第7章 ④ 龍神伝説、秋の夜長はSNS
第7章の4 龍神伝説、秋の夜長はSNS
ヒカルとの話を終え、速攻帰宅すると、明日からのスケジュールを組み直していた。
まず、現在進行中なのは龍神伝説流布作戦だ。
適当に、寺社仏閣が好きそうなアカウントから、UFOや未確認生物とか都市伝説好きな物好きアカウントまでフォローし、フォローバックをしてくれることを期待しつつ、伝説を第一話、第二話と、読みやすいように分割して投稿する。
さらに、映え写真の撮影も忘れていない!図書館での調べ物ついでに、この7日間撮りに撮ったり、500枚以上!厳格かつ、厳正に写真を選定し、バッチリ加工しまくった!
もちろん、観光客が来るように、プチ情報もコメントに載せる。やってることは完全に関係団体の広報担当者だ。
就職する時にはここら辺の観光協会にでも就職すれば、即戦力になれる自信がある。
しかし、思ったようにフォローも増えず、投稿するだけ虚しさだけが募る。
そこにきて最悪なのは、マルの存在だ。あいつも同時期にSNSでの諜報活動もとい広報活動を始め、何とフォローワーが既に1万人を超えるという離れ技を見せている。
#マルの一日とハッシュタグをつけて、投稿するだけで、毎日コメントが50人以上から届くのだ。
猫のほのぼの写真と、猫やってみた!の猫挑戦シリーズが受けているらしい。
コメントを見ると「もはや、中身は人間か?」
「すご~い!こんなのみたことない!」
「こ、これは合成ではないのか?」
などなど、反響は上々のようだ。いや、そもそも
こんなん詐欺だろ!ってのは何枚か、いやほとんどある。例えば、「ジェンガを猫が挑戦!」なんて、ミスカットが何回もありました!って体を装い、何枚か写真を載せているが、リアルな話、一発で仕留めて、わざと全部倒してしまうミスを撮影したくらいだ。
「えー何回も挑戦するなんて凄い猫ですね!」
なんてコメントには本当に気の毒になる。これはフィクションです。なんて注意書きを付け足したくもなる。いや#神の悪戯、が最も正しい表現だろうか?
「いやぁ、参ったね。こりゃ。俺様の魅力の前には人間なんてのは、こんなもんだな!」
と鼻高高に言うものだからムカつく。鼻高くないくせに。
「それならさ、いつも投稿するの手伝ってるんだから、こっちの方もどうにかしてくれよ!全然フォローワーが増えん!」
とスマホの画面を見せる。フォロー11人。
うち、身内3人。実質8人しかフォローワーがいない状態だ。
「ぷ、プハハァ!なんて少なねぇ!11人て、サッカーするのがやっとかよ!」
腹を抱えて笑ってるマルを尻目に画面と向き合い、思わず呟く。
「サッカーだって、22人いなきゃできねぇよ。はぁ‥」
「まあ、そんな落ち込むなって!とっておきの秘策がある。のるか?」
ニカっと笑いながら、悪い事しますよ。って顔に書いてある。しかしだ、今は非常事態。悪魔の手を借りたいのが本音だ。
「んじゃ、ちょっと聞かせて。」
「え?ちょっと?」
こちらの窮状をいいことにもったいつけてくる。
「じゃあガッツリと!」
「素直で、よろしい。」
そう言うと耳元でこっそりと聴かせてくる。
「って訳だ。」
「えっ!そ、そんなことを‥きょ、許可は?許可は取っているのか!」
「いいや、とっちゃいねぇ。完全無許可。今なら完璧に犯罪だな。」
「ならまずいだろ。いくらフォローワー増やすためとはいえ。それは‥やっぱり‥」
「じゃあ貸さない!」
スマホを持っていかれそうになるのを阻止する。
「いや!貸して!やるよ!とうとう、やってしまうんだな。こんなことを‥」
「大丈夫。後で許可取ろう。」
「ダメだったら?」
「その時は腹切っていう武士の作法があるぞ。」
神々しい光が出てきそうなくらいに悟りを開いたマルの顔を、見れば理解できる。つまりこの世に生を受けたことを謝罪し、この世に生きていることを謝罪して、この世に別れを告げることになるらしい。
「ああ、その時は一緒だな。」
共犯者のマルの前足の肉球を感じながら、自分はSNSの投稿ボタンを押し、全ては果たされた。これでもはや正覚を得たと言える。
「ああ、ありがとう。この世に感謝。全てに感謝。」
とスマホをベットに置き、平伏して最大限の祈りをマルと一緒に捧げた。
この一枚の写真が抜群の効果を発揮するとは、知らずに‥
