⑱うれしい帰宅者
もう夕方。
珍しく、カワセさん家の前で、タクシーが止まった。
そのタクシーから降りてきたのはパパだった。
パパ、お帰りなさい。
でも、いつもは電車で帰ってくるのに、どうして今日はタクシーなの?
と思ったら……。
あれ……?
パパのあとに、タクシーから降りてくる人影が……。
そうだったのね。
パパもなかなかやるじゃないの。
ミカちゃんとショウタ君の驚く顔を見られるのが、今から楽しみ~。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
子供部屋に入ってきたパパ。
ずぶ濡れで泥だらけのミカちゃんとショウタ君を見て、 驚いたどころではない。
「ミカもショウタ も、一体どうしたんだい?」
ミカちゃんはパパをがっかりさせると思って、下を向いてしまった。
あんなに頑張ったのに、かわいそう。
すると、突然ショウタ君がミカちゃんの手を握った。
ミカちゃんを見上げたショウタ君の顔は、怒られるときは一緒だよと言ってるみたい。
ショウタ君、急にいい子になりすぎよ。
だって、わたし、涙が出そうなんだもん。
そのときだった。
パパの後ろから入ってきた女性に気づいたミカちゃんが、目を丸くしている。
「あ、おばあちゃん、ママ……」
そう。
さっき、タクシーから降りてきたのは、おばあちゃんとママだった。
まだ、ミカちゃんは驚いている。
パパがミカちゃんに、笑顔で説明した。
「きっと、ミカとショウタが心配してると思ったから、病院の先生に頼んで、今日1日だけ退院させてもらったんだよ」
さすがパパだ。だから大好きなのよね。
でも、しっかり者のママは、汚れたシーツを見て驚いている。
「シーツも泥だらけじゃない」
ミカちゃんは、
「ごめんなさい」
と素直に謝った。
パパやママやおばあちゃんに心配をかけないように、一生けんめいガンバってきたのに……。
すごく、かわいそう。
一方、床に正座したおばあちゃんが、ミカちゃんの手を優しく握った。
「ミカ、ありがとう」
「え……?」
ミカちゃんは驚いた。
「だっておばあちゃん、シーツあんなに汚しちゃったのよ」
すると、おばあちゃんが微笑んだ。
「シーツはまた洗えばいいのよ。大体ママだってミカの年頃は、洗濯物を入れなきゃとさえ思いつかなかったはずよ。ね、そうでしょ、ママ……?」
ママが恥ずかしそうに、
「ほんと、そうねぇ。ミカ、ごめんね」
と苦笑した。
うれしいミカちゃんは泣きそうになった。
おばあちゃんはミカちゃんの手を握って、
「ミカ、あなたはわたしの自慢の孫よ」
と、いつもの優しい笑顔で言ってくれた。
ミカちゃんはついに泣き出して、
「おばあちゃん」
と抱きついた。
「ミカ……」
おばあちゃんもミカちゃんを抱きしめ、嬉しそうに涙ぐむ。
一度も弱音を吐いたことがないミカちゃんが、今は素直に泣いている。
おばあちゃんはそれが嬉しかったのだろう。
だって、ミカちゃんは泣きたいのにずっと我慢してきたのだから。
それを一番心配していたのが、おばあちゃんだから。
すると、なにもわからない ショウタ君が、
「ぼくも~」
と、負けずにおばあちゃんに抱きついた。
おばあちゃんは、自慢の孫2人をしっかりと抱きしめた。




