第17章 ④ キミとなら
第17章 ④ キミとなら
「正確には「真摯な祭事の運営と神及びその使いに対する行動指針」です。略して真摯神指針。」
名前を聞いてもサッパリ分からない。神様にも法律的なものが存在するということなのか?
「ああ、その名前を聞きたくなかったぁ!あの煩いおじさん達が査問会開くって通知来たばっかで、忘れたかったのに!」
「え?ということはもう既に委員会にはバレてるのですか?」
クグス神はマルとは目を合わせずに頷く。
「え‥つまりは?」
「すいません。もう神格剥奪は免れ得ないかと‥」
正座して頭を下げるクグス神。
「うぁーぁ。ああぁ。どうすんだよこれから無職確定じゃん。まだ、ボトルキープしてた木天蓼ボトルの支払いも終わってないのにぃぃ。うああぁ。」
マルが声をあげて泣いてるのは初めて見たが、何か理由が木天蓼とか何とかって。
心配するところってそこなのか?もっと大事な事があるような。
「す、すまない。あのまま放置する訳にはいかなかったので。申し訳ない。」
「うぁーぁ。あぁぁ。この就職難に無職なんてどうすりゃあいいんだぁぁぁ!」
泣き叫ぶマルを慰めるクグス神は、袖口から猫のオヤツ、ちゃ○チュールを取り出して与える。するとマルは泣くのもそこそこに、がっついている。
「落ち着いたかい?大丈夫、神社ならどうにかなる。そうだ!ウカノミタマノカミに頼もう!
祭神を変えて稲荷神社にするんだ。ウカノミタマノカミならいつも分社ができるのはウェルカムって感じだし。」
「グスッ。嫌です。俺にはクグス様しかいないんですぅ!」
「な、なんて嬉しいことを‥そうか、そんなにうちのことを思って働いてくれて‥」
クグス神が涙を堪えている。それを見てマルは涙を前足で振り払うと、正気に戻る。
「いえ、狐をこきつかってきたのに今更下っ端になるのは報復が怖いので嫌です。あ、それと、あそこはブラックだって狐が言ってたので、やめときます。なので、コノハナノサクヤビメがフリーランスの神使を紹介する事業やってるらしいので、そこに登録して、しばらくフリーランスで働きます。お気遣いありがとうございます。」
淀みの無い早口なセリフ。あまりの切り替えの速さ。身のこのなしの速さ。それには流石にクグス神も唖然としている。
「あ、そうでしたか‥それはよかったです。」
「ええ。あの退職金出ますか?それでとりあえず当場をしのぎたいので。」
「えっと、うちそんな制度ないから、とりあえず気持ちだけ出すよ‥何か‥ごめんなさい。」
「いえ、クグス様の元で培ったノウハウで、頑張ります!」
完全に意気消沈してしまったクグス神を放置して元気になったマルはスマホを神術で取り出すと、何やら連絡をする。すると、狐がボン!と現れる。
「おや、ここはクグス神の領域内?こんな所でお呼びですか?ロードブラック。」
ロードブラック??昨今では妙なあだ名や二つ名を呼称するのが流行りなのか、それとも隷属への反抗心なのかは知る由もない。
「ああ、うちの祭神が査問会呼ばれてるんだけど、委員何柱か買収できる?」
「ええ。うちのネットワークを利用してる神が何柱か。その方の利用履歴と、利用料金を交渉材料にすれば、可能かと。」
「それはよかった。うちの祭神困ってるからさ、頼むよ?」
「は!」ボン!
再び狐は消える。
「えっと今のはどうゆうこと?」
すっかりいじけていたクグス神にマルが笑みを浮かべる。
「大丈夫ですよ!査問会だろうと、神格の剥奪なんてさせませんから!俺に任せてください!」
「黒猫君!」
マルを抱き上げて撫でるクグス神。まったく、さっきまでの茶番はなんだったのか。
そもそも結論としてはマルが一番ブラックやないか!何がブラックは嫌だ!これじゃ黒い交際しかないじゃないか。
「あの、とりあえず、神社存亡の危機は乗り切ったんですか?」
「まあ、何とかなるだろ。俺に任せておけば、大丈夫!柔がダメなら剛で行く技もあるしな!」
おいおい、まだ何か策があるのか。相変わらず恐ろしいやつだ。
「あ!忘れてたよ。彼女達は今頃ケーキ作ってるよ!合流しないの?」
「そうですね。マルのお祝いだって張り切ってくれてるし、合流しますか!」
「そしたら、はい。うちの黒猫君を目一杯可愛がってあげてね!」
マルを受け渡されると、自分はまた護神術でマルが逃げないように動きを抑える。
「う、動けん。」
「じゃあ、近いうちまたどこかで!元気でね、カケル!」
「は、はい!ではまた。」
手を振って見送るクグス神にむず痒さを感じつつも、精神世界を後にした。