そこからは、夜はSNSと格闘地獄!他人の投稿に内容などお構いなしに、いいね!を押しまくる!そしてひたすら伝説の流布と、天空祭のPR及び龍ヶ峰市もついでにPR!なんでも市長はヒカルのお父さんと知り合いらしいので、媚びを売っておけ。とのマルと倉橋からの指示だ。なんて計算高い奴らだ。
マルはまだしも、倉橋に関しては選挙出るの?って感じにしか思えん。
しかし、本当の地獄は学校だった。
主役を仰せつかったあの日から3回ほど練習を行い。今回初めて自分達だけで体育館の舞台を使い、本番に向けた確認練習を行う。
「ちょっと!中森君!感情移入が足りないじゃない?このシーンはカジモドがまだ見ぬ外の世界への渇望と、孤独を表現してるのよ!そこをもっと意識していかないと!そしたら、もう一回頭のセリフから!」
長嶺の熱い指導が入る。しかしだ、そもそも、どうやってこんな役に感情移入しろってんだ。幼い頃に親に捨てられて、酷い奴に教会に閉じ込められて育てられた悲運の鐘撞の男。
本当だったら、強制労働だ!監禁だ!すぐに警察に通報だ!ついでに労基署も呼んだっていい!と言ってもこの時代に労基署はなさそうだが。いや、そもそもまだ警察がない時代だ!
ようは!こんなの、現代っ子の自分が演じるには難し過ぎるのだ!第一に、最初は生歌も歌わされそうになったが、そこは録音したCDで対応してくれることを勝ち取った。
演技を終えて袖に戻ると、ヒカルが手招きをして呼んでいるため近寄る。
「ねぇ。このエスメラルダって役は何するの?」
そう言う彼女はエスメラルダ役であるという事実。おいおい、配役どうなってんだ!こいつにこの役はダメだろ!色んな意味でダメだ!
「えっと、台本読んだ?てか原作読んだもしくは、映画やアニメのやつでもいいけど、確認してないの?」
「いやぁ。急な登板だったじゃない?何となくしか、わかんないだけど、とりあえず、セリフは言えると思うよ!」
確かに、本当は別のクラスメイトの女子がやる予定だったが、陸上の県大会があり、演劇の練習に参加できない事が確定した。そのため代役として彼女にお鉢が回って来た訳だ。それでも根拠のない自信はあるらしい。(そのマインドを少し分けて欲しいよ。)しかしその言葉はまったくの謙遜であることが分かると、五分前の自分を恥じる。
出番になって演じると、彼女の演技には舌を巻く。脚本兼演出の長嶺もご満悦の表情だ。
特に踊りが素晴らしい。バレエも習っていたというだけあって美しい。黒髪がフワッと靡き、手先から足先まで筋が通った様に流れる動きに、正直に言って、見惚れてしまった。
まさに、その空間にいる者全てを魅力し、支配するような存在感に感服した。その影響からか、セリフを飛ばすミスを犯した自分にはこっ酷く長嶺に怒られたのはご承知の通りである。
「大丈夫ですか?水でも飲みます?」
話しかけられた声は、知らぬ声で見知らぬ顔の女子だ。飲みかけのペットボトルを差し出す彼女は何者なのだろう。肩にかかるくらいのミドルヘアーの彼女はカチューシャで前髪を上げ、顔を隠さない主義らしい。確かに顔を隠すには勿体ないと思える。目鼻立ちもよく、左目の下ホクロがある可愛い女子だ。
「えっと‥」
名前が出てこない。少なくともうちのジャージを着ているので、同じ中学のはずなのに、まったく記憶に無い。
「あれ?ヒカルが紹介してなかったけ?この子が一年生の朝長未来ちゃん!我が化学研究部のホープだよ!」と佐藤が紹介してくれる。
「あ、すいません。すっかり自己紹介したものだとばかり。朝長です。よろしくお願いします。」
丁寧にお辞儀をしてくれる辺りはとても好感を持てる。
「中森は全体練習の初日に遅れたからな。うちの強力助っ人の紹介を知らなかったのさ。」
「そうでしたか。それはいきなり声をかけて失礼なことをしました。」
「いえいえ!とんでもない!こちらこそよろしくお願いします。」
「大丈夫、気にすることないからね、いつでもヒカルの言うことなら聞くから、命令して貰ってパシリにするといいよ!」
と軽口をたたく佐藤は、さっきからバシバシと自分の体にも叩きを入れている。自分は馬ではないので、叩いても走らないが。逃げ出したくはなる。
「あれ?その朝長さんは何役で?」
「フルールという役名で、少しだけだからとお願いされて‥ここに。」
