第12.5章 ⑥ 偽りの理想
第12.5章 ⑥ 偽りの理想
「分かりました。計画では、彼の霊力供給は自然界にある霊力を徐々に取り込む方式であり、
この力を発揮するには限界があり、一回発動すればインターバルがあります。その限度はおそらく行使した規模によりますが、国家規模であれば、
数百年に一度かと。そのため限定的な行使を複数回に分けて行う案と、国家的危機に際してのみ行使する案が出されております。」
「複数回に分けて行う場合には、金融市場への介入策が検討されています。現在投入されている公的年金の運用に関して、巨額の損失が見込まれる場合には、会計上はそのまま損失として計上しますが、その場合は暗号資産への振り替えなどで、対応する予定です。」
「そんなことしたら、株価が一気に下がってそれこそ大混乱だ。しかもその金を一体どうする気だね?」
「ご承知の通り巨額の資金を一気に引き上げる事はできません。しかし、下落のタイミングさえ知っていれば、問題ありません。そのタイミングで空売りを同時にし、得た利益を即座に市場に戻す。現実には損益どころか、利益が出ている。しかも市場にある資金量は変わらない。かつ、浮いたお金が発生する。という仕組みです。無論浮いたお金に関しては、身寄り無しの人間を用いて国庫への帰属という形で少しずつ還流するのがベターでしょう。
「そんな大掛かりな事をするということは、多くの人間に霊力を持って操作を行う。結局はそういう事かね?」
三上は小倉を見つめて問いただす。
「最小限にとどめますが、実行の際には躊躇は無いかと。」
「皆さん。金融の話ばかりになっていますが、私はそこは本筋じゃないと思っています。本筋は災害や国防における重大危機に対する対応です。マーケットに対する介入はただでさえ難しい。神の力を持ってしても、他国の事情を操作出来ぬ以上限界がある。それに比べて、災害における対応や国防に関しては、その情報一つで救える命が多くある。私はそこに関してこの力の意義があると思います。」
「私もそう思う。「時渡りの能力」未来を知れる。不確実な未来でも、知ってる事をやるのと、知らない事をやるのでは大いに違う。私は賛成だ。」
議論を進める上で、早々と賛成を表明した二神は、東堂へと目をやる。実質この男が賛成すれば、この話は終わるからだ。
「二神さん。経済を知る者としては金融市場に対する介入は反対だ。それにそんな巨額の不明金を還流するなんて無茶な話だ。しかし、災害や国防と言った形なら賛成だ。つまり条件付き賛成だ。」
「藤村さんはいかがですか?」
佐伯が話を振ると、ふと小倉の頭上付近を見上げたかと思うと、ようやく口を開く。
「そうですね。私は反対です。神の力はあくまで恩恵的であると考えなので。」
「分かりました。三上先生はどちらですか?」
話を向けてきた佐伯を見て、それから小倉の方を見る。そして何かを見つけた三上はおもむろに立ち上がり、話す。
「そもそも、その「時渡りの能力」は使える代物なのかね?私には机上の空論を話している様にしか思えん。そうだろ?そこの黒猫よ。」
三上は小倉の頭上付近にいた存在を隠していた霊体を捕まえると、この場に引き摺り出す。
「おい、おい、動物愛護を唱えて選挙に出る気はないのかよ。」
黒猫は首根っこを掴まれて完全に逃げれずにいる。
「今回はたまたま、ここにいらっしゃるようなのでご本人お聞かせ願いましょう。」
小倉は掴まれた黒猫を引き渡すように、三上に両手を差し出す。
三上は掴んだ黒猫をその手に乗せると、黒猫は小倉の肩に乗る。
「ミにゃーさん。今日は俺のために集まってくれてありがとう!それで?俺の力を使うとか使わないとか、本人抜きで話し合ってたってね。埒あかないでしょ。だからさ、ここは腹割って話そうかと思ってさ!」
「フッ。神使ふぜいが、私達をどうにか出来るとでも?」
三上は腹の底に苛立ちを押し留めて椅子に座り直す。
「そりゃ、あんたらが束になってかかってきたら大変かもだけど、こっちにはあんたの孫娘もいる。可愛い孫娘が酷い目に遭うのは嫌だろ?」
「脅しかね?姑息な。」
「姑息でも何でもいいさ。とりあえず話を聞いてくれや。俺の力はフルパワーだと自分一人ではどちらにせよ制御できねー。
だけど扱いようによっちゃ未来に行っては情報を取ってくるだとか、
未来に干渉する事は可能だ。
が!そもそもそんな事を俺はしたくねぇ。人間ってのはどうも信じられなぇからな。何するかわかんねぇ。だからだ、こっちの条件を呑んだ場合にのみ、その対価として働いてやってもいい。
但し!最終的に決定するのは俺だ。だからお前らが、私利私欲のために使おうって魂胆ならお断りだね!」
「フ、フッハハハ!それはいい。こちらとしてはその条件で個別交渉といこうじゃないか。どうだろう?三上先生もそれなら納得頂けるか?」
二神の笑いと、その態度が気に食わない三上だったが、どちらにせよ多数決を取れば、見えた結果だ。
無言で頷き、三上はそのまま部屋を後にする。
「では、これで決まりましたね。皆さん遅くにありがとうございました。」
佐伯は三上に続いて退出していく3人を見送る。
「二神会長。お疲れ様でした。ではまた。」
「ああ、こちらこそお疲れ様。小倉君もお疲れ様。」
「いえ、こちらこそお疲れ様でした。おやすみなさい。」
二神も退出し、佐伯と小倉、黒猫だけが部屋に残される。
「さて、小倉君。君のビジョンは先程聞いた。そしてそこの黒猫さんのご意向もね。しかし、君らは本当の狙いは何だい?」
「本当の狙い?そりゃ、小銭稼ぎと権力闘争だろ。俺は神社のために小銭を稼ぎたい。コイツは目的のために国のトップになりたい。それだけだろ。」
そう言って黒猫は後脚で首をかいては、伸びをする。
「彼はそう言ってるけど、君の本音はそれでいいのかい?」
深淵を見つめる様な眼でこちらを見る佐伯に、小倉は一種の同じものを感じ取っていた。
「ええ。私はトップに立つことが目的。それ以外問題になりません。」
「そうかい。分かった。ちなみに黒猫さんはこの後のご予定は?」
「あ?俺はガキの子守りだよ。あっちもこっちも忙しくて大変なんだ。んじゃ要がないなら俺は戻るぜ。小倉、あとはしっかり片付けとけよ。」
ピョンと小倉の頭を踏み台にしたかと思うと、
そのまま霊体化し、姿を消す黒猫。
黒猫が消えたのを確認すると、佐伯は小倉の手を取る。
急に手を取られたのに、狼狽したが、
その行為の意味を分かり、小倉は自らの深淵を見つめる。
「小倉君。君の仕事を知ってる。コンキリオのファイルも読んだ。だから言える。君の望みは叶う。手を組もう。」
佐伯は嘘は言わなかった。
「すいません。この後仕事がありますので、少し考えさせてください。」
小倉はその手を丁寧に解き、スイートルームを後にする。
その後ろ姿を見届けた佐伯はしばらくそのまま椅子に座り、残された将棋の盤を見ては、薄ら笑いを浮かべて駒を動かす。
「首相。お客様です。」
「通してください。」
外のSPから声がかかるのを待っていたかのように即座に答える。
入って来た男はその顔に本音を隠していた男だ。
「佐伯首相。小倉の取り込みは?」
「首尾良くやっているさ。あと数手いや‥王手だな。」
盤上には身動きが取れなくなった玉が、そこにはあった。




