⑰「チビのママ、チビを助けてあげてー」
あ、そうだ。
なんで、今まで気づかなかったのだろう。
わたしなら、空まで上がれるじゃない。
母雲に見えるかどうか、わからないけど、じっとしていられないわ。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
わたしが空に上がると、母雲が雨雲になって雨を降らせていた。
ザーザー……て。
いなくなった子雲が心配でたまらないのだろう。
だから、わたしは母雲に教えてやった。
「チビのママ、下よ。公園を見て 」
やはり、わたしの声は聞こえていないみたい。
母雲はただ、泣いているだけ。
かわいそうに……。
そのときだった。
ふと下を見た母雲が、やっと公園の白いシーツに気づいてくれた。
『え? あれは何? まるで、わたしになにかを教えようとしているみたい……』
母雲の心の声が聞こえてきた。
わたしが死んだから、聞こえるのかな?
死んで初めて、よかった、と思えるできごとだった。
母雲が泣くのをやめると、雨も止んだ。
公園のミカちゃんとショウタ君が、蟻ぐらいに見える。
2人の声も微かに聞こえるけど、なんて言っているのかまではわからない。
母雲もそうみたい。
『え? なんて言ってるの? よく聞こえないわ』
と母雲の心が叫んでいる。
「耳に全神経を集中してみましょう」
よし、わたしもやってみよう。
あ、聞こえた。
ショウタ君とミカちゃんの言葉が、微かに……。
「チビのママー。子雲のチビはぼくん家にいるんだよー」
「でも、病気なのー。お願い。早く助けてあげてー」
母雲は驚いた、なんてものではない。
「まぁ、大変。でも、わたしは大きすぎて、地上までは下りられないわ。どうしましょう」
母雲は心配で黄色くなってしまった。
「どうしましょ?どうしましょ?どうしましょ……?」
母雲が悩んでいると……。
公園を出たミカちゃんとショウタ君が、どこかに走っていこうとしている。
母雲は驚いた。
「あなたたち、どこへ行くの? わたしの坊やはどうなるの? お願い。行かないでー!」
それでも、ミカちゃんとショウタ君の姿は見えなくなってしまった。
母雲はどんどん青ざめていく。
悲しいからに違いない。
「どうしたらいいのぉ?」
母雲はただただ、狼狽えるばかり。
それからしばらくして、ミカちゃんとショウタ君がまた、公園に戻ってきた。
しかも、うちわを仰ぎながら……。
その風に乗せて運んでいるのは……。
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……?
♢
♢
♢
♢
♢
♢
♢
子雲のチビ~?
そうか。
このために、一旦家に帰ったのね。
さすが、ミカちゃんたち、やるぅぅぅ。
母雲も、
「あ、坊や……」
と感激している。
そこへ、ショウタ君とミカちゃんの声が聞こえてきた。
音量は小さいけど、勇気を与えてくれる声だ。
「チビのママー、チビをつれてきたよー」
「早く迎えにきてー。お願ーい」
でも、母雲は悩んでいる。
母雲は大き過ぎて、公園までは下りられない。
そのときだった。
「あ、そうだわ」
母雲はそう呟くと、必死でお腹をへこませはじめた。
「ん~、ん~」
と。
一体、なにをしているの?
すると、母雲のお腹が、ドーナッツのように空洞になった。
やっぱり、雲って何にでも変身できて羨ましいなぁ。
なんて、言ってるときじゃないわよね。
あ、あれはなに?
母雲の空洞のお腹から、光が下りていく。
周りは曇って暗い分、下りていく一筋の光が輝いて見えた。
そうか。
太陽の光だ。
母雲が太陽の光を、子雲に向かって下ろしているんだ。
キラキラ輝いて、とってもキレイ。
あ、そうだ。
わたしも子雲のところに行って応援しなきゃ。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
わたしが下りていくと、公園ではミカちゃんとショウタ君が、下りてくる光を見ていた。
最初は、2人とも驚いて、ただポカーンと見ていたけど、母雲が子雲に向かって下ろしていると気づくと、ワクワクしているようだった。
そして、ついにその光が子雲に当たった。
すると、ウソ。
そんなことってあるの?
なんと、その光が子雲の体を抱き上げた。
これはすごい。
チビのママ、やったね。
ミカちゃんとショウタ君も応援している。
「チビ、ガンバレー、ガンバレー……」
と。
よし、わたしも応援するわよ。
「チビのママもガンバレー、ガンバレー……」
そのときだった。
あ、あの光が、子雲の体を持ち上げたまま上っていく。
こうなったら、わたしが見届けてやるわ。
わたしも子雲と一緒に、また上りはじめた。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
やっと、子雲は地上と空の中間ぐらいまできた。
地上で、ショウタ君とミカちゃんが、子雲を見送っている。
手を振って、叫びながら。
「チビー、また一緒に遊ぼうねー。絶対だよ。約束だよー」
「チビー、それまで元気でねー」
と。
わたしは一足先に、空に上り、子雲を待つことにした。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
空では、やっと子雲が光に持ち上げられてきた。
母雲が優しく子雲を抱きしめた。
あ~、よかった。
これで、子雲の病気もすぐ治ることでしょう。
あ、空に大きな虹がかかった。
わ~、キレイ。
きっと、母雲がミカちゃんとショウタ君にお礼を言っているのね。
「ありがとう」
て。




