第16章 ⑥ ここじゃないどこかに
第16章 ⑥ ここじゃないどこかに
「おや、どうしました。やはり、やめておきますか?魂への負担は確かな事です。安全を考えてここで彼女の魂の結晶に触れるつもりでしたが、それでも怖いのならやめておくのも手ですが。」
クグス神が手に持つ手のひらサイズの結晶は鉱石なのか。
それともガラス細工なのか見分けはつかない。何しろ色味も形態も微妙に変化している様に思える。ぱっと見はセルリアンブルーだが、スプレイグリーンになっている様にも見える。
「いえ。そう言う理由で震えてたんではないので。ちなみに何ですかそれ?結晶、ですか?」
「ああ、これは彼女の魂を複製して入れた物です。こうやって見ると、様々な色を見せてくれて綺麗なものですよね。特に心が綺麗な人ほど輝きも素晴らしい。色味は人それぞれですけどね。それもまた面白いところですが。」
クグス神の手のひらで変化するその結晶を見るとやはりその色は刻々と変化している。
「そうなんですか。まさかと思いますが、人の魂をコレクションしたりとかしてないですよね?」
「えっ?まさか。私はそんなことしないですよ。中にはそういう趣味を持たれる神もいらっしゃるにはいらっしゃりますがね。私はそこまでじゃありません。」
反応を見るにどことなく怪しいが、神のすることは大体横暴なのはお決まりみたいなところなので、魂を奪っていないだけマシ。とは思う。そう言う自分も何やかんや言って興味を惹かれ、近くに寄って細見する。
「あの。なんかここにひびが入ってません?これってよくないんじゃ?」
結晶には小さく亀裂が入っており、力が加わればそこから一気に割れてしまいそうだ。
「そうですね。色味も思ったより曇ることも多い。健康状態は良くないのでしょう。急いだ方が良さそうだ。黒猫君はどうしますか?君も、もう一度見ますか?」
「いえ‥私はここでお待ちいたします。」
相変わらず俯いたままの黒猫が気にかかるが、それでも自分は興味深さの方が勝っていた。
「それで、どうすれば彼女の過去未来を見れるのですか?」
「そうですね。この結晶は我々の精神世界に近い。彼女の魂に入り過去を追体験し、未来を先取りできる。そんな代物です。これに霊力を込めてこの中に入ります。霊力を操作することで見たいシーンに飛ぶことができます。これを上手く作れる神は重宝されるんですよ。マニアは私に頼むものですから、いつもこんな仕事ばかり‥余計なことを言いましたね。忘れてください。」
完全に常習作成を白状したクグス神を現行犯で逮捕するべきだろうが、ここは見逃そう。
その代わりに後で色んな人の結晶を作ってもらおうと思う。きっと面白いのがみれるだろう。
おそらく倉橋の色は暗黒色に違いない。闇の深さを一番感じるからだ。
「ええ。大丈夫です。お気になさらず。ではさっそく。」
「ええ。ではお先にどうぞ。」
自分は結晶に触れて霊力を込める。すると結晶の中に吸い込まれていく感覚に襲われる。ぐるぐるとセルリアンブルーの空間を回されたかと思うと、ストンとどこかに到着したのを感じる。
目眩からふらふらとしていると、そこにクグス神が手を貸してくれる。
「大丈夫ですか?精錬された世界ではないですからね。振魂酔いはしやすいんです。直に治りますから。」
フラつきは確かに直に治ったが、気分の悪さはどうもしようがない。最初にやった移動の時の感覚に似ている。おそらくあれと同じ原理なのだろう。
「え、ええ。ありがとうございます。ここは?過去ですか?それとも未来?」
「ここは過去です。それも彼女の生まれた日ですね。おそらくターニングポイントなのでしょう。この地点の輝きは特殊でしたから。」
「そ、そうですか。とりあえず。どこに向かえば?」
「歩きたいなら歩いてもいいですが、ここは魂の世界。カケル君もイメージできれば、浮遊することも可能なはずです。ほら、こんな風に。」
まるでスタントマンが吊り上げられたかの様に上に上がっていく。
そのクグス神を見て自分もイメージをしてみる。グッと霊力を込めてみたりと、試行錯誤するが、一センチも浮遊しない。ジャンプした方が高く飛べそうな気がする。
「あの、ジャンプして屋根に飛び乗れる気はするんですが。」
「ならやってみてください。イメージできればできるはずですから。」
なんでしょう。イメージできればできるはず。その言葉が、「必要なのは信じること」と言われている気がしてならない。自分はネバーランドにでもいくんでしょうか?忘れてならないのはあの時はちゃんと魔法の粉もかけて貰ったんです。でも残念ながらそれはないわけで。
こうなれば意地になって、オレンジ色の服を着た金髪頭の忍をイメージして屋根に飛び乗る。すると自分でも恐ろしくなるような跳躍力を見せ、屋根に飛び乗れた。これならチャクラを練って夢の多重影分身も可能な気がする。
「うぉ!凄い!」
「よかった。そのまま屋根につたいに走ったりは可能ですか?」
「いやもちろん!忍者走りでいけば大丈夫な気がします!」
「ならそのまま私に付いて来てください。」
手を後ろにする独特スタイルの走りで、屋根瓦を走っては次の屋根に跳ぶを繰り返す。
タッタカ、タッタカと調子が出てきたところでクグス神が止まる。
辺りは夕日に照らされていて時間帯は異なるが、おそらく先刻来た海沿いの町だろう。
クグス神はゆっくりと防潮堤の近くまで来ると、そこには一人の男が海に沈みゆく夕日を眺めている。
「彼は?」
「彼女の父親でしょうね。ここでの出来事が彼女の人生の根幹に繋がってる。次は5年後です。そのまま切り変えますよ。」パチン!
という指を鳴らす音で場面は転換する。同じような時間帯だが、防潮堤の下にいる親子の姿が見える。




