第8章 ① 祭りはいつも生きるか死ぬか!?
第8章の1 祭りはいつも生きるか死ぬか!?
季節はすっかり秋となり。いつぞやに見た銀杏の葉は黄金色の絨毯を作り、道を鮮やかに装飾した。その絨毯を踏みしめるように人々が歩いているのが見える。
校門には第45回文化祭と看板が立てられ、続々と人が集まってくる。
「それでは、うちらの講演は午前の部と午後の部の二部!まずは午前の部!しっかり気合い入れていきましょう!」
一番気合い十分な長嶺が号令をかけて、気合いを入れ、舞台は幕が上がる。演目を進行係が読み上げる。
「タイトル パリの雨音 作 長嶺真紀」
お気づきだろう。はっきりいってユゴーの作品とはまるで違うものになった。舞台の時代はそのまま15世紀のパリ。禁断の愛を追い求めた結果、脚本家長嶺が、導き出した愛。
それは同性愛だった。
早い話。バイセクシャルの女性エヴァとレズビアンのマリィ。彼女達の悲しくも美しい愛の物語となったのである。婚約者ヴィクトールと関係に悩む中、そんなエヴァを友人であったマリィが優しく癒やしていく。二人はいつしか友人関係から愛し合う関係になり、心を通じ合わせるのであった。
という感じの作品だ。エヴァをヒカルが、マリィを朝長さんが演じている。
ここで疑問が発生する。そう。では男共はどうなったのか?まず自分は配役替えとなり、悪役司祭レイモンズとなり、二人を魔女裁判にかけて火炙りにする実行犯となった。拷問中に異端者が悲鳴をあげるのに愉悦を覚えるという、サイコパス設定がなされている。
レイモンズ 「フハハ!この薄汚い魔女め!神の理を冒涜する無神論者!」
肌着で棒に括りつけたエヴァを鞭でいたぶり、快楽に浸るレイモンズ。
レイモンズ 「こっ、これだよ!これ!たまんねぇなあ!」
司祭の格好で異端者を足で踏みつけるレイモンズ。
レイモンズ 「ふぁ。最高だな。こうやって神のために仕事ができることは!」
異端者を地下牢で暴力の限りを尽くした後に、広場に晒して、ボウガンで頭を狙い撃ち、満面の笑みを浮かべるレイモンズ。
以上、抜粋したレイモンズのクズ野郎シーンの一部である。
そう、これを自分がやったのだ。しばらくの中森サイコパス疑惑は払拭できないぐらいの恐怖は与えたと自覚している。
バイバイ、自分の薔薇色中学生活。はぁ。
しかしだ、一番納得のいかないことがある。倉橋はエヴァの婚約者であったヴィクトールという役になったのだが、ヴィクトールは彼女達を魔女狩りの手から必死に守り、死ぬというなんともいい役を貰っていたのである。
どういうことだ!この待遇差は!ヴィクトールとレイモンズでは、唯一勝っているのは司祭という肩書くらいだぞ!そもそも、クズ男は倉橋の役目のはず。それでも色男の設定だったのだ。これはあんまりではないか!自分が何かしたっていうのか‥グスッ(泣)
もう、うぅ。立ち直れんかも。
ちなみに、当初フロロー役で出演予定だった栗原は裏方にまわることとなった。こんなちょっとしか触れないなんて、酷い友達でごめん。栗原、カメオ出演を期待してくれ。いや、自分の待遇を考えれば、出ないことだってメリットと言える。
そんな感じで、物語は原作にインスピレーションを受けつつ、大幅に変更を加えて、新たな作品として生まれた。
舞台の最大の見せ場は、ラストシーンだ。あ!ちなみにレイモンズはヴィクトールに殺されます。
しかもあっさりと。尺の関係で、ものの10秒足らず。酷い‥
二人は決して認められることのない愛を、嘆き、雨の降り頻る森を抜け、手を繋ぎ合わせて湖へと入っていく。
エヴァ「マリィ。あなたがいたから、私は生まれてきてよかったと思えるの。」
マリィ「私もよ。エヴァ。あなたの存在が全てだわ。」
エヴァ「ありがとう。愛してる。」
と最後に抱きしめ合う。
エヴァ「もう、ここまで来てしまったわね。きっと暗い湖の底に沈んで行ったら、光は届かない。でもどちらにせよ、私達はこの世界ではずっと光には当たれないの。」
マリィ「そうね。私達は光の当たらぬ存在。でも、信じて。きっと向こうで見える景色は光で満ち溢れてるわ。」
二人が湖の底へと消えていき、雨音の効果音がピタ!と止む。
雨が止んだ湖から天へと虹が架かっていた。
fin
終了すると、割れんばかり拍手が起きた。やはり、二人の演技には心を引くものがあった。
それがみんなにも伝わったのだろう。自分も心からの拍手を袖口から送っていた。
