第11話 魂の天秤
城下町エキサイトに到着してから2日目の朝、宿の扉を叩く音が聞こえた。
「おい!でてこい!」
その声の主はトロノス。扉を開けるとトロノスは、上がる息を制するように唾を飲み込んだ。
「王宮が夜明けすぐに発令したんだ!お前ら2人を殺人未遂で逮捕するって!」
「「なんだって!!??」」
ふたりは驚きのあまり叫んだ。
「急いで荷物をまとめて街の外へ出ろ!」
「お…おう!」
何が何だか分からないまま、ふたりは荷物をまとめまちを出る準備をした。
「おれたちなんもしてないぞ!」
「誰かがドロガとマリナのフリをして、やらかしたんだ!」
トロノスは苦虫を噛み潰したような顔で言った。
「やばいぞ!どうする!」
トロノスはそう焦る自分を宥めるように歩くのを辞めた。
「まって冷静になろう。」
2人も足を止めた。
「どうすればいい…どうする…クラウン……お前ならどうする……」
そう思考を巡らせるトロノスは、ある事を思い出した。
***
「危ない。…クラウンががいなければ冒険が終わってたな。ナイス判断だ。」
そう笑いながら言うトロノスは息を切らしていた。
「まさか、魔物が私達に擬態してくるとは思わなかったね」
息切れしながらもエイルはクラウンに疑問をぶつけた。
「クラウンは、どうしてあの魔物が私の偽物とわかったのですか?」
「あぁ、エイル。本物か偽物か。それを分かつのは言葉でも記憶でもない。僕は君を仲間という天秤に乗せたんだ。その後はどちらの魂がより重く沈むか見てただけだよ。」
***
トロノスは呟いた。
「魂の天秤だ。」
「何?」
マリナが聞き返した。
「魂の天秤にかければいい。魂の天秤にかければ、ドロガもアリスも傾くはずだ!」
ふたりはトロノスに置いてけぼりにされていた。
「よし、明日、王宮へ行くぞ!」
「なんでだよ!逮捕されちまうだろ!」
「そうだよ、最悪処刑でしょ!」
「いいから着いてこい!説明は店でする!」
ふたりはトロノスの大声で静まり返った。
トロノスの店に着いたあと、すぐにトロノスは2人に説明した。
「いいか、魂の天秤は、おれらが旅を初めた時にはもう既に忘れられた所謂、古代魔法だった。ただ魂の天秤は魔力、善悪、薬毒、色々なものを見分ける天秤だった。でも、他に魔法ができてきてこの便利な魔法は廃れていった。」
「じゃあどうするんだよ。」
「この国にはその魂の天秤が物体と化して保管してある。」
「「!!??」」
ドロガとマリナは驚いたあと少しの希望を見出した。
「でも国相手に戦えるほどの度胸はねぇよ。おれらもう終わりなのかな…」
そうドロガが行った時、トロノスは言い放った。
「悲劇のヒーローを気取るのは勝手だが、時間は止まってくれないぞ!」
ドロガはぐうの音も出なかった。
「クラウンの旅路を追ってるんだろ?」
「なんでそれを…」
「クラウンの話を聞くやつの大抵はそうだ。」
そしてトロノスは右手をあげた。
「万全を期して明日、王宮へ行こう!魂の天秤に賭けよう!」
***
翌日、昼間。
黒いフードを被されたドロガとマリナは、トロノスに連れられ王宮まで来た。衛兵のうちひとりが中に入り、5分と足らず出てきた。しかしその5分は3人にとって地獄の空気だった。
「通れ」
「ありがたい。」
そう会釈したトロノスは2人を連れて王宮に入った がしかしそこから玉座の間までの道のりは吐き気を催す程に緊張をしていた。
「お前だから時間を割いたのだ。トロノス。」
「えぇ、ありがたきお言葉。」
「そして、そのふたりは?」
「今回のドロガとマリナの殺人未遂事件の汚名を着せられた本当のドロガとマリナです。」
「では、犯人はお前らだ。死せ。」
無情な命令に衛兵が槍を構えてきた。
「待ってくだされ、王様閣下。こいつらは汚名を着せられた、言わば被害者であります。」
「知らぬ。わしの気分を害した名前を持つ人間自体殺されて当然だ。」
「ではひとつご提案をさせていただきたい。」
「最後まで醜い男よ。良い。言うてみろ。」
この国が保有する魂の天秤にて彼らは汚名を着せられた一般人ということを明らかにしていただけないでしょうか。」
声を震わせながらトロノスは言った。
「わかった。いいだろう。」
