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第17章 ⑤ キミとなら

第17章 ⑤ キミとなら


その後は大変だった。既にヒカルの家では特大ケーキと、こじんまりとした猫用ケーキが用意され、


明日のパーティーの飾り付けや会場設置が始まっていたのだ。建設業者らしき人がステージを開設し、造園業の人が庭を整え、厨房では料理人がメニューの試作を行っていた。


そこに主役が間違って来たとあって、二人は慌てていた。


特にヒカルは慌てたのか、誕生日おめでとう!の看板文字にペンキをぶちまける失態をおかしていた。しかしリスク管理を日頃から学んでいるお陰か、すぐに凪に指示を出す。すると

凪はスタスタと何ともないかのように振る舞ってやって来た。


どうやら自分らを引きつけるように厳命されたらしい。


「えっと。予定より早いですね、あ!この子がマル君ですか?可愛いですね。で!そのぉ、ヒカルちゃんの家は今改修工事中だから、立ち入り禁止なんです‥だから、ついでだからこの街を案内してくれませんか?」


ドギマギしながら、恥ずかしそうに手を前に組んで、尚且つ上目遣いをされでもして頼まれたなら、それを受けないわけにはいかないだろう。どのみち受けてあげないと可哀想な事になる。


それくらいヒカルの命令は絶対だ。


「そう、ですね。昨日はいきなり連れ去ってしまいましたし。」


「そ、そう!ビックリしました!起きたら見知らぬ民家に、ヒカルちゃんといて、本当に二人して拉致監禁でもされたのかと思って焦りましたよ!」


どうやらヒカルの思惑、「可愛い子には拉致監禁」は達成されたらしい。


もう一つのやつは是非やめるように進言しなくてはならないだろうが。


「ごめんなさい。ちょっと特殊な移動方法なので、念のために。」


「ふーん。そうですか。まあ、でもこれで不思議な力があるってのは本当だったんですね。それと権力って、ヒカルちゃんのご家族のことですか?」


「まあ、そうですね。驚きましたか?」


「ええ!それはもちろん!あんな立派なお家に、お庭。お手伝いさんもいて、お金持ちだとは思いましたけど、まさか知事のお孫さんだなんて。なんかほんと信じられません。」


先をゆく彼女が振り向くと髪が靡き、首元が見える。自分は咄嗟に左側を注視してしまう。


「ん?どうかしました?何か首元についてます?」


白いマフラーを外して確かめる彼女の首元には傷跡はなかった。


「いえ、綺麗な首筋に見惚れていました。」


「は、は!な、何を言ってるんですか!もう!そんなことを言っていいのは本当に親しい人だけですよ。」


恥ずかしそうに顔を紅潮させて、マフラーを巻き直すと、彼女は顔を埋めた。


「でも、本当によかった。見てください。この夕日。」


登ってきた坂の途中からでも今日の夕日は橙色に輝いては、ゆらゆらと地平線に沈んでいくのがよく見えた。


「ふぁ。ほんとですね。綺麗。山から見る夕日もこんな綺麗なんですね。」


「うちからはもっと綺麗ですよ。それにここら辺は星も綺麗です。」


「凄いなぁ。あれ?何か泣けてくる。おかしいな。綺麗で、楽しくて、嬉しいのに、涙が止まらない。」


涙を袖口で拭う彼女にリュックからハンドタオルを渡す。


「ありがとうございます。でもこのタオル、巨人のやつ‥」


「あ!嫌いでした?」


「うちは出身が広島なのでカープなんです。せめて赤にしてください。」


思わぬやり取りで朗らかな気分になった二人は一緒になって笑った。


するとヒカルから着信がある。


「あ!もしもし!今日さ、うちは改修工事じゃん?だから、凪ちゃんと二人でカケルの家泊まることになったから、町を案内してるんなら、そのままカケルは凪ちゃんを連れて帰宅していいから!あと、変なことしてないでしょうね!あとで事情聴取するから覚悟しておくように!じゃあまたね!」


