第5章 ② 仲間とナマズと?
第5章の2 仲間とナマズと?
「あのー。誰かいますかぁ?」
恐る恐る引き戸の扉を開けると、目に飛び込んできたのは、手に包丁を握り、血で染まる人間と、テーブルで死角になって良くは見えないが、ブルーシートに横たわる何か。そしてそこから流れ出る血。そう「ブラッド」だ。
「はぁーい?誰ですかぁー?」
「ひゃぁぁぁー!」
驚きのあまりに、相手の返事を待たずに自分はそのまま倒れて意識を飛ばした。
そうして自分が次に目覚めた時には、そばには大きな瞳で自分を吸い込まんと顔を近づけるヒカルがいた。
「おお!生きてたな!どう?三途の川見えた?結構近くまで行った顔してるけど。」
にやにやとしてるあたり、本気で心配などしていないようだ。
「いってぇ‥何かぶつけたし、それに!さっき包丁持った血だらけの人が!」
「まあ、まあ、落ち着きなって、血だらけの人って皐月先生でしょ。ほら!」
ヒカルが寝そべった自分を起きあげる。そこには、血だらけの実験用白衣を着て、黒板に化学式を書く、スラリとした後ろ姿で綺麗なニュートラルブラウンの髪を肩まで伸ばしている女性の姿がある。自分と同じか少し小さいくらいの背丈だが、その存在感には惹かれるものがあった。以上私見報告。
「およよ。起きましたか?ごめんなさいねぇ。ついやり過ぎてしまったようで、リアリティには少しこだわりが強いものでぇ。」
先生は独特な口調だが、これが気にならないくらいの美人だ。くっきり二重に、ちょこんと可愛い鼻と何故か妖艶さを感じる潤う唇。丸い輪郭の顔持ちという可愛い系女子かと思いきや、男子には魅力的な胸元をたわわと揺らしているあざと系女子も併せ持つのだ。
様々な刺激に自分が血を出したのではと思わず、鼻を確認する。
「ちょっとぉ!何にやけてんのさ!さっきまで気絶してたくせに。」
ヒカルに怒られて、ちょっと理性を取り戻す。
「いや。ちょっとまた、目眩して鼻血出たかと思った。」
「ひゃぁは。目眩で鼻血なんて、それはぁ、なんですかねぇ?ちょっといいですかぁ?」
女教師と表現すると何やら怪しさといやらしさが倍増するが、それはあえてそうしている。そうすることによって禁断の果実を拝む毎日により張りが出るのだ。その女教師は自分に近づくと、人差し指で目の動きを確認し、目鼻口を念入りに観察する。
にしても、近づくと、ほんのり香るバラの匂いとスカート下のデニールの少ないタイツに覆われた太腿が自分の鼓動を早める。
「ほぉお!これは!」
女教師は何かに気づいたように声をあげる。
「どうしたんですか!皐月先生!」
「枝毛ですねぇ。抜いておきましょぉ!」
とブチっ!と一本どころか、五、六本は髪の毛を引きちぎると、満足したように笑みを浮かべている。
「痛ったい、ですよ、早川先生!」
「およよ。ごめんなさいねぇ。つい、気になってしまって。」
「おお!もしや!それは犯人の毛髪ですね!先生!」
何故かテンション上げてくるヒカルをみると、人の毛髪を許可なく引きちぎっても許されるのは、学校という特殊社会ゆえだと言う事をちゃんと理解しているのか本気で心配してしまう。
「そぉぉです。これを犯人の毛髪にしましょぉ!」
そんな心配もどこ吹く風。毛髪を観察しては二人で盛り上がっており、完全に置いてけぼりを食らう。
すると、ガラガラと扉を開けてもう一人眼鏡女子が入ってくる。こちらは眼鏡の奥にはキリリとした目つきにショートカットの黒髪。前髪をヘアピンでとめて、おでこを少し出すのが特徴的だ。この人は同じ二年の佐藤結美だ。コイツも化学研究部の部員で、5月に引退してしまった三年生に次期部長を指名された由緒正しきマッドラボの後継者だ。
「おっと!起きましたか!て、ヒカルも皐月先生もズルいですよ!まだブルーシートを野球部に返してないのに、さきに行っちゃうんですから。」
自分は発言者の方をみると、偶然にも左手に持っているビニール袋の中身を一瞥した。その驚愕の中身に顔が引きつると、思わず見間違いではないかと目を擦ってしまう。しかし見間違いなどではない。それは間違いなく野生生物の頭部だった。
「あれれぇ。鹿の頭は火葬しなかったんですかぁ?」
先生(この時点で女教師と内心で呼び続けるのもなかなか恥ずかしい行為だと悟り、言い換えた。)もびっくりの事実らしい。そもそも、学校で、火葬って。何やってたんだこの人達?
