「でもその分広く詳しく書いてあるので重宝しています。」
「この地図とコンパスさえあれば、この辺どこへでも行けるのです」
「魔法でちっちゃくできないのか?」
「そんな魔法ありません!」
きっぱり言い捨てるシエロにクロスはくすくすと笑った。
「お、もう見えてきたな。」
「さすが、ここら一体は見晴らしがいいですね。」
「あぁ、望洋の地と呼ばれるだけあるな。」
「そうですね。地図によるとプロシェヴィルクに入ってからもエルトライゼ高原が広がっているようです。そこに点在するように町や村があり、そしてひとつカエルムという小さな国があります。」
「そうかしばらくこの平坦な道が続くのか。楽そうでいいな。」
にやりと笑いながら言うクロスにシエロは続けた。
「そうはいきませんよ。見晴らしがいいということは魔物や魔族に格好の餌食だといあことにもなります。」
「そうか。なるほどな。その視点では考えたこと無かった。」
「失礼なことを言いますが、あなたがあのパーティで1番頭が切れるのはあなただと感じています。」
「そうか?マリナだと思うけどな」
そう否定をしてくるクロスをシエロは無視した
「あなたがしっかりしていないと行けません。あなたがフラフラしていたら、あのパーティは続きません。」
そういうシエロにクロスはムッとした。
「おい。それは俺の仲間がバカだって言いたいのか?」
「いえ、そうではなくて。司祭であるあなたが指針になるしか道は無いって事です。」
まだ、疑問が残るクロスにシエロはその場の空気をかき消すかのように声を張った。
「もうすぐ着きますよ!」
「あぁ、楽しみだな。」
「甘いのあるかな〜」
「甘いの好きなのか?」
「はい!幸せになります」
数十秒の沈黙の後それをシエロが破った
「パシフィカ、何がありますかね。」
「そうだな…普通の街なら酒場とか、図書館とか、武器屋とかあるかもな。」
「それ、クロス様の行きたいところじゃないですか。」
そう笑いかけるシエロにクロスも釣られて笑った。
「でも、なんで俺たちに着いてきてくれることになったんだ?フリンが決めたのか?」
そう、問いかけるクロスにシエロは答えた。
「えぇ、フリン様の独断です。」
クロスは口元を緩めた。
「…でも私達も断る理由もなかったですし、さっきのは撤回で、3人全員の意見です。」
「そうか。なんか嬉しいよ」
一旦間を置いてシエロは語った。
「フリン様はクロス様達のパーティを酷く気に入っています。図々しいお願いかもしれませんが私たちが別れることになっても距離が離れてしまっても彼の良き友人でいてあげてください。」
「お前はフリンの保護者かよ」
少し笑ったクロスにシエロは少し声を張った。
「もうすぐですね!パシフィカ!」
「あぁ、結構賑やかそうな町だな」
「はい!楽しみですね!」
2人はパシフィカに心を踊らせていた。
***
一方その頃ヴィラキャンプでは4人は顔を真っ青にして嘔吐感を感じる度に水を飲み誤魔化していた。
「おい、クロスとシエロどこ行ったんだ……」
そう尋ねた
「ほんとバカね。クロスもシエロも南下したよ。町に行きたいんだって。どっちにしろ今日は休暇だね。ウップ」
「まじか…やっぱドゥンケルハイトに強行突破した方が良かったんじゃねぇか?」
そう問いかけるドロガにフリンは口を出した。
「だから門が開かねぇって話したろ?」
「無理やりだよ。無理やり。」
「ラテオ王国は君主制だ。王様の気分次第じゃ儀仗兵にぐさりだ。」
「そうか…」
「ドロガ。どっちにしろドゥンケルハイトに行っても宴してこうなってるって。」
そう言う3人を横目にクルヴァはおもむろに歩き、近づいてきた。
『お粥。たべるか?』
「おぉ…クルヴァぁ助かるよ。」
情けない声で礼を言うフリン達にクルヴァはこくこくと頷いた。
「ズズズッ…うめぇ。染み渡る。」
「そうだな…こういうのが1番美味しいんだよな…」
『美味いならよかった。』
そう紙でつぶやくクルヴァは誰も気づかない程度に少しだけ笑いかけた。
「しかしあのあの二人何しに行ったんだろうな。」
「そうね、でも地図を見るにここから南に小さい町があるみたいだから、そこに遊びに行ってるんだと思う。」
そう考えたマリナにフリンは答えた。
「そこになんかあるのか?」
「さぁね。小さいとは言っても町は町。なにも無いって事はないと思うよ」
***
そしてクロスとシエロはパシフィカにたどり着いていた。
「3時間ほど経ったら町の入口で待ち合わせましょう。」
「そうだな。そうしようか。 」
「ついでに買い出しも行きますが、欲しいものはありますか?」
「おぉ…そうだな…ドロガはピザが好きなんだ。それを頼むよ。」
「分かりました!」
2人は町で二手に分かれて観光することにした。
そしてクロスは真っ先に図書館に向かった。
「邪魔するぜ…」
「おお、いらっしゃい。何かお求めか?」
カウンターから出てきたのは背の低い老躯だった。
「あぁ。誰かの伝記か物語かが欲しいんだがここの本を1冊買わしてもらう事はできないだろうか」
「悪いがここは図書館だ。本屋じゃねぇぜ。」
「そうか。残念だな。他をあたるよ。ありがとうな。」
「まて。お前、本を持っているな?」
「あぁ。持ってる。なんでそれを?」
「匂いさ。本の匂いがする。」
