第8章 ④ 祭りはいつも生きるか死ぬか!?
第8章の4 祭りはいつも生きるか死ぬか!?
こんなに凄い家の御令嬢であることを再確認したところで申し上げるのは本当に辛いことだ。しかし、今ここで言わなくてはならない。そうでなければ、5日後の祭りは彼女無しでは成立しないからだ。
「えーと。どこから話せばいいのやら。」
慎重に言葉を選びながら話始める。
「もう!今更なんだって言うのさ!」
と期待に胸を膨らませ、今にも嬉しい言葉が聞けるのではとの予感を感じているであろうヒカルに、こんな事を告げるにはあまりに難しいミッションだ。
「そ、そのだな。ヒカルには、モデルになって欲しいんだよね。祭りの‥」
予想外の言葉にヒカルの表情が曇る。
「ん?モデル?モデルなんか必要なの?祭りでしょ?ファッションショーでも開催する計画なんてあったけ?」
首を傾げるヒカルだが、それもそのはずだ。モデルのことなんて全く言ってない。そもそもファッションショーのモデルですらない。と言うかモデル、と言うよりはこの仕事内容なら、ご当地アイドルの方が相応しい内容だろう。
「えっとだな。これを見てくれないか?」
恐る恐る、自分のスマホの画面を差し出して見せる。
「え?これ私じゃん!しかも巫女の姿の時の!」
「そ、そうなんだよね。ヒカルの巫女姿なんだ。」
「いや、こんなのいつの間に!てか!これSNSじゃん!これ勝手に投稿したの?」
ヒカルの反応は至極当然だろう。勝手に自分の写真をSNSにアップされれば、怒るのは当然だ。
「そ、そのですね。SNS戦略をご存知ですか?」
「は?何言ってんの?」
「えーと、ですね。このSNSは特に映え!と言うものが持て囃されていて、可愛い動物!絶景!そして、美女!この三つこそバズりの鉄板なのです!」
「は?意味わかんない!でどうしたらこれを勝手に投稿する理由になるの?」
座卓を叩くヒカルを恐れ、思わず両手で防御の姿勢をとる。
「す、すいません!その、正直に言って自分は絶景シリーズでバズり、一気にフォロワーを増やして天空祭を宣伝しようとしたんだ。だけど、思った以上にフォロワーもいいね!も増えず、苦肉の策で‥」
「で、私の写真を使った訳?」
自分はこくりと頷く。
「はぁ、なんで私?可愛い動物ならマルくんいるじゃん!」
「いや!それはもうバズってるから!ほら!」
とマルの黒猫やってみたシリーズを見せる。
「凄い。こんなに。知らなかった。」
「ね?でも、ここで宣伝するにも限界があるんだ、猫好きの共通点を考慮してなかった。まさに盲点。」
「何その盲点って?」
「そのぉ、猫好きってインドア派なんだ。だから観光系とのシナジー効果が薄かった。マルのアカウントで別のことを投稿してもいいね!が少ない。でももう一つがあることを思いついたんだ!それが‥」
「私?」
「そう!まさに美女!巫女×美女×祭り!これが最高の組み合わせだったんだ!」
その言葉に少し怒りの矛を収めたヒカルはお茶を飲み、一息つく。
「で?それは上手くいったの?」
「ああもちろん!ほら!見て!一万以上のいいね!しかもコメントも肯定的なものばかり!」
と先程の投稿を下にスクロールして見せる。
「ふーん。そっ。」
「だからさ、勝手に投稿したこと本当にすまないと思ってる。この通り、ごめんなさい。」
土下座をして許しを乞う。
「はぁ。いいよ。そこまでカケルにさせるのはなんかこっちが気分悪いし。」
「本当か!ありがとう!本当にヒカルは天使だな!コメント通りだ!」
ヒカルの手を握り、顔を見つめると、ヒカルは恥ずかしそうに顔を背ける。
「ふーん。じゃあもっと他の写真も必要なんじゃないの?」
ヒカルはツンデレを発動してるがこの際絶好の機会だ。
「ありがとう!しかも映えそうな着物!この日本庭園で撮ろう!」
そこからはしばらく撮影会を開催し、投稿用の写真を獲得した。しかし、もう一つのハードルを超えねばならない。
「あのーさぁ。もう一つお願いがあるんだけど。」
「何?まだ何かあるの?」
「それがさ、祭り当日も巫女さんをやって欲しいんだよね。」
深層心理を見抜かれぬように、視線を外に向けて話す。
「え?まあ、それくらいならいいけど。」
「本当に!ありがとう!でも、あっ、やっぱりこれは頼めないよなぁ。」
「何?まだ何かあるの?」
「そのぉ。チェキとかもいい?」
「は?」
ヒカルの冷たい視線が自分の体を貫く。
「そ、それがさぁ、やっぱり巫女×美女×祭りはバズりにはなっても集客とはまた別物で、人を集めるとなると、御守だけではちょっと足りなく‥」
自分のスマホを見て、奪い取るヒカル。
「で?それでこう言うことした訳?」
ヒカルはさっきの自分のアカウントで大々的に宣伝している投稿を見せてくる。
100年に一度の奇跡!巫女を超えて、もはや空より舞い降りし天使!あなたも天使に会いにいこう!
と銘打った写真に、コメントで、
奇跡の天使とチェキが撮れます!一回1000円。追加でもう3000円で、天使と二人っきりになれちゃう!お触りなしの眼福タイムをご堪能あれ!
