⑯キーワードは、『公園』と『シーツ』
玄関から出てきたミカちゃんは、空を見上げて驚いた。
まるで、夜のように真っ暗。
雨も風も、子供部屋の窓から見たときよりも、強くなっている。
更に、心配になったミカちゃんは、
「ショウタ……」
と独り言を呟き、土砂降りの雨の中を走りだした。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
わたしが先回りして公園に着くと、ショウタ君が空に向かって手を振りながら、
「チビのママー、ここだよー。ここー」
と叫んでいた。
そこへ、やってきたミカちゃんも、空に向かって叫ぶ。
「チビが病気なのー。早く手当してあげないと死んじゃうわー」
振り向いたショウタ君は驚いている。
「お姉ちゃん……」
ミカちゃんは、
「ショウタ、もっと大きな声で叫ぶのよ」
そう言うと、ニコッと微笑んだ。
「 うん」
ショウタ君は元気100倍。
2人とも、とってもいい笑顔よ。
それから、ミカちゃんとショウタ君は、ありったけの声で、空に向かって叫んだ。
「チビのママー」
と。
でも、雨音が強すぎる。
「これじゃ、母雲に聞こえない わ。どうしよう 」
ミカちゃんは考えた。
「あ、そうだ」
と、公園の出口の方に走っていく。
一方、驚いたショウタ君が思わず、
「あ、お姉ちゃん……」
と呼び止めた。
立ち止まったミカちゃんが振り向く。
「すぐ戻るから、ショウタはそこにいて」
それでも、ショウタ君は不安でたまらないみたい。
「だって……」
と口を尖らせたている。
そこで、ミカちゃんが
「わたしを信じて、ね 」
と優しく微笑んだ。
すると、ショウタ 君も笑顔で、
「うん」
と頷く。
あれ?
なんか、ショウタ君が少しお兄さんに見えたのは、わたしの思い違い?
だって、チビを帰さないってダダをこねていた、さっきまでのショウタ君とは別人に見えるもの。
なにかフシギ。
ミカちゃんもそう思ったのかな。
「うん」
と優しく微笑むと、走っていった。
一方、ひとり残ったショウタ 君は、ミカちゃんを信じて、再び空に向かって叫ぶ。
「チビのママー」
と。
でも、やっぱり、母雲には聞こえていないみたい。
それでも、ショウタ君は叫び続けた。
一生けんめい、心を込めて、何度も何度も。
その時だった。
あ、ミカちゃんが走ってくる。
でも、あれはなに……?
ミカちゃんが肩に担いでいるあの白いものは……シーツ……?
どういうこと……?
ショウタ君の前まできたミカちゃんは、シーツを差し出した。
「ショウタ、シーツの端を持って。チビのママに向かって広げるのよ」
あぁ、なるほどね。
さすがミカちゃん。
ショウタ君もうれしそうに、シーツの端をもった。
ミカちゃんとショウタ君がシーツを広げ、頭上まで持ち上げようとした、ちょうどそのときだった。
突然、ビューンと強い風が走り去った。
「あ……」
風に煽られたシーツに引っ張られて、ショウタ君が転んでしまった。
しかも、転んだショウタ君の上に、シーツが覆い被さっている。
驚いたミカちゃんは、心配そうに、
「ショウタ」
と叫んだ。
一方、ショウタ君の方は、シーツの下で、モゴモゴしている。
ミカちゃんが慌てて、シーツの端を持ち上げる。
そのおかげで、ショウタ君はやっとシーツの中から顔を出すことができた。
「あー、苦しかった」
ショウタ君、それはちょっと大げさよ。
でも、ショウタ君の顔は泥だらけ。
笑っちゃうくらい。
ミカちゃんもあきれたみたい。
「あーぁ、ひどい顔」
と笑っている。
ところが、ミカちゃんの顔を見たショウタ君も笑いだした。
「あー、お姉ちゃんも……」
「えっ……?」
シーツを持ち上げることに一生けんめい過ぎて、ミカちゃんは気づいていないのね。
シーツについていた泥が、ミカちゃんの顔にもついたことに。
やっぱり、ミカちゃんの顔も泥だらけ。
ミカちゃんはやっと気づいたみたい。
「あ、ヤだ」
と手で顔を拭いたら、逆に泥はミカちゃんの顔中に広がるばかり。
ついに、ミカちゃんも諦めた。
結局、2人共、顔を見合わせて笑うしかないよね。
でも、あーあーあー。
シーツはビショビショで泥だらけ。
そのことに気づいたショウタ君は、ちょっぴり不安顔。
「パパに怒られちゃうね」
それでも、ミカちゃんは元気に言った。
「しかたないよ。それよショウタ、さ、もう1回」
「うん 」
ショウタ君も笑顔で答えた。
それから、ミカちゃんとショウタ君はまた、シーツを持ち上げようとガンバる。
でも、シーツはビショビショに濡れて、さっきよりもっと重くなっていた。
「お姉ちゃん、重いよぉぉぉ」
「 ショウタ、頑張ろう」
やっと、ミカちゃんとショウタ君は、シーツを持ち上げることができた。
フラフラしながらも、ショウタ君とミカちゃんは、あるったけの声で空に向かって叫ぶ。
「おーい、チビのママー!」
「気づいてー!」




