第8章 ③ 祭りはいつも生きるか死ぬか!?
第8章の3 祭りはいつも生きるか死ぬか!?
文化祭と後夜祭での何やかんや、を乗り越え本当の試練である、ツトメの最終調整が迫っていた。
文化祭から一週間後に予定されていた天空祭に向けてラストスパートをかけ、諸課題の解決を図る必要があった。それは例の投稿の件を未だに伝えていない事を含めて‥
祭りを明日に控え、最終確認をみんなに送る。
「いよいよ明日に迫った天空祭ですが、皆さん準備はできていますでしょうか?」
三人プラス一匹のグループに「しゅぽ!」と投稿した自分のメッセージにいち早く反応したのは意外にも倉橋だ。
「問題ありません。御守も既に作成し、配布計画も策定済みです。」
如何にも業務連絡な返信がくる。
次に反応したのはマルだ。
「おー!バッチシだぞ!明日はビックリサプライズも用意してあるから、楽しみにしておけよ!」
とプラスしてどこで作ったのかわからないオリジナル黒猫スタンプ。歌舞伎猫が見栄をきり、問題ない!と言っている。こいつはいつこんなハイクオリティなものを‥
裏でIT企業でも操ってそうで怖いレベルだ。しかし、もう一人からの返信がなかなか来ない。既読もつかず不安になっていると、2時間後に返信がきた。
「死神にサムズダウンのスタンプ」のみ。
こ、これはやはり怒ってるか?そう、何を隠そうとヒカルには怒る理由がある。
遡ること5日前。自分はある事実を伝えなければならなかった。そう、今のヒカルとの関係なら‥一縷の望みをかけ、その事を伝えるために自分はヒカルの家に赴き、今現在は和室の客間に待たされている。
この客間自体、やはり議員の家!って感じはする。想像通りの高そうな掛け軸に、室町時代作成かと思われる壺。なぜ室町時代だと思うかって?それは言わずもがな、雰囲気だ。雰囲気が室町時代ぽいのだ。中学生に鑑定能力などはない。
そこら辺の壺だって、ここに置いてあれば、それっぽく見える。ようはそう言う部屋だと言うことが伝われば幸いだ。
待たされている間、ぼんやりと客間から見える日本庭園を眺めては、添水のカコン!と音が響く。もはや何もかもが、雰囲気を感じさせるのだ。
そんなことを考えながら、待たされること10分。
目的の相手とは違う人が出てきた‥
「どうも、カケル君!久しぶりだね!元気してたかい?」
そう言って木目の美しい座卓を挟み、正面に陣取る男性。そう、この人にもちろん自分は見覚えがある。スーツに、青を基調としたストライプのネクタイをかっちりと締めて、登場した男性の後ろには男がもう一人控えている。おそらく秘書の人だ。
「えっ‥とお久しぶりです。三上さん。」
「えーカケル君も他人行儀だなぁ。昔はよく家にも来て一緒に遊んだ仲なのに。お父さんって呼んでもいいよ。カケル君なら大歓迎だね。」
そうは言ってくれるが、さすがに慇懃な態度に成らざるを得ない。この状況でフランクに接するのは無理難題だ。
ダークマターが何であるかをここで流暢に説明することができれば、可能であるかもしれない。ようは現実的にはありえないと言っていいだろう。この状態を作った一番の元凶はもう一人の人物にある。
もちろん正面に座したヒカルの父、悟ではない。そこから右に目をやる。
上座に座られているのがこの三上家の当主である、三上茂。ヒカルの祖父、その人だ。
現職の県知事であらせられる、茂は現在2期目の保守派知事だ。彼は目を閉じて、何を言うでもなく、精神を落ち着かせている。
「ああ、ごめんね。父さん‥いや知事は久しぶりに孫の顔が見たくて、家に寄ったんだけど、先にカケル君がきてるのを知って、やきもちやいてるんだよ。」
と茂の気持ちを代弁する悟。
「そ、それは申し訳ございませんでした。」
「ああ、いいのいいの!知事は顔が見れれば、それでいいんだから!忙しいからね!」
お茶を飲み、足を崩す悟とは正反対に、切れ味の良い日本刀の様な鋭さを保ちながら、凝然と姿勢を崩さない茂。その後客間は誰も話さない沈黙が続き、緊張が高まる。そんな沈黙を打ち破ったのは茂だった。
「カケル君だったね。ヒカルとは仲良くしていると聞いている。」
ようやく口を開いたかと思えば、口調が尋問の様だ。
「え、ええ。」
「まあ、学生のうちだ。それはいい。しかし、うちの家は伝統と宿命がある。倉橋との関係もあるなか、中森とは難しい関係にあることも理解したまえ。若い君に言うのは酷な事かもしれぬが。」
「は、はい。」
ようは倉橋家との関係強化を進めることが三上家の得になるため、お前に孫はやらないと言うことだろう。だが一番の理由はうちのばあちゃんとこの茂さんは仲があまり良くないことだ。それもあってヒカルの家にはあまりお呼ばれしなくなった経緯がある。
「まったく。今時そんな事を子供に言いますかね?せっかくこうやって久しぶりに来てくれたのに。」
「悟!私はお前と議論しにここに来た訳ではない。規定事項に口を挟むな。」
「はい、はい。」
ピリリと空気が凍るなか、いい加減に足も痺れ、限界を迎え始めたところだった。
「おじいちゃん!久しぶり!元気だった?」
いつもとは違うヒカルのその姿に思わず、男三人とも声が漏れる。淡い桃色を基調に、梅の花が咲くその袷の着物。蝶をあしらった黒帯という組み合わせの冥利を感じる。
「ヒカルか。元気そうで何よりだ。しかしどうしてそんな格好なのだ?」
「おじいちゃんが来るって言うからわざわざ着替えたんだよ!どう?似合ってる?」
くるりと一回転して見せるヒカルに、さっきの日本刀の鋭さをプラスチック包丁くらいまで切れ味を落としたかのような表情をする茂。
「ああ、似合ってる。さすが私の孫。」
「ああ、俺の娘だからね!」
と仲良く肩を組むヒカルと悟の親子。
「お前はいい。さて、私はこれで、お暇する。仕事があるのでな。宮田、車の準備を。」
廊下に待たせていた秘書に命じると茂は立ち上がり、客間を後にしようとする。
「中森翔。君の健闘を祈る。では。」
と去り際に言葉を残し、秘書を連れて出て行ってしまった。
県知事が動くとなると大変だ。日本庭園で警備していたSP達もぞろぞろと動き、この家の当主は仕事へと帰っていった。
「よし、おじいちゃんもいなくなったし、こっからはざっくばらんと話せるよね!」
微笑んでくる悟だが、父親を前に娘に会いに来た男がそんな軽い感じだったら絶対怒る気がする。
「え、ええ。」
困惑の表情を浮かべる自分を見かねて
「何言ってんの、お父さん!お父さんも仕事でしょ!早く戻る!そうじゃないとまた、怒られるよ!」
とヒカルが悟を客間から追い出す。
「えー!酷いよ、ヒカル。貴重な時間なのに。」
「はい、はい。」
悟は名残惜しそうに客間を後する。ヒカルは玄関まで悟を見送り届けると、再び客間に戻ってきた。
「だいぶ待たせちゃったね。ごめん。で?大事な話ってなに?」




