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第13話 イチジクとチョコといちご

翌日、朝、晴天。涼しい風が吹く出発の時、ドロガとマリナはエキサイトを出ようとしていた。


「トロノス、本当に来ないのか?」


「お前は全くしつこい奴だな。」


トロノスはそう笑い飛ばした。しかし、本当は行きたかった。その気持ちを押し殺した笑顔だった。


「俺は足でまといになる。だから行けない。」


「いいさ!おれとマリナがいるんだ!」


「こんな雑な勧誘はクラウン以来だよ…」


***


「おれはこの村に恩を返さないといけないんだ!」


トロノスはそう叫んだ。そのトロノスの村は魔族、魔物らに荒らされ、荒廃した姿になっていた。


「でも君の村はこの状態。どうやって恩を返そうというんだい?」


「それとこれとは関係ねぇ!」


「トロノス、無くなったものに縋るんじゃない。君は今の自分と向き合うべきだ。」


「おれの村を邪険にする気か!」


「過去に固執するのは、もうやめないか?」


トロノスは絶句した。


「お前は悲劇のヒーローでもなんでもない」


そしてクラウンは笑った。


「これからは僕が、お前の背中の重荷を半分持ってやる。だから来い。トロノス!」


その輝く目に旅の果てへの奇跡を感じた。


「強引なやつだな。負けたよ。行こう。俺の命は重たいぞ?」


***


「じゃあな。ドロガ、マリナ。お前たちはきっと旅の果てを見つけられる!」


「あぁ!あんたの分も旅を楽しんでくよ!」


「ちょっと待て。これだけ持っていけ」


そう取り出した袋には水と非常食そして地図が入っていた。


「この地図はここら一体しか記されていないが、きっといつか役に立つ。」


その地図にはラテオ王国の紋章が刻まれていた。


少しずつ遠くなって行くふたりを見て、トロノスはつぶやいた。


「なぁクラウン。やっぱりかっこいいただろ?どこかお前に似てるんだ。」


そよ風はトロノスの涙を拭き取るように吹いた。


「今日は空を見ないでおこう。あいつらも思い出しちまうからな。」


***


ドロガとマリナはドゥンケルハイトへ向かっていた。出発から1晩キャンプしたふたりは、道を見直すため倒木に腰を下ろした。


「ねぇ、ドュンケルハイトまで村はないわけ?」


「知らねえよぉ地図にはなんて書いてるんだよ…」


「この地図アバウトすぎて大きい町しか書いてない…」


「まじかぁ」


「しかも町はエキサイトより南によってるから、短く見積もって1週間はトロノスから貰った食べ物で越すしかないね。」


「…その食料で足りんのかよ」


「そんなんわかんないよ」


そう揃って駄々をこふたりは気だるげに足をばたつかせた


翌日にまた、歩き始める準備をしていたところにマリナはあることに気づいた。


「まって、この地図光ってない?」


「んなアホな。」


「いや、物に魔法をかけることはできなくは無い。」


「そーなのか?」


「うん。でもあーしは見た事ないかも…」


「近くにある町を教えてー」


「はぁ。なにしてんの?」


棒読みで地図に話しかけるドロガにマリナは呆れた。しかし、その瞬間、地図は光を帯びた線をつーっと書き記し、エキサイトの北西に位置するパズブランカという場所を光らせた。


