⑮チビを助ける方法は……?
チビのホームシックに気づいたばかりなのに、悪いことって、続くものなのね。
カワセさん家のすぐ近くに、すごい音のカミナリが落ちた。
“ドドドドド”
そして、雨足も強くなった。
“ザーザー”
ミカちゃんは窓を開けて空を見上げた。
空では母雲がハイイロをとおりこし、今は黒くなって、カミナリと雨を降らせている。
まるで、母雲が泣いているよう。
「あ、そうだ」
ミカちゃんは、なにか気づいたみたい。
「おばあちゃんもわたしたちのことを心配していた。病気してないかな? 仲良くしているかなって。だから母雲もきっと、子雲のことが心配で心配でたまらないんだわ」
そのとき、あ……。
子雲がフラフラしながら、窓から外に出て行こうとしている。
驚いたショウタ君が、
「チビ、どこに行くの?」
と心配そう。
ミカちゃんも、
「病気なんだからダメよ」
と、とめようとした。
一方、子雲には聞こえていないみたい。
辛そうに、ハアハアと荒い息を吐きがら、一生けんめい、空に上がろうとしている。
でも、力つきて、床に落ちてしまった。
そうか。
空から下りてくるのは簡単でも、上るのはタイヘンなんだ。
それでも、子雲は何度も空に上ろうとして、そのたびに力つきてしまった。
やはり、子雲の力では無理なのね。
ついに動けなくなった子雲は、床に倒れこんだまま、苦しそうに息をしている。
そんな子雲を見ていたミカちゃんが、はっと気づいた。
「そうか。チビは母雲に会いたいんだ」
驚いたショウタ君が、
「どうして?」
と訊いた。
「きっと寂しいのよ。だから、チビを母雲のところに返してあげなきゃ」
ショウタ君はなぜか怒っているみたい。
「イヤだ。チビはぼくとずっと一緒にいるんだ!」
ショウタ君、気持ちはわかるけど……。
そこで、ミカちゃんはショウタ君を優しく諭す。
「ショウタだって、ママやおばあちゃんに会いたいんでしょ?」
ショウタ君は口を尖らせたまま、黙ってミカちゃんをにらんでいる。
瞳に涙をためて。
きっと、ショウタ君にとっては、それはそれ、これはこれなのね。
本当はショウタ君だってわかっているはず。
子雲を空に帰してやるのが一番いいんだって。
でも、どうしても言えないのよね。
口が動かないっていうのかな。
だって、ショウタ君はまだ5歳だもん。
ミカちゃんは、おばあちゃんやママがしていたように、床に座って、優しい笑顔でショウタ君を見つめた。
そして、
「 空に帰ったって、チビはショウタとずっと一緒よ。だって、オバサンなんだから。そうでしょう?」
と教えた。
ショウタ君はまた泣きだしそうになった。
でも、今度は必死でガマンしているって感じ。
口を尖らせて、ミカちゃんを睨むことによって、涙を止めたいのだろう。
ミカちゃんは、
「ね、ショウタ、チビを母雲のところに帰したやろう」
と優しく言った。
相変わらず、ショウタ君は口を尖らせ、ミカちゃんを睨んだまま、それでもやっと頷いた。
「でも、どうやってチビを空に帰すの?」
ショウタ君のささやかな抵抗かもしれない。
「チビのママに教えられたらいいんだけど。チビは家にいます。病気ですって。そうしたら、きっと母雲が迎えにきてくれるわ」
「じゃぁ、チビのママに教えようよ」
ショウタ君の変わり身の速さは天下一品。
もうチビを助けることしか、頭にないみたい。
だから憎めないのよねぇ。
「空は遠いのよ。母雲からは、わたしたちなんてアリぐらいにしか見えないし、声だって聞こえないよ。気づくはずないわ。どこか広いところで叫べば、気づいてくれるかもしれないけど……」
「じゃぁ、公園に行けばいいよ」
「でも……」
ミカちゃんは迷っているみたい。
パパから、外に出ちゃダメって言われたから。
「パパから叱られるわ。がっかりさせたくないの」
「じゃ、ぼくひとりで行く」
ショウタ君は、子供部屋から走って出ていった。
ミカちゃんは、まだなにか考え込んでいる。
ミカちゃんとわたしが玄関にいったのは、あれから数分後。
ショウタ君はレインコートを着ているところだった。
「ショウタ、待ちなさいよ」
「だって、お姉ちゃんは行かないんでしょ。だからぼくが行く。ぼくがチビを助けるんだ」
そう叫ぶと、ショウタ君は玄関を出ていった。
「あ、ショウタ……」
やっぱり、ミカちゃんは迷っているみたい。
自分たちだけでもちゃんと留守番ができるというところを見せて、パパを安心させたいから。
だって、パパを安心させることは、おばあちゃんやママを安心させることになるから。
でも、ショウタ君が……。
ミカちゃんはついに決心したのだろう。
ショウタ君をこのまま放っておけないからって。
「パパ、ごめんなさい」
そう呟いたミカちゃんは、慌ててレインコートを着て、玄関のドアを開けた。