「ふざけんな!」
見事に顔面に蹴りを一発食らった自分は、そのまま気絶できていれば、どんなによかっただろう。蹴りを食らった自分は、初めて世界がスローモーションに見えた。その時に思った、映画の世界じゃなくてもスローモーションは体感できる。思いっきり蹴り飛ばされれば。
しかし、これは最悪の事態だ。蹴りを受けたのにも関わらず、不運にも意識がある。
「おい、カケル。てめぇ、これ、犯罪だぞ。お前を警察に突き出して、少年院のお友達とよろしくやる人生を送らせることもできるんだぞ?わかってんだろうなぁ?」
自分の髪を掴みながらさっきの一発で既に血だらけの顔面を潰しにかかるヒカル。その形相はまさに鬼だ。
「ごぉ、ごめんなさ、い。いっ、一回離して‥」
必死の懇願に膝の一撃を加えてから離すヒカル。
「よし、一回話聞いてやる。そこに正座しろ。」
外に出された自分は日本庭園の砂利に正座させられている。
「そ、そのぉ。これはですね。あくまで、宣伝でして、その別に二人っきりで‥」
言葉を遮るように見事な回し蹴りが炸裂し、自分は吹っ飛ばされる。
「おい、戯言は聞きたくないな。二人っきりでなんだって?」
ヒカルはぶっ飛んだ自分の首元を掴み元の場所へと引きずり戻す。
「じ、じふんはやめよう。っていったんてす。ても、マルが。」
血だらけで腫れて上手く喋れない自分を他所にまだ、拳が残っていると言わんばかりにポキ、ポキと拳を鳴らす。
「へぇ。人のせいにするんだ。お前の遺言はそれになるけど、いい?」
何発食らったかはもはや記憶にない。ただそこにあったのは、「あ、死ぬな。これ。」という思いだけだ。
「ごぉ、めんなさい。ゆるひて。」
ぼろぼろになった顔面、胴体、四肢を見て流石に我に返ったのか、冷静になるヒカル
「ご、ごめん!やり過ぎちゃったね!こんなになるまで、やっちゃうなんて私のバカ!」
さっきとは異なり、自分を慰ってくれる。
「でもね。これは当然の報いだと思うの。わかるでしょ?」
優しい慰めに不釣り合いな冷悟な口調での、わかるでしょ?は訳すると死刑宣告を意味している。
「ごぉ、めんなはい。ほんとに、」
泣きながら殺さないでくれて懇願したことがある中学生がどれほどいるだろうか。しかも同級生の幼馴染とくれば、世界で自分くらいだと断言できる。
「いいのよ。わかれば。でもね、今後あなたは私の言うことは何でも聞くの。いい?私が行けと言えば、そこが肥溜めだろうと、何だろうと、あなたは行くし、私がやれと言えば、あなたは逆立ちで町内を一周することも厭わない。そうよね?だってあなたは私の奴隷だもの‥ね?」
それは同意を求めたのではない。命令したのだ。
彼女は泣きながらやっとの思いで頷く自分を、我が子を優しく撫でるように慰め、力により制した。その結果その男は完全に堕ちた。
そう、#今日から自分は奴隷になりました。
それからは大変だった。SNSの投稿の修正と、謝罪。しかし、人を集めるのは必要だったため、チェキの開催は残し、特別ボーナスステージとして、10分のお話タイムに変更となった。
さすがに二人きりはまずいので、スタッフ付きます!と注釈もつけた。
そして、家に帰ってからも大変だった。
謎の暴行傷害被害を受けた息子を見た母さんは警察に行こうと言うが、必死になって止めた。
全てを理解したばあちゃんが、手荒な女神様に出くわして、少々困難な訓練を受けてこうなった。という如何にも無理なシナリオを母さんに説明し、なんとかその場を収める。
こんな怪我で病院に行っては確実に怪しまれるため、自宅療養だ。もちろん学校にも行けず、マルにはボコボコにされた顔面を笑われたが、命があったのは奇跡と言ってもいい。あの時ヒカルが正気に戻らなければ、そのまま池の鯉の餌になっていただろう。それにしたって、こいつも共犯なのに何もされていないのはズルい。あとで、目に物を見せてやる。
結果として復讐とツトメに専念することとした、この5日。
ヒカルの怒りはまだ収まるには少な過ぎる日数だろう。
あの後、個人のメッセージでも謝罪の言葉を送るが、一向に既読するつかない。
「なぁ、ヒカルはもう口聞いてくれないかも。」
「なぁに言ってんだ。下僕にしてもらったんだろ?そしたら、命令を貰いに行けばいいじゃないか。ほら、ワン!ワン!って!(笑)」
正確には下僕ではない、奴隷だ。完全に小馬鹿にしてるが今回のツトメには集客はマストなのだ。ヒカルの協力なくして成立しないのだ。一応助っ人も頼んであると、マルからは聞いているが、そんなの当てにできた試しがない。これじゃヒカルに殺されなくても、白蛇に殺されてたら、意味がない。
「これは冗談抜きで相談してるんだぞ!お前もあの白蛇の言ってたこと覚えてるだろ!」
「ああ、そんな心配しなくで大丈夫だ。俺の中では計算が立ってる。もしかしたらお釣りがくるくらいだ。」
「ふーん。そうかよ!もう、こうなったら知るか!抗議のハンストでもやってやる!」
「おー、そうかい。確かに痩せたお前を見たらヒカルは同情してくれるかもな笑」
本当にあったシリーズを読みながら余裕を見せるマルに対して、ベットに入ってもなかなか眠りにつけない自分は本当あったシリーズにタイトルに目をやる。
「ホントにあったシリーズ?ここらで出ちゃったから次買おうと思ってたロト!!辞めました」
本当に腹が立った。そして突っ込む元気もなく、目を瞑った。




