第8章 ⑤ 祭りはいつも生きるか死ぬか!?
第8章の5 祭りはいつも生きるか死ぬか!?
翌朝。現地は秋晴れに、お祭り日和だ。天雲神社へと続く参道には出店も立ち並び、お客さんもなかなかの出入りだ。地元の観光協会の人に言わせれば、例年の2倍は来てるらしい。自分のSNS戦略は功を奏しているようで、泣けてくる。
しかしだ、少なくとも観光客は1万5,000人は確保しておきたいところだ。
神社の鳥居付近に霊力を奪うお札を貼り、境内に入った人を残らず霊力を奪うシステムを構築している。
もちろん、自覚症状が出ない程度には抑えている。おそらく帰ったころには思い出とともに疲労感として認識される程度だろう。もちろん、ガッツリ取る人もいるが。それは後で説明することとして、神社の境内に自分達の準備用に設置されたテントへと入る。
中では倉橋と、膨れっ面のヒカル。そして、驚いたことに早川先生がいるではないか!しかも姉妹のように巫女の姿をしてそこに立っている。しかし、ヒカルとは違い大人の色気を纏い、色んな所がメリハリをもって主張している。これはこれは!なんと、眼福。
「あれぇ。中森くんでは、ないですかぁ。ご病気の方は大丈夫ですかぁ。」
病気欠席としていたことを思い出し、頬につけた絆創膏を引っ剥がす。しかし先生の方も色々とご健在のようで何よりです。あれかな、白衣の下って‥うん。その、とにかく揺れ方が最高です!
控えめに言って抱き付きたい!抑え目にいわなくても顔を埋めたい!
「ご心配ありがとうございます。何とか大丈夫です。先生こそ、何でここに?」
「いやぁ。なんでも人手が足りなくて困ってるからどうしてもって晄君に頼まれてしまってぇ。それでここに。」
服装を気にして恥ずかしそうにしてるのもまた、男心を抜群にくすぐっている。てか倉橋のやつこんな秘密兵器を隠していたとは。許せん!
「皐月お姉さん本当に今回はありがとうございます。」
倉橋の社交辞令の域を出ない感謝の言葉に怒りを覚える。しかもお姉さん!お姉さんってのが猛烈に許せん!自分にも少し呼ばせろ!
以上猛烈嫉妬。
「なあ、倉橋。少し顔を貸してくれ。」
自分は倉橋を確保して、テントの外に連行する。
「おい、皐月先生が来るなんて聞いてないぞ!」
「ええ、例によって黒猫さんの指示で、中森には伝えないようにと言われていたので。」
「そんなマルの言うことを律儀に聞かなくていいって!てか、皐月先生のことお姉さんって呼んでるのか?」
顔を近づけて圧力をかけるが、手で押しのけられる。
「ええ。早川先生は叔母にあたりますので、叔母さんと呼ぶべきなんでしょうけど、どうもそれは辞めて欲しいと叔母に言われたので、お姉さん。という風に呼ばせてもらってます。」
それを聞いて少し安心した。女心ゆえのお姉さんなら許そう。しかしそれ以上の意味を持つお姉さんなら許すことは難しかっただろう。
おそらく、今頃は倉橋の頭は術式による攻撃を受け、焦土と化していたことだろう。
冷静になった自分は倉橋と共にテントに戻る。
テントに戻ると、イライラしながら出番を待つヒカルの冷たい視線を感じつつ、お守りを確認する。
「倉橋、これはもう配っていいんだろ?」
「ええ、大丈夫ですよ。もう術式は構築してありますし、持ち主からは徐々に霊力を奪えます。もちろん、いきなり大量の霊力を奪われると倒れる人が続出してしまうため、そこには配慮してます。」
お守りを確認する自分に近づいてきたヒカルは自分の腕を掴み、微笑んで優しい言葉でもかけるのかと思いきや、急にその表情を変える。
「奴隷には配慮しなくてもいいよ。ガッツリ取って貢献してもらわないとね?」
その微笑みの割に目の奥から放たれる冷たい視線は完全に生き物への視線ではない。
何か石ころか何かと同じくらいに思ってるくらいの侮蔑の視線だ。奴隷の自分にノーはない。
