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第16章 ③ ここじゃないどこかに 

第16章 ③ ここじゃないどこかに


移動して来た精神世界は間違えてなければ、ここはクグス神の作り出した世界。



一度会った時の感覚から言えば、イメージではアップチューンな音楽がBGMとして流れ、浜辺には木製のチェアの横にパラソルが挿してあるビーチ。


浜辺に吹く潮風が肌をくすぐる。なんてのを想像していたが、まったくと言っていいほど思ったのとは違っていた。


漆塗りの社殿には金の装飾も施され、派手さはあるものの、荘厳さが際立つ。見るにこれは目の前で見た祠の大きい版ではないか?


大きい分、仔細に見ることができるが、階段を上がり中に入ると欄間にも細かな動物や神獣、植物の彫刻が施されているのが見て取れる。


「どうも。よく来てくれたね。カケル君。」


冠に濡羽色の袍を纏い、白に金の刺繍が施された袴を着たその姿はやはり神聖な存在であることを実感させる。そしてその顔つきはやはり父の姿と酷似していた。


「どうだろう。少しは威厳というものもありそうだろ?まあ、とりあえず座りたまえ。」


自分達は言われて畳の上に正座し、平伏する。


左手に持った笏を畳の上に置くと、クグス神は何か唱えた。すると後ろの扉が閉まり、暗くなった室内を蝋燭に火が灯る。床に顔を向けつつも、クグス神の方を盗み見る。


暗がりの中に浮かぶ彫刻の影や、クグス神の奥で揺れる大きな火の揺めきが、より神秘さを引き立たせている。


「なかなか演出ですね。さすがですクグス様。失礼致します。ではさっそく本題の方に入らさせて頂いてもよろしいですか?」


「ああ、いいだろう。我が使いである、時渡りの猫よ、申してみよ。」


「はは。我が主にお願いしたき事があり、参上した次第。我が方の望みを述べさせて頂いてよろしいか?」


「ああ、申せ。」


「ありがたき幸せ。では申し上げさせて頂きます。本ツトメにおける課題において、一人の者を救って頂きたいと考えております。」


「ほう。救うとは、具体的に私にどうしろと?」


「はは。クグス様にはその者の過去未来を見て頂き、その者の困難を除いては頂けないでしょうか?」


クグス神はその言葉に少し頭を抱えてため息をつく。


「ふむ。それは難儀なことですね。直接介入がご法度なのはわかっていますよね?」


「はい。存じております。故にクグス様にはその者の過去未来を私共に見せ、この挑戦者である中森翔にお力添えを頂けないかと、お願いに参った次第でございます。」


「そうですか‥でしたら一つ、返答する前にカケル君に質問をしたい。その返答次第で、手伝うか、手伝わないかを決めたい。」


「ええ。もちろんでございます。」


そう言って黒猫は引き下がると、カケルに前に少し出るように促される。


「ではカケル君。この際だから私は君にハッキリ問いたい。なぜ君は真理を求める?願い事が叶うと言われているからかい?それとも知的好奇心?はたまた、祖母やそこの神使に言われたからかな?」


クグス神の神としてのお言葉に妙な緊張感から、自分は手の中の汗を握りしめる。言われてみれば、自分はなぜツトメに参加しているのだろう。


すぐに思いついた理由は神社の息子の勤めとして、これを行うことを求められていたから。つまりクグス神の言うところの3番目が主な理由だったはずだ。


しかし、ツトメを通じ人や神に出会うことで、人としての成長できてきたこと。これこそが財産な様な気もしてきたのだ。まさに参加することに意義があり、その後に褒美があるかどうかは関係ない。


こんなオリンピック憲章並みに高尚な理由を述べれば、普段の黒猫にはとてつもないツッコミをくらいそうだ。


それでもとりあえずそれっぽく頭の中で考えをまとめた自分は、腹を決めてクグス神に述べる。


「はっ!私が真理を求めるは、そこにいる人々を知り、人々に寄り添える人になるため。それを成し遂げための、途上の出来事だと考えております。」


それを聞いたクグス神はクスクスと笑い始めたかと思いきや、堪えきれないのか畳を叩いて、涙を流しながら大笑いする。


そこまで大爆笑をとるボケをかました覚えはないが、どこかクグス神のどツボにハマったらしい。ようやく笑いが収まると


「いやぁ。なんて奴だい。キミは。こんなことを私以外に聞かれたら、即刻失格だね。ツトメを途上の出来事だなんて。まったく凄い!即刻、首を刎ねてやる!って激怒されてもおかしくないよ。でもまあ、ある意味期待通りだ。彼の子らしい。わかったよ。君に最大限の協力をしよう。共にその子を救おうじゃないか。」


何がクグス神の琴線に触れたかは理解出来なかったが、とりあえずは上手くいったらしい。


目の前まで来たクグス神は自分の手を取り、両手で固く握りしめた。


クグス神が触れたその手の温もりが自分に伝わったその瞬間、昔の記憶や感覚が脳内に止め処なく押し寄せた。思いがけもしないその現象に自分の息遣いが荒くなる。


「おっと大丈夫ですか?少し彼の記憶が流れてしまったようですね。あなたの父、虹一の記憶がね。」


「ウッ、え?ええ。し、しかしなんで、そ、それがわかったのですか?」


苦しそうにする自分を見て背中を摩り、微笑むクグス神は父の姿と重なった。


すると不思議に呼吸が落ち着き、不安が軽減されたのが実感出来た。


「クグス様。そのお話はまた別の機会に。今は移動の方をお願いします。カケルも、もう大丈夫だろ?」


「あ、まあ。大丈夫かな?」


「だそうです。このお話は今度必ずお話しします。だからそれまでのお預けということで。」


黒猫の催促に応じたクグス神は、笏を手に取り、また何やら詠唱をすると黒猫はクグス神に近づき肩に乗る。



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