「ええ。これって剥製か、標本にしたら面白いと思って!でもなんかやたらの視線を感じたんですよね。鹿の頭持ってただけなのに。」
持ってる鹿の頭をテーブルに置くと、鹿の頭が入ったビニール袋の下にはうっすらと血溜まりが出来ている。
「えー。結美さぁ、これは流石に標本としては大き過ぎるでしょ。もっと小さいのにしようよ。ネズミとか。あ!剥製ならタヌキとか猫もいいよね!」
「そうですねぇ。さすがに標本は大きいと大変ですよぉ。」
自分はこの人達の会話について行けない。そもそも大変さの問題で、コイツらに剥製か標本にされる動物達に救いはあるのだろうか?さらりと言っていたが、タヌキも猫も標的らしいし、そうとなればコイツらの周りではタヌキも猫だってうかうか死ねやしない。こいつらの周りで死ねば、遺体を何十年も晒される危機なのだから。
「ええっと、その鹿はどこでどのように‥」
「ああ、これ?近くのおっちゃんがさ、軽トラで鹿にぶつかっちゃったらしくてさ!食べるのは面倒だしどうしようか迷ってるって聞いたわけ!それで丁度生の血肉が欲しいよね!って化学部で話してたの思い出して、それで鹿ください!って言ったら、おっちゃんも食わないから持ってけって。」
「はぁ。で、その鹿を持ってここに運んだのか?」
「そうそう!運ぶの大変だったぁ。帰りは分解したから楽だったけど。それに先生が興奮してやるものだから先生の白衣が血だらけに。」
「いやぁ。ごめんなさぁい。生の血が臓器からトパッあと出るからついやりたくてぇ。」
前述の発言からは先生の本性はジャックザリッパー並みの連続猟奇殺人犯としか思えない。それに冷静になってみると、なんだかこの部屋は血生臭い。
「あのそれで、早川先生は血だらけで、化学部の部室は血で覆われていたわけですね。」
既に撤収したのか先程の血の着いたブルーシートは見当たらない。
「大袈裟だなカケルは。ブルーシートの上だけだよ。血だらけなのは、まあ先生もだったけど。」
「そうなんですよぉ。でもこの実験用白衣もこれで、リアルなお化けには丁度いいですねぇ。」
衣装としての仕上がりを見せるかのように白い白衣を脱いで魅せる。すると胸元の切り込みが深いVネックのフリルノースリーブがあらわになる。ミントグリーンで落ち着きを感じさせる色合いだが、胸元だけはどうも落ち着きがないようだ。おもわず上下運動に視線が奪われた自分は、時間と法が許すなら、左右の運動も観察したいと心が叫びたがっている。
「先生まさか、この白衣を使うんですか?結構ファブらないと血生臭いですよ。」
渡された白衣を自分に回すヒカルのリアクションなど目にもくれず、与えられた白衣の内側だけを上手く嗅ごうと画策する。残念なことにやはり野性の鹿の執念が勝利したことを臭いから感じる。
「そうですかぁ。そしたらやっぱり血糊で我慢しましょうかねぇ。」
「ええ。その方が良いですね!でも今回はすっごく勉強になりました!この血は犯罪捜査ごっこにも使えますし!」
佐藤がなぜそこまで盛り上がってるのかいまいち話が掴めない。生憎学校行事に対しては、いつも消極的参加を掲げているため、極度に疎いのだ。それ故にそれとなく話を聞き出そうと話を振る。