「パズブランカ!ここだ!」


「たまにはやるじゃん!ドロガ!」


ふたりはカパズブランカを目指し足を進め、1日と経たずに到着した。


「ついたー!パズブランカ!」


「ちっちゃい町ね。見て!向こうに湖があるみたい!ちょっと遊ぼうよ!」


そう和気あいあいと話しているふたりに男が話しかけてきた。


「あの湖に入っては行けないよ。」


「なんで……」


そう言いかけたマリナはすかさず杖を構えた。


「ちょ、どうしたんだ」


「魔族だ。」


「ほんとだ…角…」


「私は魔族だが君たちよりも強い。魔力も抑えている。」


「確かにあなたはあーしの魔力察知に引っかからなかった。あーしたちはお前を殺す。」


「はぁ。困ったものだ。」


男は呆れたように言った。


「まず、ここはパズブランカではない。ここから真っ直ぐ北上すれば本当のパズブランカに着くはずだ。」


「黙れ。あーしはただの魔法使いではい。お前には確実に勝てる。」


「そうか。でもな…」


「黙れ!魔族の発する言葉なんか騒音にしか聞こえない。お前の言葉など人様の空気を汚しているだけだ。」


そうマリナは言って見せてドロガに言った。


「こんなやつ耳を貸す必要はないよ!」


「酷い言われようだなぁ。」


そう言う男は両手を上げ。


「これで僕の話を聞いてくれるかい?」


「触手があるでしょう? 」


そう言うマリナに男はため息をつきながら触手を地面に刺した。


「はい。正真正銘動けない。これでいいかい?」


「いいぞ。」


そう答えたドロガにマリナはすかさず怒鳴った。


「あんたねぇ!あーしがここまで持ってきたのにあんたがなんでいいって言うの!」


「だってお前だと話ができてねえもん。」


「おかしいでしょ!魔物が人の声を借りて喋ること自体おかしいよ!」


「おかしくなんかない。ファクターも、エルアルテのとこにいた魔族も、みんな人格を持ってた。」


「トロノスも言ってたでしょう?人と魔族は全く違う生き物なんだよ!?」


「いや、それでもおれはこいつを信じたい。」


そこで魔族は口を開いた


「意見はまとまったかな?私の名はフルトヴァッテ。知っている通り魔族だ。」


フルトヴァッテは手を差し出した。


「この手を取ってくれ。きっと君たちの力になれる。」


マリナが疑心暗鬼になっている中ドロガは躊躇なく手を取った。


「悪いやつじゃないさ。だからこの村は平和なんだ!」


「まぁ、そっか。」


「せっかくよったんだ。この村を楽しもうじゃないか!」


そう陽気にいうドロガにマリナは呆れてしまった。


「まぁ、2人ともここなら私がいちばん分かってる。案内しよう。」


そう言うフルトヴァッテに2人はついて行くことにした。


「この村にはブルートと呼ばれるパンが有名なんだ。エキサイトから商人が買いに来るほどにね。」


「へぇ、そんなに美味いのか?」


「あぁ。とても。ザビーネさん。ブルートを3つ」


「あぁ、いつもありがとうねフルさん」


「フルさん?」


「あぁフルトヴァッテだと長いだろう?いつの間にかそう呼ばれるようになったんだ」


「冒険者さん達、この国は頻繁に失踪事件が起きるから気をつけてね。なんでも、お化けが攫ってくるかもよ。」


「あぁ、用心するよ。」


「ちなみにおれはドロガで、こいつがマリナ!」


「ドロガか…いい名前だ。」


「フルトヴァッテはこの村に来てどのくらい経つんだ?」


「ここ30年くらいさ。新参者だろう?」


「いやだいぶ古参だと思うぜ」


「この道の奥に宿がある。そこに行けばいい。」


「フルトヴァッテから紹介されたといえば無料で止めて貰える。」


「お!まじか!ありがとうな!」


そして翌朝、フルトヴァッテが宿に尋ねてきた。


「やぁ、おはよう。今日はちゃんと村を案内したい。朝ごはんにブルートを買ってきたんだ。イチジクとチョコといちごどれがいい?」


「あーわりいフルトヴァッテ。うちの魔法使い、朝がとことん弱いのよ。」


「そうか…少し待つことにしよう。」


「あ、おれチョコ。」


「さて。私はいちごにしよう。」


「あードロガぁ。今起きた…くっそ頭痛い…」


「全く。それいっつもだな。フルトヴァッテが迎えに来てたぜ。ブルートつきでな。お前は起きるの遅いから消去法でチーズだけど。」


