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第16話 前代未聞

宴が行われた翌日の朝方。目が覚めたドロガは外の空気を吸うことにした。


「あぁ。夜風がさみぃ」


道を歩くと、昼間は聞こえなかった砂利の音や風の音。ほぼ真っ暗な村の上に広がった美しい星々が輝いていた。


ドロガがふと路地を見ると、フルトヴァッテの後ろ姿があった。


「フルトヴァッテ?」


振り返ったフルトヴァッテにドロガは驚愕と焦りで顔が崩れた。口には血が垂れ、触手が伸びきっていた。


「お前!なんで……人を食ってんだよ…」


「あぁ……見つかってしまった。」


「失踪事件の犯人ってやっぱお前だったのか…」


ドロガとは違ってフルトヴァッテは冷静に単調にしゃべった。


「もうこの際隠すこともあるまい。私が失踪事件の犯人だ。」


「なんで食ったんだ…」


「なんで…とは?」


「おまえは!おれらだけじゃなくてここら一体全部の村の人を裏切っているんだぞ!」


異様な空気が流れる中、いつもとは違う冷徹な目をするフルトヴァッテにドロガは息を飲んだ。


「”なんでか”そう聞いたね。」


フルトヴァテはドロガのを見て話し始めた。


「君たちはお腹がすいて動物を食らうだろう。」


「何の話だ」


「それと一緒だよ。」


「わざわざ人間を食うこたぁねぇだろ!」


「美味しいからだよ。美味しいから人間を食べる。何がおかしい!」


「話にならない。残念だけどお前を殺すしかないみたいみたいだ。」


「面白いな。人間同士なら、食べるためではなく、たかが思想が違うだけで殺し合うじゃないか!私たち魔族の方がよほど理にかなっているとは思わないか?」


「お前はやっぱりただの魔族だ」


ドロガは剣を抜いた。


「せめてもの救いだ。お前が失踪事件の犯人ってことは隠しといてやる。」


「私がいなければ町に平和が訪れない!光を塞ぐつもりか!」


「知らねぇよ。お前がやってることは人騙しだ。」


そう言葉を放ったドロガの顔は幻滅した表情だった。


「私が殺せるとでも思っているのか!私は400年生きてきた気高き魔族だぞ!」


焦って触手を振り上げたフルトヴァッテは既に遅かった。


「悪いなフルトヴァッテ。いろいろありがとうな。」


振った剣はフルトヴァッテの首を切り落とした。塵となって消えていくフルトヴァッテはパクパクと口を動かした。ドロガはそっとフルトヴァッテの瞼を閉じさせた。


近くの街灯の火が揺れてふっと消えた。暗闇の中で塵となって消えたフルトヴァテにドロガは苦悶の表情でその場をあとにした


***


その日の朝…


眠りから覚めたマリナはフルトヴァッテが来てないことを不思議に思っていた。 宿を出るとドロガが宿の外のベンチに座っていた。


「ねぇ フルトヴァッテは…」


「死んだ。おれが殺したんだ」


「どういうこと!?」


「失踪事件の犯人はあいつだった。人を食って消してたんだ。」


たばこを咥えたクロスが3人分のコーヒーを入れて外に出てきた。


「どうした。やっぱりアイツ殺したのか。」


自分のスタッキングでコーヒーを飲むドロガは村の外へ出ようと急かした。


宿に戻った3人は荷造りを初め、外に出た。町を出ようとすると村長が待ち構えていたかのように走り寄った。


「冒険者様!ここを出るんだね。不死鳥の涙の件から様々手助けしてもらってありがとうね。村全員の気持ちを代弁させてくれ。」


にっこりと笑いかける村長にみんなが平和を悟った。


「おっと、そうだ、このために来たんだ。銀貨5枚と存在抹消の魔導書だよ。報酬だったろう?」


「やったー!ありがとう村長さん!」


「あと、ブルートも持っていきなさい。」


「いや、それはもう飽…」


マリナはドロガの口を急いで塞いだ。


「ありがとうございます!」


「そういえば今日フルさん見かけなかったけど知らないかい?あなたたちと仲良くしてもらってたみたいで。」