「は、はい。」
「あ!いっけない。奴隷に首輪つけないとね!」
思い出したように物凄い厳ついバンドマンがつけるトゲトゲのチョーカーを首に強制的に装着させられる。
「あの、中森にはまだ動いてもらわないといけないので、まだ霊力は奪いませんよ。」
一連のやり取りに引き気味の倉橋だが、自分は聞き逃さなかった。
いや‥まだって。後では奪う前提なのね。自分の人権を返してくれ。人権標語でもこいつらの背中に貼りつけておいてやりたい。
「大切にしようね。人のいのちと人の気持ち。世界でオンリーワンの君だから。」
の人権標語がいいだろう。だから大切してくれよ、自分も。結構傷ついてるから‥
ショックを受けつつも、仕事はこなさなくてはならない。300ものお守りを参拝者に配布する。パンクバンドの一員かと思わせるそのチョーカーを付けさせられてのこの仕事はキツかった。視線がこれ程までに痛いと感じたことはなかった。
配布には天雲神社の宮司さん以下アルバイトの人も手伝ってくれて、ものの一時間もたたずに配り終えた。配り終えてもここからがメインのイベントがあるというのに自分の気持ちは晴れない。
傷心の自分を癒すのは紛れもなく皐月先生だろうがなんとタイミングが悪いことだろう。テントの外で地元の商工会のおじさん達が地元の宣伝に託けて話しかけられていたようだ。
くそぉ。デレつくオヤジ達め。あとでたっぷりと頂いてやるから覚悟しておけよ!と心の中で毒付く。
「おお!カケル!元気にやってるな!」
霊体のまま話しかけてくるマルに、こんな大ぴらの場所で話すわけにもいかず、境内を出て、参道から少し外れた住宅街に足を運ぶ。
「で?なんだ?ずいぶんと遅い出勤だな。お前のせいでこんな酷い目にあってるのに。」
首のチョーカーを見せるがこの猫は知らんぷりだ。
「えっ?何のこと?それにしても綺麗だよな、あの早川って教師。あれが教師やってんじゃ宝の持ち腐れだな。ああちなみにあれはプチサプライズだから!本当のサプライズはこれからが、本番さ!」
「え、ああ。そう、ホントありがとう。プチサプライズでもう私服の時だったわぁ。ってそんなんで誤魔化されないぞ!サプライズ云々より、こっちはヒカルの気持ちも失い、挙げ句に死ぬんじゃ話にならないからな!」
「おいおい、そんなカリカリすんな。カリカリすんのはチキンだけにしとけ。後ベーコンも。(笑)」
笑えないので真顔で返す。
「まあ、そこら辺はキチンとやってる。安心してくれ。龍神伝説の拡散はこのサプライズでだいぶ広まるはずだ。そうすりゃ、参拝者と観光客合わせれば、今日明日には必要な霊力なんか集まるぜ、相棒。だから安心しろって。」
ふわふわ浮遊しながら自分の肩を叩くこの猫をどうやって信頼しろというのか?自分は完全に猫不信だ。
「ふん!そんなの信用できるか!いざとなったらゴミのように捨てられるなら、今ここで死ぬ方がマシだ!」
「ほお!さては意地になってるな。少しヒカルに嫌われたくらいで、何だよ。これから取り返せば、いいだろ?それにこの後のイベントではボディガードが必要だろ?な?」
悔しいが、マルの言う通りだ。自分はチェキイベントの剥がしと、ボーナスイベントの大事なボディガード役を担当してるからだ。
「ああ。」
「よし!そしたら、いいこと教えてやる!耳を貸しな!」
耳元でヒカルの機密情報を一言一句聞き漏らすことなく、しっかりと記憶する。
「え!ホントか!」
「ああ!ホントだ!ヒカルはこれで機嫌を直してくれるはずだ。おっと。これは絶対に他言無用だぞ。特にルナには‥」
「わかってる。なんで知ったかもなるべく上手く誤魔化すよ。」
「なら、いい。よし、じゃあ先に戻ってるから、早くこいよ!」
そう言って霊体のマルは神社方面へと飛び去った。自分は飛べるわけもなく、人がごった返した参道を抜け、境内のテントまで辿り着く。