「いいよ、お腹すいてない。」


「じぁ、私が食べよう。いちごの次にイチジクが好きだ。」


「お!フルトヴァッテ!コーヒーがあるぜ!昔のダチから譲ってもらったんだ。」


「おおいいね。飲ませてもらおう。」


ブルートを頬張るドロガにフルトヴァッテはリスみたいと微笑んでコーヒーをひとくち飲んだ。


「君たち、風呂はいってないだろ?」


「水浴びくらいならしてるけどな」


「では、銭湯に行こう!」


3人は村一番の銭湯に行くことにした。


「いやぁ!風呂なんて久しぶりだぜ。」


「いつも川だったもんね。」


「いやここ一番の銭湯だ。ゆっくりしていってくれ。」


ドロガは男湯と女湯を隔てる壁に向かってマリナに話しかけた。


「なぁ、いい村だな。」


「うん。でもブルート屋さんのおばさんが言ってた殺人事件ってのが気になるんだよね」


マリナの不安を取り除くかのようにドロガは言った。


「先の事を考えても意味がないさ。殺人事件なんかどの村でもある。今はこの町を楽しもうぜ!」


「そうだよね」


「この村にホットチリビーンズが美味い酒場あるらしい!行ってみようぜ!」


ふたりは銭湯を出てフルトヴァッテと合流した。


「ホットチリビーンズが、食いてぇんだけど」


「もうそんな時間か。では行こうか。」


「おう!」


「ホットチリビーンズは食べたことあるかい?」


「ねぇのよ。」


「びっくりするくらいおいしいんだよ。」


そう話すドロガとフルトヴァッテにマリナは未だに不信感を拭いきれずにいた。


「うめぇな!」


3人はホットチリビーンズのある店にて食事を取っていた。


「なんで、お前サンドイッチなんだよ。」


「別にいいでしょ。」


くだらない会話をする2人にフルトヴァッテは微笑んだ。


その夜宿にてドロガは話した。


「おれはフルトヴァッテを仲間にしたいと考えてる。」


「バカじゃないの?無理だよ。魔族だもん。」


「やっぱそうだよなぁ…でも良い奴なんだよ。」


「そうだよね。でもあーしはまだってるよ。魔族である以上そいつの発する言葉はすべて虚言だと思ってる。」


「そうか……確かにお前の言う通りだマリナ。」


***


翌日、また、フルトヴァッテはドアを叩いた。


「おはよう!ブルートを買ってきたよ。今日はチーズ、ラムレーズン、いちごだよ」

ガチャリとドアを開けたドロガは言った。


「まだ早朝だぜ?早すぎやしねぇか?」


「そうかい?君たちが遅いのではないかい?」


そう言うフルトヴァッテにドロガは少し苛立った。


「今日はブルートを一緒に買いに行かないか?」


「いや別にいいけど…」


マリナがしばらく起きないことを察したドロガとフルトヴァッテは先に外に出てブルートを売っている店に向かった。


「じゃあラムレーズン。」


「では私はバナナにしよう」



「フルさん、また殺人事件よ。夜中にウェストミッドさんが…」


そう店主が呟くようにフルトヴァッテに話した。


「そうか…あの人を失うとは悲しい。村の大きな損失だ。」


「あ?殺人事件か?」


「そうらしい。被害者のウェストミッドさんはエキサイトから輸入した果物や、野菜を売っていた人だ。」


「たいへんだな。」


「私は彼の葬儀に参列しようと思う。今日はゆっくりしてくれ。」


「おう。」


宿に戻ったドロガはマリナを起こそうとした。


「んだよ。起きてんのか。」


「んまぁ、いちよね。」


「フルトヴァッテは今、死んだ人の葬式に行ってるんだ、ちょっと遊ばないか?」


「それって、殺人事件の?」


「そうだ。なんで?」


「いや、あーしアイツが犯人な気がしてるんだよね。」


「なんでだよ。あんな優しくしてくれるやつ他にいないぜ?」


「そうだね。でもだからこそ疑い深くないと飲み込まれる。あいつの手中に入ったらもう終わりだよ。」


ドロガは息を飲んだ。


「そうかもしれねぇな。用心するよ。」


そして翌朝、戸を叩く音が聞こえた。


「おーい!開けてくれー。」


「おい、フルトヴァッテ!今何時だと思ってんだ!」


「お金ないだろう?いい依頼を持ってきぞ。」


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