第17章 ① キミとなら
第17章 ① キミとなら
今日、灰色の空を見上げて残念に思うことは、君に太陽が沈んだ後にも、こんなにも沢山の輝く星があることを教えてあげれないことだ。
夕暮れ時にはこの空が晴れ渡り、夕日を見た後には、一緒に夜空に輝く星を見よう。きっと太陽よりも、輝く星が見つかるはず。
そして、輝く太陽がまた昇ってきたのなら、共に笑顔で今日という日を過ごしていこう。
今より素晴らしい世界になったこの星からまだ見ぬ未来を迎えよう。
そうさ、自分はここから未来を変えてみせるよ。
気づいた時にはクグス神の精神世界に戻されていた。
放心状態の自分を心配したマルは霊力を込めて精神状態の回復を試みてくれたようだが、最終的には自らの魂に残った思いが自分を正気に戻す。
「どうです?気分は?」
「ええ‥何とか。彼女は?あれは‥いつ起こるんです?」
「2日後の12時27分。その前に行けば間に合うかもしれませんね。ちなみに答えは出ましたか?」
クグス神の問いかけに自分は答える。
「ええ。自分は‥あの男を殺す。」
「そうですか。それはいいのですかね。君は立派な殺人犯になりますよ。彼はまだ何もしてない。せいぜい強制性交とかですよ。それに比べて君は立派な殺人罪。世間では君も立派な悪人ですよ。衝動的な中学生殺人鬼が人を殺した。週刊誌とかが喜びそうですね。決してあなたのご家族は喜ばないと思いますが。」
「おい。冷静になれ!これはしょうがないことなんだ。誰も悪くない。これは運命なんだ。それに何もお前があいつを殺したってあの凪、って子が救われるとは限らないんだぞ!」
「だったら、どうしろって?見捨てて三人の命を失くすより、悪人の命一つだけが消えるならマシだろうが!」
怒りの咆哮をマルに向け、拒絶する。
「それはどうでしょう。未来が常に変わるなら、その先の結果もまた、あなたの望んだ通りになるんですかね?」
「どういうことですか?」
「あなた死にますよ。今のままなら。」
クグス神は冗談でもなく、真実を述べたようだった。マルは下を向くだけで何も言わない。
「死ぬ?自分が?」
「ええ。私はあなたの魂を見た。男を刺した後にあなたは報復される。そしてあなたは死ぬ。男は結局彼女がトドメを刺すんです。それがあなたの答えでいいですか?」
一瞬の戸惑いが心を揺さぶった。でも次の瞬間にはならばどうするか?という思考に切り替わっていた。刺してダメなら、術式を使おう。それであいつを殺れば、誰も罪には問えない。それなら。
「今、術式を使えばとか思ったでしょ。そんなのさせるわけないじゃないですか。私は曲がりなりにも神です。人智を超えた力による罪には人智を超えた者により制裁がある。それは人間達の刑罰よりも遥かに厳しいものです。
それをされるとわかっていて見過ごすほど君を見捨てているわけではない。一応、うちの神社の神職ですからね。」
「ならそうならないようにするまで。彼女はヒカルに引き留めてもらえばいい。その間に自分が。」
「ならそうするといい。君が死んだらお墓にはこう伝えておくよ。君の死は無駄だった。とね。」
クグス神は冷徹な目で見つめる。
それでも自分はまったく答えを変えるつもりはなかった。
「ええ。そうしてください。誰かがやらなきゃ、彼女は救えない。それに変わりはない。」
「それがあなただと?」
自分が頷くとクグス神は深いため息をつき、目を瞑る。
「カケル。こんなのは誰も望んじゃいない。考え直せ。」
マルがこんな必死に止めてくるのを見たのは初めてだ。霊力を暴走させた時だってこんな必死じゃなかったろうに。なのに、自分はそれを無視してでもやるべきだと思う。それが自分の人生の終わりだとしてもだ。
「ごめん‥マルには感謝してる。だけど、やらなきゃ。救いを求める人がいて、救えるチャンスがある。なのにそれをしないのは一生後悔するから。」
しがみつくマルに触れると、護神術を使う。するとパタリと意識を無くして、マルは倒れる。倒れたマルを左腕で受け止めると、ポケットに入れていた虹色の首輪を付けてやる。
「なぁ。いつか絶対仕返ししてやろうと思ってこの首輪持ってたけど。もう会えないと思うから付けちゃうな。こんな派手な首輪、絶対嫌がると思うけど、霊力が切れれば外せるようになるから、安心してくれ。本当にありがとうな。」
眠るマルを撫でると、艶やかな黒色の毛並みが、やけにいつもより愛おしく思えた。
「うちの神使を眠らせるとは。大したものです。まるまる二日間も眠らせる算段ですか?」
「ええ。この首輪には自分の霊力による護神術の効力を保つ効果がある。何かに役立てばと思ったんですけど、こんな風に使うだなんてね。自分でも意外です。」
眠ったマルをクグス神に受け渡す。
「そうですか。私は止めませんよ。あくまで神は観察者。神の手による判断で勧善懲悪に加担するつもりはありません。ですが、私から言えることはただ一つ。君が成すべき事をしなさい。」
「わかりました。お世話になりました。では。」
自分はその言葉を受け取ると、クグス神に一礼し、精神世界を出る。
現実世界は既に日が昇り始めていた。木々の間から見える太陽は、世界の繰り返される悲しみを忘れたかのように再び昇っている。
世界は変わらない。だけど、彼女の世界は変えられる。
彼女は待っている。沈んだ夕日を眺めては悲しみに浸る日々よりも、朝日の登る世界を一緒に笑顔で迎えられる日々を作る。そう覚悟を決めた。
ポケットに用意していた札を取り出すと、ボロボロと燃え尽きていく。灰になった札は風にのってどこかに消えた。
おそらくクグス神の差金だろう。どうも普通の術式は使えなくなってる。これでは人を相手にするにはどうもできない。
言わずもがな、大の大人相手に不意打ちでも致命傷を与えるには、それなりの道具がいる。すぐに用意するには既に身近にある物でなければならないという制約があるなか、鋭利な刃物で一突きするに適したものを探す。家の倉庫にあったサバイバルナイフと誰も使っていないアイスピックが無難だろう。持ち運ぶのにも手間がかからず、気づかれにくい。
自分は、リュックに荷物を入れて整えると、稲荷神社へと足を運ぶ。その移動ついでに自分は電話をかける。
朝だからか、繋がるまで少しかかる。留守番に切り替わるか?というタイミングで相手が電話に出た。