「死んだ」


クロスの言葉に マリナはふと顔をあげた。


「フルトヴァッテは死んだんだ。不死鳥の涙を探すために出かけた先で魔物に殺られちまった。」


「えぇ…それは本当かい…? 」


「あぁ。俺らがいながら守れなかった…悪かった」


「いえ。それが彼の運命なのです。元々魔族を村に置いておいたのが悪かったのですよ。」


3人は村に別れを告げた。


「じゃあ、行こうか。」


3人は歩き出した。光る地図を見て村を出てエキサイトとドゥンケルハイトの中間地点パズブランカに向け足を進めることになった。


3人の姿が見えなくなった頃、 村人のひとりが不意に村長に話しかけてきた。


「彼らは嘘が下手ですね村長。」


「そうだね。不死鳥の涙の後の宴でもフルさんはいたのにね。」


「彼らが死なせたのでしょう。もう誰も失踪はしませんね」


「魔族に村人を守ってもらうなんておかしな話だったんだ 。」


「えぇ。そうですね。」


そして村長は涙声で呟いた。


「すまないことをしたね。亡き人たちよ。」


村長は今までの後悔と自責の念、それから感謝と解放、様々な理由が詰め込まれた一筋の涙が頬を伝った。


***


一行はパズブランカに向かう最中、広大な原っぱにある集落を見つけることになった。しかしパーティ内である事件が起きていた。


「おいおい、何ひねくれてんだよマリナ」


そう言うドロガにマリナは愚痴を叩いた。


「だって魔導書が偽物だったんだもん」


「いぃじゃねぇか。銅貨3枚貰ったんだしよ。」


「いやまぁ、そうだけど…大赤字だよ…」


落胆するマリナにふたりは狼狽していた。


「まぁ、村の人が喜んでくれたならいいじゃねぇか。」


そのドロガの発言がマリナに火をつけた。


「あんたはなんもわかってない!」


そう言ってスタスタと前へ前へと早歩きをした。


「はぁ。クロス…前代未聞のガチギレなんだ。助けてくれよ…」


「は?あいつの機嫌取りはお前の専売特許だろ?」


そう言い捨てるクロスにドロガは絶望した。


***


「冒険者様たち。今日はここを使いなさい。狭くて申し訳ないね。」


「いえいえ。全然っす。あーっす。」


村を出てから1日も経たずに集落にたど り着いたクロスとドロガは半ば無理やりマリナを連れて借りた小屋の中に入った。


「あのなぁ、マリナ。俺は引き摺り過ぎだと思うぜ?」


クロスが優しくなだめようとした。


「確かに2ヶ月探して銀貨5枚はすこし、割に合わねぇよな。でもよ、これもひとつの経験だ。旅が終わった時に笑える話になるさ。」


「ならない。あーしはあそこの村長を末代まで呪うから。」


「あのなぁ…わざとじゃねぇと思うぜ?」


少し絶望的な顔でドロガは割って入った。


「もういいよクロス…しばらくこれだろうからさ…」


「そうなのか?」


「いや、ここまで酷いのは初めてだよ。特に朝」


「そういや、不死鳥の涙の時も朝酷かったよ。」


「フルトヴァッテとも何回もバトってたし…」


***


「あのねぇ!なんであんたは人の気持ちとか考えないわけ!?やっぱり魔族だよね!フルト馬鹿ッテ!」


「あのね!マリナ。私は不死鳥の涙がこんなに難易度が高いと思ってなかったのだよ!」


「そういうことじゃないの!あんたほんっとに馬鹿」


***


「そういやぁそうだったな。まぁ、いい思い出だ。今回のマリナもいい思い出に…」


「…違う!そんなのにならない!まず人のことを嘲りやがって!ほんとにクソだ。多分魔族だ!あのクソジジイ!」


「思い出になるか?これ。」


そう言うクロスにドロガは「分からん」と言った。


「…ほんっとに偽物渡すとか人の気持ち考えたことないのかな?」


どこまで待っても事態が変わらないことに苛立ったクロスは声を荒らげた。


「うるせぇな!ちょっと黙れよ!買い出しくらい着いてこい!!」


息を整えてからクロスは言った。