一方的に要件を伝えると電話をきってしまった。彼女にそのことを伝えると、また下を向いてドギマギし始めたので、気分が悪いのかと思い、飲みかけのミネラルウォーターを差し出す。


すると、それを飲んだかと思うと、驚き、むせ返す。さっきから本当に感情が忙しい。


しかしそこが彼女の可愛いところかもしれない。


彼女を連れて家まで帰ってくると、一番驚愕していたのはうちの母親だ。


平和な休日の一日を終えようかというところに、息子がもう一人の女の子を連れてきたと勝手に妄想を膨らませた結果、思考が、ショートしたらしい。


「あらぁ。いらっしゃい。上がって。何もないけど。それと、カケル。後でちょっと。」


リビングに彼女を残すと、自分は即刻2階へと連行された。


「カケル。お母さんはね、やっぱり同時進行はマズイと思うの。思うに彼女‥名前はなんて?」


「相田凪さん。あのさ、母さん何か勘違い‥」


「いいの!分かってる。全部分かってるから。カケルが産まれた時から、いや生まれる前からも全部知っているのよ母さんは。

そうねぇ、母さんも若い時は随分と迷ったもの。あの相田さんって子は見た目清楚系女子ね。それに対してヒカルちゃんは元気ハツラツ系女子。

違うタイプでギャップにグッときちゃったのよね。それで彼女との関係をダラダラ続けてしまっている。そうよね?そうだわ、絶対。」


「いや、違うって‥」


「大丈夫。ヒカルちゃんにはちゃんと話しましょう。ちゃんと話せば許してくれるわ、

そしてあの子にもキチンと謝るの。女は誠実さには後ろ髪を引かれても、後ろから撃つことはしないわ。」


すると玄関のドアチャイムが鳴る。おそらくヒカルだ。


「あら?こんな時間にまたお客さん?誰かしら。」


2階から降りていくと、案の定ヒカルだ。迎えに出た彼女と抱き合っている。それを見た母さんは腰を抜かす。


「さ、さんかく、」


手を震えて彼女達を指差しているが、言わんとしようとすることは理解できる。ただその考えには大きな誤解がある。


「あ!おばさん!今日は二人で一緒にカケルの部屋に泊まるから!」


言葉の弾丸を受けたかのようにショックを受け、倒れた母さんは意識も半ばにボソッと言った。


「ぽ、ポリアモリーの方か。」


そして意識を失った。


ああ、母さん。凄い勘違いしてるな。きっと。あなたの息子はまだ中学生だよ。母さん韓流ドラマとか少女漫画とか見過ぎだよ。


でもまだそのジャンルはないはずだよ。今だから言うけど母さん、BL本をヒカルに差し入れたのは、母さんだよね。


実は母さんのデスクの引き出し見ちゃいました。


イケメン漫画の2次創作でBL漫画を投稿してるんだね。それ見て思ったんだ、母さん。


絵、上手いね。


しっかりと呼吸があることを確認し、じいちゃんと母さんを寝室に運び入れると、婆ちゃんが作ってくれた手料理をみんなで食べ、天体観測を行った。



そのあとはしっかり2階の部屋にはヒカルと彼女が。そしてもちろん一階のリビングのソファーで自分が寝る羽目になった。まあ、当たり前か。


翌朝、朝日の眩しさに目が覚める。



カーテンを開くと、新しい世界が始まっていた。




君の笑顔は守られた。僕は君にできたことは少ないけど、


君のいる世界はやっぱり、美しい。




第17章終わりました!


これでよかったのかはわかりませんが、とりあえずホッとしてます。


「こぼれ話として」

ちなみにカケルの母である美空さんはバリキャリアウーマンとして会社で活躍していますが、

彼女は夜な夜なイケメンパラダイスなBL作品を投稿しては、旨い酒を飲むのを週末の楽しみにしている裏の趣味があります。


その趣味を知るヒカルは美空(師匠)から新たな作品を頂いては感想交換をしているとか…


まあ兎に角!

次回お楽しみに!


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