第18章 ① マルのお仕事 Ⅲ
第18章 ① マルのお仕事 Ⅲ
「政治とは数であり、数は力、力は金だ。」
かつてそう言った政治家がいた。
その政治家は国民のために働いていたのか、それとも自らのために働いていたのか、はたまたその両方か?
人の真意などわかりはしない。
国を動かす舞台において言われるのは、「政治と金はつきもの」
と言われる。
まさにセットなのだと。しかしそのセットには思わぬ存在も憑いてまわるものなのだ。
故にそれに関わった者は口々に言う、
あいつらはまるで、憑きものに囚われたみたいだったと。
暗い洞窟に、松明の炎がゆらゆらと揺れる。
目の前にある白い布がかけられた祭壇には、榊、供物が配置されており、中央には札が置かれている。
炎の不安定な明かりに照らされるそれを見つめる男。
短髪の髪は6年前とは様変わりし、全て白髪となっている。加えて男は白い装束を身に纏っているため、背後から見ると白い塊のようだ。
かつては百戦錬磨を誇った男も、長い儀式には体が悲鳴をあげる始末で、古希を過ぎてその体の衰えを認めざるを得なかった。
儀式も終わり精神統一していると、背後から部下と思しきスーツの男が、儀式が終わった所を見計らい報告してくる。
「会長、挑戦者がご到着されました。如何様になさいますか?」
「部屋に案内しろ。直に行く。」
「はっ。かしこまりました。」
黒いスーツを着た男は洞窟を出て行く。
男は出口付近にある苔の生えた祠に触れると、瞬く間にオフィスビルの中へと移動してくる。
移動してきた部屋には神棚が目線より高い場所にあるが、何ら特別な神棚ではない。
異質な事と言えば、わずか6畳程しかない部屋がこの様なオフィスビルの中に神棚専用として設けられていることだろう。
男は部屋を出ると、平生とオフィスの廊下を通り、エレベーターの前で待つ少年を迎える。
「倉橋様。会長はしばし時を頂いております。20分ほどで参りますので、お部屋にてお待ちください。」
「わかりました。ではそうさせてもらいます。」
少年は紺のTシャツに紺のジャケットを羽織っている。
左手に持った黒のビジネスバックが少年には少し違和感を感じさせるものの、それ以外は普段と変わりないように感じさせる。
会長室へと通された少年は、黒革のソファーに座ると、目の前にある本棚を眺めていた。
少年は普段から様々な文献に触れており、この部屋にも何度か入ったことはあるが、まじまじと見る機会はなかった。
立ち上がって本棚の本を読んでみたい衝動に駆られるも、目を閉じて気を落ち着かせる。
時計の音が心臓に響くように感じるほど、静寂な部屋に10分ほど滞在していると、意中の人物がやって来た。
「お待たせしたね、倉橋君。おや、お茶も出してなかったかね。今出させるよ。」
黒のスーツへと着替えた白髪の男は少年の対角線の座席に座る。
「いえ、お茶は結構です。それよりも、会長。早速ですが、お望みの物を持って参りました。」
少年は札をバックから取り出すと、霊力を込める。すると、札の上には赤い本が現れる。
「相変わらず器用だね、君は。そのうちなんでも札に収納するのかね。君は?」
「スペースの確保と、保安の為です。あくまでも合理的に必要な時に限ります。どうぞ、ご確認ください。」
少年に赤い本を渡された白髪の男は、本を確認している。
「これが原本かね?私が以前見た時よりも、綺麗な気もするが?」
「さすがですね、そちらは私がコピーした物。こちらが頂いた原本です。」
もう一つの札から赤い本を取り出すと、並べる様に差し出す。
「ふむ。君も複製が可能なのか。宮田と同じ能力か?」
「ええ。会長はお気に召しませんでしょうが、ヌプルの使い方は汎用性が高い。色々と役に立つでしょう。」
「ふむ。まあこれも考え方、価値観の違いかね。彼らは神と人間が平等かの様な考えだ。人と自然は一体であり、そこに神が宿っている。人間も神もまた、自然の中では一つだと説く。私達には相容れない考えだよ。全く。」
「そうでしょうか?それはそれで面白い考えだと思いますけど。」
「君は柔軟だな。我々年老いた者に、そう簡単に信じてきたものを変えろ。と言われても難しいことなのだよ。
我々は神と人は異なり存在であり、神は人に奇跡をもたらす上位の存在。
神と人の間に引かれた線は絶対であり、我々が神々と並び立つなど、絶対あり得ないことなのだよ。」