そういった王は魂の天秤を持ってくるよう言い放った。それはもはやどす黒いオーラを放った天秤だった。
「え…あれ?」
ぽつりと喋ったドロガにマリナはしーっと口に人差し指を当てた。
「これで測ってもらおう。片方には刺された男の怨念を。」
ふたりは飲み込んだ。
「そして片方には2人の魔力を乗せてもらおう。」
「魔力!?」
「あぁ。今回刺された男は魔法ではなくナイフで刺されている。つまりお前たちに魔力が十分にあればこの天秤を切り抜けるというわけだ。」
王はドロガの魔力の無さにほくそ笑んだ。
「ちょっと待って!ドロガにはそんな魔力は…」
「構わん。それで頼もう。」
王はさぁとでも言うように手のひらで天秤を指した。マリナが乗せた魔力を乗せた天秤はゆっくりとマリナ側に傾き、カタンと音を成した。マリナは一瞬安堵した。
「じゃあ、次は男。」
絶望しながらも見よう見まねで魔力を乗せた。にやけ顔の王はその瞬間目を丸くした。ガタン!という音を出しドロガ側に天秤が傾いた。大きく投げ出された怨念は花火のごとく散った。
トロノスは笑った。
「帰って良いかね?」
王は愕然とした。しかしかっと目を見開き叫んだ。
「えぇぇい!3人とも死罪だ!全員殺せ!」
そう王が言った時王宮弁護人が王を制した。
「王たる者の発言ではありません。お慎みください。」
そしてドロガ達に言った。
「あなたたちは王様の出した賭けに勝利いたしました。帰って良いですよ。」
悠々としているトロノスと反面ドロガとマリナは王宮を出るまでがちがちに緊張していた。
王宮の敷地内から出た時、ドロガとマリナはやっとちゃんと呼吸ができた。
「なんであんな危ない橋わたるの!?」
精神が限界を突破していたマリナはトロノスに解いた。
「マリナは鈍感だな」
そう言うトロノスにマリナは不貞腐れて言った。
「鈍感じゃないし。」
「まずドロガの魔力はデカすぎて見えん。だからドロガが人に近寄ったとこで近寄るほど分からない。まぁ、平たく言うと魔力の中に入ったらその魔力は見えなくなる。今回の王様みたいにな。多分、相当離れてやっと空の色が変わるのを不思議に見えるくらいだ。」
と、トロノスがいった。
「そんなにでかいの!?」
マリナは少し大袈裟に驚いて見せた。
「でもそういう節があったかも!バーグリーブが…」
***
「お前の魔力はデカすぎるんだ!デカすぎてその魔力に気づかねぇ!」
***
「って!」
「おや!バーグリーブにも会ったのか!」
「あぁ。途中で逃げられたけどな。」
「くはは」
トロノスは笑った。
「バーグリーブは魔王が統べていた9人の魔族、九鬼の1人で、魔族で魔法使いでもあった男だ。当時の俺たちでもやつを倒せなかったんだ。」
そして脱線した話を元に戻す仕草をしてから話し始めた。
「さて、ドロガについてだが、今、理由は分からぬが魔力が歪んでいる。」
「歪むってなんだ?」
とドロガは不思議そうに聞いた。
「魔力が少し乱れ、そこに精神的なアブノーマリティが漏斗状に出現する。そこを突かれちまったら通常どころか無駄に多くのダメージを食らっちまうってことだ。」
ドロガとマリナは頭にはてなマークを浮かべるように首を傾げた。
「あぁ…つまり大ダメージを食らう場所だ!」
「おう!わかったぜ!」
「そこを起点に魔力察知すればマリナでも見えるはずだ。まぁ、ここじゃなんだ。うちの店でやればいいそこそこ広いからな。」
***
そしてトロノスの店に戻った3人は机や椅子を端に寄せていた。
「トロノス、なんでおれらにそんな優しくしてくれるんだ?」
「クラウンが求めていた後継者かもしれないからだ。」
「後継者?」
「あぁ。おれたちがヒールになっちまったから、勇猛の象徴が必要だと考えてた。」
「それにおれらが適任だと?」
「そんなとこだな。まぁ、勘だな。」
そう話す2人にマリナは叫んだ。
「ちょっと!そこの男子!机寄せるの手伝いなさいよ!」
店を広く使ってドロガの魔力をマリナが見ることになった。
「じゃあやってみるね!」
マリナは魔力察知を使った。
「なんも見えないよ!」
「杖を使って魔法を散らせ!」
そういうトロノスにマリナは素直に杖を構えた。
「ちょっ!待てよ!」
焦るドロガと反面マリナは軽く魔法を放った。その時だった。
「見えた。」
