千両役者
「ボクも映画はよく観てたほうなんスけど」
休憩室のブラウン管は、まだ現役だ。
「なんか迫力に欠けるんスよね~」
キョン子は若手よりベテラン俳優の主演作を好んで観ている。
「グリーンバックではなあ」
彼らの責任では無いが、空想だけで演じるには限界がある。
「70年代・80年代の映画から伝わってくる空気感が、明らかに違うんスよね」
テーマも重々しいのが多かったからな。
「酷なことを言うようだが、『これはこの人じゃ無いと出来ない』ってのがあまり無いのかも知れんな」
自分にしかないものとは、何だろう?
「それもあってか、ボクはもっぱらアクション映画を観てますよ」
越苦春到はいまどき珍しく、ノースタントでアクションをこなす。
「和製ジャッキー、春到か」
武田鉄矢やウッチャンじゃないぞ。
「どうです? すごいでしょ、この動き」
画面を所狭しと移動する春到。俺とやったら・・・五分かな?
「俳優がもともと何を指してたか、知らない人も多いんだろうな」
「え、もともととかあるんスか?」
左目で画面を見て右目でこちらを見ている。カメレオンかよ。
「俳優はな、〔わざおぎ〕って呼ばれてたんだ。身振り手振りで神様を招く存在だったんだよ」
アメノウズメノミコトが踊り狂ってアマテラスを誘き出した神話は有名だな。
「動きで神様を・・・」
そう考えると、普段の何気ない動作も疎かに出来ないな。
「キョン子も所作のガサツなところがあるから気をつけないとな」
「先輩、ボクのお兄ちゃんみたいなことを言うじゃないスか!」
へえ。兄弟がいたんだ。
「魂がこもった演技だよ、春到は」
「ホント! 彼こそ大和男子ですね!」
春到は画面の向こうで、雄叫びを上げた。




