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第12.5章 ⑤ 偽りの理想

第12.5章 ⑤ 偽りの理想


部屋に集った男達は、部下も連れず、最小限の人数しかいない。


2202号室のスイートルームに集まった男達は、

一人離れた椅子に腰掛けては足を交差して腕を組む者。部屋のワインを口にしながら下に見える河川の夜景を眺める者。はたまた、黙って目を瞑り時が経つのを待っている者。各々の様子は異なり、その中でも特に際立つのは、自ら持ち出した将棋盤で詰将棋を行う白髪の男だ。

白髪の男は目の前にいる瞑想中の男を乱すかの様に、「パチン!」と駒を置いては、無言の空気に、唯一の音をもたらす。


そこにスイートルームの扉を開けて待望の人物が現れると、視線は一気にその人物に注がれる。


「皆さんお待たせ致しました。会合を始めましょう。」


SPを扉の外に立たせて、部屋に入って来たその男こそ、内閣総理大臣、佐伯一郎である。


「遅いんじゃないですか。年寄りはもう寝る時間ですぞ。」

冗談を込めたであろうその言葉に、先程まで瞑想していた男、三上茂の鋭い眼光が飛ぶ。

その視線に罰の悪さを感じたのか、再びワインを口にしては、視線を逸らす男は、新経済連合の元会長東堂進。現在は門松建設の会長を務める人間だ。 


「東堂さん。これはこれは、先程はお世辞になりました。」

慣れた手つきで握手を交わすと、部屋を見渡す。


「いいや。老人を待たせるのは病院と権力者の特権だろ?」


懇意な仲にある白髪の男の言葉の裏には労いの気持ちと自らの息がかかった人間がこの国のトップにいる事への満足感が窺える。


「おお!二神会長!こんな所でお会い出来るなんて!こうして会えるのは春の桜の会以来ですね!」


佐伯は第二の父と仰ぐその人との逢着に、思わず快哉を叫んだ様に見せる。その実、佐伯は二神からおおよその話は聞いていたのだ。そしてやるべき事はこの会合の前に確認している。


「君は会合のメンバーを知らされていないと聞いていたが、それは本当のようだね。」


「ええ!何せ、この会合の存在自体知ったのは、ここ最近ですからね。」


自然体に握手を交わした佐伯は、一人離れて座るその男の存在を視界に捉える。


すぐに何をすべきか判断した佐伯は、その男に歩み寄って行く。


「藤村先生じゃないですか!藤村先生も会合のメンバーなんですか?」


「いいや、私は正式なメンバーではないよ。大友先生の後継が決まるまでの臨時だ。」


周囲を気にしては、警戒を怠らないその男は、笑顔の下に、本音を隠し持っている。


「そうでしたか。まあ私もこの会合の慣習ということで、メンバーに加えて頂いた者に過ぎませんので。どうか気兼ねなく。」


「御同胞が集まったところで、早速会合を始めないかね?君も時間が惜しいだろう。」


そういう三上はその場で勢力図を分かっていた。

二神、佐伯は同じ急進派。東堂も殆ど急進派と同じと言っていいだろう。そして大友の代理として来た大村は、かつて大友内閣で官房長官も務める旧知の仲。穏健派と急進派の中間的な立ち位置は変わらないだろう。ともすれば、この会合において、穏健派の人間は自分一人で、政局的に不利であることは火を見るよりも明らかだった。


そして、その会合においては多数の決定が遵守されていた。


「ええ。しかしその前に、私から参加者の追加をあらかじめお伝えします。どうぞ、入って。ご紹介します、コンキリオ機関統括部長兼、龍ヶ峰市長の小倉成心さんです。」


その言葉を受けて小倉は、スイートルームに入り、礼をして慇懃な態度で挨拶をする。


「どうも今回、佐伯首相よりご招待頂きました。

小倉成心と申します。よろしくお願いします。」


「ほぉ、これまた何でその人を無理矢理ここへ?」


東堂が疑問に思うのは無理もない。この会合は最低人数の5人が必ず守られており、その情報の秘匿のため、会合は限られた人数で運営されて来たのだ。


「確かに。それはごもっともでしょう。しかし、今回の議題に限ってはお許し願いたい。もちろん決を取る際には参加致しませんので。ご安心を。」


「まあ、いい。早く君の提案を話したまえ。」


三上は事の次第をおおよそ理解した。これは二神の仕草である事。そしてこの会合の結論はもう出ている事に。


「三上先生。分かりました。では手短に、今回の会合の議題としては二つ、一つは「ツトメ」の後の勢力についてです。二つ目は「時渡りの能力」を用いた、緊急国家戦略の実行です。」


「まずは一つ目の議題。「ツトメ」の後の勢力の合意です。前回は記録によれば、120年前とされています。ここでのツトメを成し遂げた者は大友先生の直系の血筋にあたる方だとお聞きしています。その方のご意向で、特段の霊力供給に関する制限などは設けず、公平分配し、後は各々の信仰心獲得によるものとされてきました。これについてですが、今回もツトメを成し遂げた者の方のご意向に従う形でよろしいですか?」


「異議なし。」

「無論。」

「いいでしょう。」

「問題ないと思います。」


「ありがとうございます。それではその様にして頂くとして、次の議題です。「時渡りの能力」を用いた緊急国家戦略の実施ですが。」


「具体的にはどうするのだね?」


二神は如何にもその場に合わせる様に話に合わせている。


「ええ、具体的には、ここにいる小倉君に説明をお願いしたいと思います。では小倉君、頼みます。」


「分かりました。今回の会合で同意頂きたいのは、他ならぬ私の契約した神、クグス神の神使であり、特異な能力を持つ黒猫の「時渡り」を用いた、国家の救済計画です。」


「この計画は、彼が持つ「時渡りの能力」を用いてあらゆる災害、国防、経済にわたる多岐において用いる事で、今後の国家を支えていこうというものです。」


「フッ。馬鹿げておる。己の傲慢さに気づけぬ愚か者が筋書きを書いたんじゃろうが、小倉、君もその毒牙に頭までやられたのかな?」


最大の皮肉を込められた言葉は、言葉に含められた方向とは、明らかに違う方へと向いていた。


「ほぉう。三上先生はどうやら頭が硬いらしい。それとも息子がオオクニヌシノカミの恩恵を得れず、余程冷静な考えを持てぬ状態なのでは?」


するのテーブルのグラスや、室内の花瓶、あらゆるものが霊力による振動で細かく動き始める。

今にも二人の力による闘いが始まりそうなのを見かねた東堂が慌てて仲裁に入る。


「ち、ちょっと!二神会長も三上先生も落ち着いてください!小倉君と言ったね、とにかく計画の詳細を。」


諌められた二人は素直に霊力を放つのをやめる。



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