「あのな。ドロガの寿命が何とかって言う割には行動が伴ってねぇんだよ。俺らも時間が無限にある訳じゃねえ。こんなバカやってる、時間はねぇんだよ!」


「そっか。そうだよね。」


マリナは涙を拭った。


「お金稼ぎに行こう。ドロガのためにも切り替えなくちゃ」


「いや、別におれのためじゃなくていいだろ」


3人は路銀を稼ぐため集落全部の雑用をこなすことにした。


「毎日ありがとうございます。ここはほとんど老人ばかりだから助かります。」


「いえいえ。路銀の為なら何でもします!」


意気揚々と集落の人の家の清掃をするマリナを見てドロガはクロスに感謝の意を評した。


「お前の大目玉のおかげだよ、クロス…」


「あれは俺の言いたいことをぶつけただけだ。そこから立ち直れたのはあいつの力だ。」


「なんか、おまえ、たまにかっけぇよな。」


「たまにってなんだよ。たまにって」


***


翌日…


「じゃあ、今日はエイル様の胸像の磨きあげをして欲しい。報酬は銅貨6枚だそう。」


集落の長はこのようにして毎日


「エイルか…俺のいた村にも来てくれたことあったってじいちゃんに言われまくったな。」


「エイルはクラウンが最後の仲間に選んだ仲間で、最後にはサワコフ村に帰ったんだ。」


へぇと返したクロスにドロガは笑いかけた。


「っしかし、こんなとこにまで来てたのか。」


「この名もない集落で流行病が起きた時エイル様が食い止めてくださったんですよ」


そこにクロスが口を挟んだ。


「胸像だとしても金かかったろ。薬屋も司祭もいないような金の無さそうな集落でどー工面したんだ?」


「ええ。しかし集落に住む全員からお金をかき集め、胸像を立てたいと言ったのですが彼女は断るばかりで、最終的に私たちに根負けしていただけたのでしょう。彼女が去った宿には銀貨が20枚も…」


「エイル…やっぱりすげぇいいやつだったんだな。生きてたら仲間にしてぇくれえだ」


「だめだ、俺がいるだろ。」


「それもそうだな!」


ドロガはクロスに笑って返した。


エイル像の清掃に着手するマリナは魔法で作業を進めていた。しかし、2人は木にもたれかかって談笑していた。


「ちょっと!そこの2人!ちょっとぐらいやりなさいよ!」


「だって、マリナの魔法でピカピカにできるだろう?」


「そうだけど…」


ドロガの言葉に詰まったマリナを見てクロスは立ち上がった。


「悪かった、マリナ。みんなで磨きあげよう。」


「えー。まぁいいや、やろっか」


「ってかさ、ドロガがマリナを誘ったのか?逆か?」


唐突な質問に2人は一瞬目があった。そしてマリナは話し始めた。


「あーしの前にドロガにはアルタンって仲間がいたんだ。でもね、あーしとほとんど入れ違いになっちゃったんだ。」


「そうなんだよ、クロス!こいつらちょっとしか一緒にいなかったくせにキ………」


そう言いかけたドロガの口にマリナはスポンジを押し付けた。


「完璧だよ!みんなありがとうね。」


集落の長は3人に感謝の意を述べた。


「おう!働かせてくれてありがとな!」


「明日の朝出るのでしょう?こちらからは乗り合い馬車を用意させます。」


「まじか!助かるよ!」


***


翌朝…


「本当に何から何までありがとうございます!」


「ええ。こちらこそ。」


馬車に乗り込んだ3人は積み荷を肩から下ろした。


「ここから先はさらに寒くなります。お身体にお気を付けて!」


「ありがとなー!」


マリナは軽く会釈しクロスは軽く手を挙げた。


「で、パズブランカに行きたいというが。あそこはとても厳重な警備をしている場所だ。」


「そうなのか?」


馬の手網を軽く動かして、男は言った。


「あぁ。ドゥンケルハイトは民主主義国家の面を被った酷く好戦的な武力国家だ。その玄関口もとい最前線であるパズブランカはクーデター予防に強固なセキリュティがなされている。 入るのも出るのも最高水準のゲートを何枚も通りやっと、入れるわけだ。」