「てか何ですか?そのお化けだの、犯罪捜査ごっこだのって?」
「ああ、言ってなかったけ?うちの部は文化祭でお化け屋敷の監修を任されてるの!そんで、皐月先生と結美と話してたら、お化けにはリアルな血をちゃんと研究しないとダメだよねって話になって、それで生の血肉を欲してた訳。さらに言えば、犯罪捜査ごっこで、殺人現場を検証しよう!ってのが、文化祭でのうちらの発表内容で、そのためにはまず生物を解体してみるのが一番わかりやすいって訳で鹿を解体した訳。わかった?」
ヒカルに説明され理解はしたが、納得はいきそうもない。犯人の犯行がわざわざ刺殺とか、死体損壊をする前提で検証しているようにしか思えない。化学部なら薬物や一酸化炭素中毒による犯行の方が余程勉強にはなりそうなものだが。
納得しかねていると雰囲気で見抜いた佐藤が鹿の頭部と睨めっこしながら言う。
「まぁ、要するに、いつものうちらの活動だから気にしないで。って事だよ。」
「そうですねぇ。あんまり他の先生には言っちゃダメですよぉ。ネタバレですのでぇ。」
シーと前屈みになって人差し指を立てる早川先生には何故か感謝したくなる。ありがとう重力!ありがとうVネック!ありがとうニュートン!は違うかもだけど何となく!
「てか、何しに来た、この帰宅部!うちらのテリトリーを荒らしに来たのか?」
鹿の頭部をパペットのように扱う危ない奴らのテリトリーを誰が荒しに来るんだ。普通は気味悪がって近づかないのが通常だ。以上抗議。
「んなわけあるか!ヒカ‥三上に用があってな。それで、ここに。」
「なんだ、てっきり正式加入かと思って損した。ヒカルの可愛さと、皐月先生のこのダイナマイトボディの魅力に誘われて入りたいってやつは多いんだけどね。なんかしんないけど、辞めちゃうんだよね。」
不思議そうに佐藤は話すが、その答えの一つがお前の持っている鹿の頭であることは明白だし、死んでもなお人間に弄ばれるなんて、祟り神にでもならないことを祈るばかりだ。
「まあ、そうだろうなぁ。あんまり化学は得意じゃないし、とりあえず三上を借りてもいいか?」
「え?ああ、いいよ。借りたら返してね。今の中森には永久貸与するには早すぎるから。」
笑顔で言うからシンプルにグサッとくる。
はい、はい。返しますよ。TSUTAYAで延滞料金払った事ないのが自慢ですからね。旧作レンタルの安いやついっぱい借りても見切れずに、でもちゃんと返す派なんで。と心で呟く。
「じゃあ、ちょっと抜けます!先に皐月先生と結美でやってて!」
そう言って二人で第二理科室を出る。
気になるところで切りました…わざとです…
気になるで共通しているのですが、妖艶な女性の衣装問題です!
男を悩ます問題はいつの時も同じなのだろうか?そう思った事はありますでしょうか?
作中ではフリルノースリーブのVネックでしたが、現実世界ではなぜニットなのにノースリーブ?しかもVネック!という服が存在します。永遠に解けない課題を突き付けられた気分になります。はぁ~。
それはそうと、個性的なキャラの登場で皆様の読みたい!という衝動を少しでも刺激出来ていると良いのですが…
とにかく!次回も読んでください!