誇らしげにした男はニヤついた。
「ここはパシフィカで唯一の図書館だ。どんな本でもある。なんでも持っていけ。」
そういう男にクロスは高揚した
「ほんとか!!」
「ただし!お前が持っていく本と同じ数の冊数の本を置いてゆけ。」
そう提案した男に一瞬間を置いてクロスは行った
「あぁ。それで頼むよ。無理言って悪かったな。」
「いいや、いいんだ。俺はお前のような若い本好きがいることが嬉しいんだ。こちらこそいい思い出になった。ありがとうな」
新しい本を2冊手に入れたクロスは店を出てすぐにベクトルを定めた。
「あと武器店も見てぇな」
クロスがドアベルを鳴らして入った店には数々の武器が陳列してあった。
「いらっしゃい」
白髪の老年が話しかけた。
「銀貨3枚でなにか買えないだろうか。」
「今使っている武器はなんだ?」
「パズブランカで買ったナイフだ。」
「なら、刃物には慣れていないな?」
「そうだな」
「双牙刀とかどうだ?」
そう男は裏から出してきた箱をおもむろに開けた。そこにはふたつの短剣があった。
「こいつであれば近接はもちろん多少間合いを広げられる。あんたにはこれが似合う。その長身であればこの武器のポテンシャルも活かせるはずだ:。」
「あぁ。これにする。いくらだ?」
「おう…本来銀貨10と行くところを…」
クロスはゴクリと息を飲んだ。
「銀貨3枚だ!」
「ほんとか!いいのか!?」
「あぁ。ここはプロシェヴィルグを望む冒険者への武器から民間用の包丁まで扱ってる。たかがナイフ一対どうってことない」
「大事な商品だろ」
「いや。いい。俺の気が変わる前にとっとと店から出ていってくれた前。」
そう笑いながらいう男にクロスは礼を言い店の外へ出た。
***
町に入ってから3時間後2人は町の入口で合流した。
先に待っていたシエロを見てクロスは小走りをした。
「わりぃ。またせたか?」
「いえ。私が早く着きすぎてしまっただけです。」
「そうか…よかった。」
「それより酒場に行って話しましょうか。」
「そうだな。お互い何買ったか気になるしな。」
「そうですね。向こうの道を横断したところに酒場があるらしいです。」
「そうならそこで決定だな。」
ぎーぃっという音を出しながら扉を開くとそこには賑やかな町とはうって変わって閑古鳥が鳴くようなガラっとした店内であった。
「あのー店員さーん?」
少し大きめの声で話すシエロを見てクロスは大声を出した。
「すみませーん!誰かいねぇかー!?」
「はいはいすみませんね。」
そう老婆が出てくるとクロスは昼食を取りたい旨を伝えた。
「いやぁ最近耳が遠くてね。申し訳ないわね。」
「じゃ、おれパエリアで。」
「私は生ハムメロンでお願いします。」
老婆が調理中に2人は話し始めた。
「クロス様は何を購入されたのですか?」
「あぁ俺は本2冊と短剣ふたつだ。」
「短剣?クロス様は司祭ですよね。ヒーラーに徹した方が良いのではないのですか?」
「シエロ。俺を前衛に配備したの覚えてるか?」
「えぇ。覚えてます。」
「クルヴァにも戦士に向いてるって言われたんだ。きっとこれは神様からのお告げだと思うんだ。仲間を守れる存在になりなさいとな。」
「そうなのですね。クロス様はとても勇敢だと思います!」
「そういうシエロは何買ったんだ?」
「えぇ。刃物の刃こぼれを治す魔法と、魔法道具店で買った何度打っても火がつく火打石です。」
「火を出す魔法とか使えないのか?」
「あることにはあるのですが私には無理です。あくまで私の指標ですが大体1級以上の実力がないと。」
「へぇーそうなのか。」
「はい。火の魔法は先代の黒魔術の大魔法使いが一生をかけて作り出した魔法でまだ簡易化されてないんですよ。」
「なんか、難しいな。」
「魔法は奥深いのです。」
そう誇らしげに笑うシエロにクロスは笑みを零した。
「では、せっかくの酒場ですし、追い酒しますか?」
「やめとくよ。てかあんたほんと酒強いな。」
「そうですか?」
「あぁ。馬鹿みたいに強いぜ。」
「確かに飲みの場ではいちばん飲めます!」
「それを人は酒が強いって言うんだぜ」
そう話に花を咲かせている2人に店の老婆が話しかけてきた。
「あんたら、冒険者かい?」
「あぁ。あと4人いるけどな。」
「そうかい。冒険者なら教えてやろう。ここに勇者一行が来た。」
「そりゃほんとか?」
「あぁ。本当さ。クラウン、トノロス、エイル、ファルシュ」
「あぁそんなメンバーなのか。」
「もっと聞かせてください!」
そう叫ぶシエロにクロスは少し引いていた。
「だって!勇者一行のフルメンバーの名前を聞けるだけで素晴らしい収穫ですよ! それもこんなにすらっと聞けるなんて。」
「そんなすげえ名前なんだな。」
「これは大発見です!みんなに伝えましょう!」
あまりの熱量にクロスは圧迫感を感じた。
「さあ!お食べ!パエリアと、生ハムメロンね!」
「おお!美味そう」
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***
昼食を済ませたあと、2人は店を出た。
「日が落ちる前に帰った方が良さそうだな。」
「そうですね。では行きましょっか。」
2人は、今度はヴィラキャンプへ足早に歩を進めることとなった。




