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第17章 ② キミとなら

第17章 ② キミとなら



「ヒカルか?すまん、こんな朝早くに。明後日なんだが、学校休むわ。」


「いや、本当ごめん。ちょっと野暮用で。それとさ、相田さんのことなんだけどさ、明後日までヒカルの家で匿ってくれないか?明後日の夕方には迎えに行くから。それまでの間何とかお願いできないか?」


「ホントか!ありがとう。助かるよ。そしたら稲荷神社で待ってるから。彼女を送り届けたら、後は頼むよ。ああ。この埋め合わせは必ず。じゃ、また。」


電話を切った自分は、稲荷神社を経由して彼女の住むアパート近くまで来ていた。


周囲を窺いカムイの修験場に入ると、その時を待つ。カムイの修験場は武器庫もあり、刀や弓矢もあるが、それらを使うには躊躇いもあった。これらの武器はあくまで自衛のために使う、それがカムイの教えだ。


私怨も混じるこの闘いには向かない。空の札も普通の術式を込めて使おうにもつかえない。いたずらに時間を消費すると、彼女の仕事が終わり帰宅する頃合いになっていた。


自分はカムイの修験場を出て、彼女を待つ。するとすんなりと彼女は家へと向かっている。


民家の塀の陰に潜んでいた自分は折を見て後ろから話しかける。


「あの。」


「うわ!びっくり。気配なさすぎて誰かと。えっと、君はこの前の!あのヒカルちゃんの彼氏さん?」


ヒカルはまだ否定してなかったのか。まあいいが。


「ええ、この前はどうも。」


「こんな所でどうしたの?道に迷った?それともまたヒカルちゃんが倒れたとか?」


「いえ、今日はそう言うわけではないんです。ちょっとしたサプライズがあって。ヒカルに頼まれてお呼びに。」


「えっと、それって先に言って大丈夫?」


困惑の表情を浮かべる彼女に少し安心する。


「大丈夫です。だけど、場所がサプライズだから、目隠しして貰えますか?」 


パーティー用の大きな目が描かれたアイマスクを渡す。


「なんか凄い突然ですね。まあ彼女なら言いかねないか。わかりました。」


彼女がつけた所で、稲荷神社の祠まで誘導すると、そこで彼女を気絶させた。


気絶させた彼女を抱き抱えると、また同じように移動する。予定通り自分は彼女を倉橋の叔父の家である平屋に入り、彼女を横に寝かせる。すると間の悪いタイミングでヒカルがおいでになる。


「ち、ちょっとお!カケル、まさか凪を‥」


目を見開いて口を覆うヒカルの仕草からは完全に誤解が生じている。それを解くのは本当に疲れる。


散々騒ぎまくった挙句、サプライズパーティーを敢行してもらう必要があるから頼む。

と両手を合わせて懇願する。


「はぁ?そんなのどうしてやるわけ?凪ちゃんの誕生日はまだ先なんですけど?いや、まさか。マル君の誕生日でしょ!ははあん。なるほどね。それで他の人には内緒なのね。でもだからって凪ちゃんを拉致してくることないでしょ。あんた犯罪だよ?」


そんな風に言ってもらえるとある意味清々しい。きっと彼女なら自分がどんな間違いを犯そうともちゃんと叱ってくれるだろう。そう思うとなんだか安心する。


「まあ、いいや。私もそろそろ拉致しようと思ってたの。そうでもしてみないとあの母親と男からなかなか引き剥がせないもんね。ほら「可愛い子には拉致監禁」「美人を谷に落としてその勢を見る」ってよく言うでしょ?」


流石だヒカル。言っていることが全て狂気じみて変換されている。本当にヒカルが犯罪者にならなくてよかったと、心から言える。


しかし彼女の間違いを訂正するほど時間はない。ヒカルに彼女を任せて、とりあえず月曜日の夜までは引き留めて欲しいことをお願いした。


「オッケーわかった。んじゃデッカいバースデーケーキ用意して待ってるから!あ、ちゃんと猫用と人間用で作り分けるから安心して!」


無邪気な笑顔で手を振って自分を見送る彼女の眩しさに、自分は目を背ける。


これ以上彼女の笑顔が脳裏に焼き付いてしまっては、いざという時に躊躇いの心ができてしまう。そう思ったからだ。


平屋の玄関から出て扉を閉めると、自分は気持ちを切り替える。稲荷神社から彼女の家の近くの祠に移動すると、自分は迷うことなく彼女の家に向かう。彼女から拝借した家の鍵を使い、中に入る。


中は相変わらずの埃っぽさと、シンクに乱雑に残された食器達がこの家を象徴しているように思えた。自分は扉に鍵とチェーンをかけ、男の来訪を待つ。


問題なのは家に先に帰ってくるのは彼女の母親か、それとも男なのか。


男なら、チェーン外し、扉を開けたタイミングで刺す手筈だ。しかし、母親が帰ってきた場合には出直す必要があるだろう。


その場合はカムイの修験場に逃げて、再び機会を窺うしかなくなる。出来ればそうはなってほしくないケースだが。暗い室内で、座卓を前に座る。


そして、リュックから取り出した菓子パンに齧り付く。彼等が来るのは予定通りなら月曜日の12時27分。少なくともその前には来る。余裕を持ったとしても、月曜日の朝には準備していればいいはずだ。自分は菓子パンを片手にスマホの時刻を確かめる。20時31分。


暗がりに恍惚と光るスマホの画面が、隔絶された世界の唯一の光だ。画面を消し、光が消えると暗闇に取り残された自分は一人、彼女と出会った日の事を思い出す。


彼女の仕草や彼女の作ってくれた料理の味。


嬉しそうに見つめる顔。そして食欲旺盛なヒカル。


どれもこれも、短い時間の中でも、かけがえのない思い出だ。


それを思うと、彼女の大切な命を守る。笑顔を守る。それが自分の使命であると覚悟ができた。


暗闇の中、壁にもたれかかると、ふと気を抜くと、意識がなくなっていった。



「ねぇ?起きて?」


どこかで聞いたことのある声だ。


優しく、体の奥底に響いてくる。


「誰?」


「凪。凪って言うんだ。私。」


「凪‥凪は確か聞いたことがある。確か自分が守ろうとしてた子の名前。」


「そう。だから起きて。」


揺り起こされた自分の目の前には彼女がいる。


白いワンピースを着た彼女はまるで夏の様相だ。


部屋は埃一つなく綺麗に整えられ、カーテンから漏れる太陽の光が部屋を白く照らしていた。


「えっと。自分は寝てしまったのか?」


「ううん。大丈夫。君はちゃんと守りに来てくれたんだもんね。」


「あ、ああ。でも君はヒカルと一緒のはず。」


すると彼女は自分に抱きついてくる。


あの時とは違う彼女の髪から香る透明感ある果実の香りに、気が抜ける。



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