3人はこれから向かう場所に不穏を感じた。


「わかるか?つまりパズブランカを出て、ドゥンケルハイトに行くことになれば、二度とラテオ王国を拝むことはできない。」


3人は息を飲んだ。


「とは、まぁ脅したとこでだが何もねぇから安心しろ!ラテオ王国に戻る方法は腐るほどあるさ。なんも考えずに北上しな!」


「なんだよぉビビらせやがったなぁ」


ドロガが溶けるように姿勢を崩した。」


「ただ、ドゥンケルハイトへ渡るのはそれほど無茶なことなんだ。くれぐれも無茶はするなよ?」


「あぁ」


マリナはとっくに縮み上がっていた。


「そしてだ。ひとつの提案なんだが、ドゥンケルハイトが北上への近道なのは間違いない。でも、わざわざドゥンケルハイトなんか入るより迂回してドゥンケルハイトの西に位置するプロシェヴィルグを通るのも一つの手だと思う。ただ、プロシェヴィルグはお金が無いと入れないというデメリットもあるが命には変え難いと思わないか?」


「いや、おれには時間が無い。ドゥンケルハイトを通る!」


「そうか…仲間のことも考えたことはあるか?」


ドロガはハッとしてマリナとクロスを見た。


「仲間が本当に命預けてるのか?」


そこに切って割いるようにマリナは言った。


「大丈夫!3人いれば最強だから!」


「右に同じく。」


***


「今日はここまでだ。キャンプセットは持っている。ここで明日まで野営だな」


「おい!こんな所に洞窟があるぞ!こっちにしないか?」


「おい!ダメだ!そこは魔物の巣だ!」


男が言ったが遅かった。ドロガは上半身を爪で殴られ吹き飛び倒れた。


「くそっ!あの坊主…!」


「大丈夫。おじさんあいつ不死身なんだ。」


ずーっと回復し立ち直ったドロガは首をかしげけた。


「あれ?いつもより回復がめっちゃ早いぞ!」


「司祭を舐めるな剣士”様”」


そういうクロスは片手をドロガにかざしてエメラルドグリーン色の光をキラキラと放っていた。


「助かるよ!」


そしてドロガは魔物に向き直って睨んだ。


「おまえ、自分のやった事後悔すんなよ?」


靴を先をトントンと地面にぶつけた。


「マリナ。後衛を頼む。」


「了解しました!」


ドロガは魔物の股下を滑り潜り背後に回って背中を刺した。そこで仰け反った魔物にマリナは、すかさず攻撃魔法をぶつけた。


魔物は大きさに見合わない小さな断末魔をあげて塵になっていった。


ゆっくりと塵になっていくのを横目に男は感激をしていた。


「いやぁ、大変だったな。ほんと助かったよ。そういえば名乗ってなかったな俺の名前はコサ。あんた達、名前は?」


「おれはドロガ!こっちがクロスでこっちがマリナ」


「よく覚えておくぞ。未来の勇敢な冒険者たち。」


***


「ここから、少し進んだ村に一旦よるぞ。」


男はどこどこ鳴らす馬車の音にかき消されないよう、大きめの声で言った。


「用でもあんのか?」


「あぁ冒険者を拾う。」


「冒険者!?おれ達以外も乗るやついるのか?」


「あぁ、こいつは乗合馬車だからね。お前たちとおなじスリーマンセルらしいぜ」


「そういや、集落の人も言ってたな。乗合馬車だって。」


「えぇ…治安悪そうな人じゃなきゃいいけど…」


そんな心配をしているマリナの隣でドロガはわくわくしていた。


「でもまずそんな無理な積載して馬が動けなくなるだろ。」


「その辺は心配ご無用。荷物を軽くする魔法で精々1人1キロくらいさ。走れるよ。」


「すごい!その魔法!」


「今魔導書を持ってるから見してあげよう。」



マリナは魔導書を受け取りペラペラとページをめくった。


3人は馬車に揺られパズブランカの手前の村へ冒険者を拾いに向かうことになった。

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