と如何にも性格の良さそうの子を無理矢理勧誘したであろう姿が目に見える。
「そ!なんか長嶺が廊下で見かけてビビ!と来ちゃったんだって!それで無理言って出てもらうの!」
と佐藤は嬉しそうに話すが、横を見ろ。朝長さんは苦笑いだぞ。
「それは大変でしたね。一年生ならクラスの出し物は大丈夫なの?」
「ええ、それはなんとか。クラスの発表は校内アンケート発表なので、そんなに人もいらないし。」
何と言うことだ。自分が一番望んでいたパターンを一年生がやっているとは。そんな一年生からやる気が無くてどうする!と思う自分が気に入らない。
「そうなんだ。それは良かった。」
「そ!それでうちらの方出てくれるんだから、ありがたい話だよ!」
と可愛い後輩を愛でる佐藤を放置する。可愛い女子に気を使ってもらったにもかかわらず何かがムカムカしている。そうこのムカムカした感情の原因こそ、フェビュスだ。
やつはフェビュスは、エスメラルダと‥
ああ!そんなシーンは天下のネズミ王国ではないはずだ!しかし、脚本家の長嶺は原作になるべく沿うかたちにしたいはずだ。それもあって嫌だったのだ。それも想定される最悪のペアであることは間違いない。
「じゃあ、倉橋君!ここで、エスメラルダを抱きしめて、誘惑するの!」
エスメラルダ「もう、だ、ダメ!誰かきちゃうわ。」
フェビュス「いいじゃないか。そのまま。」
と抱きしめて離さない。そして暗転。
いや、これはもう、何か昼ドラだな。昼顔だな。と思い、一旦心を虚無にすることで乗り切る。
「はい!いいでしょう!でもなぁ。何か足りてないんだよなぁ。パッションかなぁ。」
何やら脚本家的には気に入らないらしい。
自分はフェビュスいや、倉橋が気に入らないのなら同意するぞ。
「これ以上と言われても困るのですが。」
倉橋も困惑しているようだが、脚本家が気に入らないと言っているのだ!脚本家に進言するとは百年早い!
「ううんとね。なんかこう。禁断の愛。いや、フェビュスにとっては欲情なんだけど、エスメラルダは気がある訳じゃない?その禁断の感じがねぇ、出てないのよ。ほら不倫に児童福祉法違反よ!」
そこを求めるのか!てか中学生に禁断の愛を語ってる中学生いるんですけど!てかもはや、法で取り締まった方が良くないですか?この人危ない人です!以上刑事告発。
「はぁ。そう言われましても。」
首を傾げてる倉橋には1ミリだけ同情する。
「ならさ、キスしちゃう?その方が盛り上がるよね!観客もさ!」
ヒカルの大胆かつハートブレイカーな提案に顎が外れそうになる。
「うーん。そこなのかしら。パッションだけでは補えない気がするの。」
いいぞ!いい事言った長嶺!パッションではないのだ!関係性の表現を変えるべきなのだ。キスではそもそもそう言う間柄とわかっているのだから、意味がない!意味ないのだ!
「とりあえず、このシーン含めて、少し練り直すわ。ちょっと大幅な改訂になるかもだけど、ちょっと中森君!来てくれる?」
座って待機していた自分は長嶺から耳打ちをされ、愕然とした。それは流石に‥てかこれは別人‥もはや何これ?
この演劇心底やりたくないと思った。これを全うした時に自分の人物評価は最低Fランク。Gランクにただ下りすることは間違いない。そう最低!って言われて今後の学校生活を送るか、もしくは
「あの人ね。ああ見えて実は‥」
と噂されるレベルだろう。上手くやるほど嫌われる。しかし、長嶺は目を見開き、感嘆の声を上げ、ハマり役だと褒められた。「これは将来トニー賞とるね!渡辺謙超えるわ!」とまで言われた。
さすがにそれは溢美の言であると思うが。
こうして、周りの猟奇的な演技に対するの反応と長嶺の高揚振りの温度差を感じつつも、演劇の練習を乗り切った。あとは本番で披露するだけ…だよね?
第7章終わりです!
気になるところで終わりです。(決してもったいつけた訳でもないです。構成上の関係です。)果たしてカケルが演じる役はどうなる?
個人的反省としては第7章は分割し過ぎたな。ってことです。
場面転換が多いのでそのまま分割したら一つが短い…
まあ、そこらへんが作者の爪の甘さというか何というか。そういう所がちょくちょくあると思いますがどうか寛大な心でお許しください。
よろしくお願いします。