午後の部もあるのに、何か燃え尽き症候群になりかけたが、長嶺のおかげで、午後の部もやりきり、無事、文化祭を終えることができた。ほんとのところ精神は持たなかったが、終えるたびに
「いやぁー。最高!サイコ、最高!マジ完璧!もっとやって!」
と上手いことのせられてクズ野郎レイモンズを演じ切った。その疲れもあり、まったく満喫出来ず仕舞いだったが。
本来だったら、焼きそば、豚汁、クレープに、たこ焼きも出店されていたというから、食い倒れ文化祭をエンジョイしていたろう。そうだった場合、卒業アルバムの文化祭のページには映り込む余地はなかっただろう。食い倒れて苦しそうにしてる生徒を見たいと思う意見は皆無だろうし。いや、どちらにせよ、文化祭の記憶は無くしたい気分だが‥みんなにも忘れてほしい(泣)
そんなこんなで、文化祭自体はやり切ったが、この後には後夜祭が待ち構えている。
この後夜祭では、毎年体育館では軽音部や有志によるバンド、校庭ではプチ花火大会的なことをやっている。そうさ、このタイミングでカップルが急増する。市販の花火をみんなで楽しむだけの、何ともこじんまりとしていて、打ち上げ花火だって、大したものではない。しかし、カップルにとっては何にだって価値を見出すものだ。おそらく、道端に落ちてた石ころだって恋愛成就のパワーストーンだと言っても信じるだろう。それだけ恋は盲目らしい。
いちゃつくカップルを見たくなければ、体育館へ。それが日本人なりの察しと、気遣いの心だ。
自分は古来からの日本人の伝統としきたりに従い、体育館でのバンド演奏を待っていた。
この時、体育館にツヨシがいなかったことに自分は気づくべきだった!やられた!一生の不覚!
そんなことを思いつつ、仲のいいやつもいないなか、舞台から離れたところにひっそりと壁に背をつけて座り込む。
「おーい。どうした?レイモンズ司祭?サイコ演技の次はウジウジシンジ君か?」
俯いてた顔を覗き込んできたのはヒカルだ。
「なんだ、ヒカルか。その例え、わかりづらい。」
差し出された缶ジュースを受け取る。
「え?エヴァだよ?トウジ君殺しちゃた後の。」
「わかってるよ。てかエヴァ見るんだ?」
「ま、まあね。そんなことより、凄い落ち込んでんじゃん。そんなに気にしての?」
「え?ああ。そりゃあれだけ振り切った役やった後だからな。評判も色んな意味で立つしなぁ‥」
「ほぉう?思春期やってんなぁ!」
隣に座って肩で、グリグリしてくるが、心の方はグサグサ刺さってるの気づいてる?
「はぁ。てかヒカルも思春期だろ。」
「え?そんなの私にはないよ!だって永遠に青春してるもん!」
なんか、ティーンエージャーぽい発想だ。
「そうですか。」
体育座りの状態で縮こまり視界を遮断する。
「なんだぁ?せっかく寂しくて死んじゃう!顔にって書いてあるから声かけたのに。」
「それはどうも。」
「どういたしまして。それでさ。カケルはさ‥その‥この後はどうするの?」
遮断した視界を横へと移し、ヒカルを捉える。そこには今までに見た事のない、恥じらいと可愛げを持ち合わせた、天使がいた。思わず口ごもってしまうのが自分の情けない所だが、ここは如何にも平静の自分を装いつつも目を逸らす。でなければ、紅潮した顔がヒカルに露見してしまいそうだからだ。
「あ…どうって。このまま、少し休んだら帰ろうかと。」
「ならさ!少し付き合ってよ!ちょっとだけだから!」
と手を引っ張ってくる。こんな予想外の展開、予想外に柔らかい感覚に、鼓動が「ドクン!ドクン!ドクン!」と早まるのが分かった。それでも未だに信じられない自分は幼馴染のヒカルの面影を思い出しては、必死に思いとどまっていた。
「え?どっか行くのか?まさか校庭とか言わないよな?」
「えーと校庭もいいけど。もっと別の場所!ほら!さっさと立つ!」
自分を引っ張り上げ、何処かへと向かっていく。
「いや、別にいいけど、それって今日じゃなきゃダメなのか?」
「そう!今日じゃなきゃだめ!とりあえず来て!」
ヒカルは校舎の方へと引っ張っていく。自分の腕を掴むヒカルの手を見て、もう小さい頃のヒカルではなく、一人の女性になってきていることをやはり実感してしまう。変わらないのは、いつも引っ張るのはヒカルで、引っ張られるのは自分。という関係性だけか。
さっきまでは、話したがりのヒカルが急に大人しくなり、話さなくなる。
「なあ、こっちって屋上じゃないか?」
「そう。」
「そう。って」
じきに屋上に到着する。屋上には文化祭での残骸がチラホラと残っている。
「ここでならいいかな‥」