数回繰り返しトロノスを見た。
「デカすぎて分からないけど、歪みが見えた!」
「ようやく分かったか鈍感女。」
「うん!」
そしてゆっくり座ったトロノスは話し始めた。
「で、次はお前だドロガ。クラウンの旅路を巡るんだろ?色々教えてやる。」
「あぁ!魔王城で魔王を倒して、その後南下したって聞いたんだけど…」
「それはデマだな。」
ドロガの話に切り込んでトロノスは喋り始めた。
「まずおれたちは魔王城に入ってない。行ったのはアゴーラ大陸の最北端 エデンと呼ばれる地帯までだ。」
あまりの衝撃告白にドロガは固まった。
「じゃあ、どうやって倒したんだよ!」
「いや、そもそも倒してない。」
「え?」
「魔王を倒すにはある条件があった。それを満たすに値しなかったんだ。だから封印した。倒したというていでな。」
そういうトロノスにドロガが口を挟んだ
「それじゃあ魔族や魔物どころか、その他全世界をも欺いたことになるじゃねぇか!」
「そうだな。確かにそうだ。でも世界の安寧を考えてそうするしかなかったんだ。」
そしてトロノスはこれ以上何も言いたくなさげな顔で話した。
「まずクラウンは魔王を討伐改め、封印した後、コメンサール公国を望んだ。あいつの故郷がある国だからだ。」
「クラウンもコメンサール王国で生まれたのか!」
「冒険者の6~7割は南方の人間だよ。」
そしてトロノスはまぁ落ち着けというように宥めた。
「おれはパーティのいちばんの古株だった。そして、魔王を封印してコメンサール公国に行き着く前にクラウンの死をこの目で見た 。そしてだが…」
ドロガが喋ろうとするのをマリナが黙らした。
「クラウンは殺された。」
驚愕の事実に、驚いたふたりは何も言えることがなかった。
***
勇者のパーティが魔王を封印して5年、クラウン一行は魔王討伐を機にゆっくりと南下する旅を進めていた。その道中、サワコフ村の南西にあるザイフェン村にて旅の疲れを癒していた。しかし、平穏は短く残酷に終わった。
空がまだ薄暗い時間、4人は宿で絶望していた。パーティの4人全員が第1級戦犯として身を終われることとなったのだ。
不穏に満ちた空気の中クラウンはゆっくりと話し始めた。
「大丈夫さ。だってまだみんな生きてる!生きてさえいれば何度だってやり直せるんだ。」
そしてザイフェンを後にした4人は、もう一度ザイフェンを出発地点にもう一度北上し、また魔王城へ行き帰ることにした。そして南下したその頃にはもう既に反勇者思想が無くなることを信じた。
しかし反勇者思想は根強いものだった。特に魔族や魔物からの襲撃を受けやすかった北部では特に影響は大きかった。よって、クラウン達が計画した北上計画は反勇者思想を持つ者に飛んで火に入るかのような自殺行為だったのだ。
***
「そして旅の道中でクラウンは死んだ。勇者様は竹で刺されただけで死んじまった。そこからはもう散り散りだ。クラウンの死後、北方の国々では反勇者思想は薄くなっていったんだ。まさしく無駄死にだったよ。」
「…まじかよ」
「おれらは結果に淘汰されたんだ。」
ドロガもマリナも静かに話を聞いていた。と言うよりもあまりに衝撃的な話のせいで言葉を失っていた、という表現の方があっていた。
「そして死の直前、クラウンが仲間にも見せなかった聖典セサルニウスの書は監禁魔法がかけられた状態で保管してあった。だから、お前のお求めの品はザイフェンにあるぜ。」
「そんなことより、もう1人の仲間はどうなったの?クラウン、トロノス、エイル。あなたの話だともうひとりいるよね。」
必死に考え抜いた疑問をトロノスにぶつけた。
「感がいいな。マリナ。」
「さっき鈍感女って言った。」
まぁ、許せと、言わんばかりに片手で合掌した。
「もう1人はな。死んだことになってる。」
不思議そうに聞くドロガにトロノスは言いにくそうに言った。
「何をして死んだことになったんだ?そいつの名前は?」
「言えねぇ。エイルとの約束だからな。」
「そっか。約束か。」
「じゃあ仕方ねぇ。無理には聞かねぇよ。」
「あぁ。ありがとうな。」
頭に疑問符を浮かべたドロガにトロノスは言った。
「いや、こっちの話だ。気にすんな。」
そして3人に夜が来るのであった。
誤植があったので改稿しました




