第16章 ① ここじゃないどこかに
第16章 ① ここじゃないどこかに
夕日が綺麗だなぁ。漠然と部屋から見える沈みゆく太陽を眺めては、幼い頃には気づけなかったこの光景の素晴らしさを噛み締めていると思うと、感慨深くなる。
しかし、もしや観光地として開放すれば、うちの神社も儲かるか?なんて銭ゲバな思考が頭をよぎるのも成長したということなんだろうか?
いや、これに関しては誰かさんのせいだ。決してCMで雪のせいにする若人達とは異なり、これは明確に誰か(黒猫)のせいだ。誰か(黒猫)は言わずともわかると思うが。
ククノチノミカミの課題を受けてはや二週間。
この間に宮田さんに修行をつけてもらえるのかと思いきや、ほとんど自主練という、やる気のない部活顧問状態。
良く言えば自主性を重んじ、悪く言えば、管理監督の放棄だ。
そう言う事情もあり、まともに課題に取り組む隙もなく。二週間も経ってしまったのだ。
気づけば11月も最終週。最後の課題もある事を考慮すれば、ここらで決着をつけねばならないだろう。
かねてからヒカルにはターゲットの相田凪と親交を深め、お悩み相談を受けれる体制を構築しようと試みてもらっていたはずだった。しかし、
直近の進捗状況を尋ねるに、
「凪ちゃんはね。推しメンが友梨ちゃんなんだけど、最近は大和坂だけじゃなくて、湊坂の浜矢ちゃんも好きなんだって!そんでね、漫画はやっぱり、「君キス」が好きで、王道の王子様タイプより、優カワタイプの犬系男子がいいんだって!そんでさ、「君キス」の実写化の話でも盛り上がっちゃってさ!この前なんて4時間も電話しちゃって‥」
以下省略。
そう。彼女の作戦は頗る順調そのもので、このまま行けば、
2年3ヶ月後には「Best Friends Forever」「うちらずっ友だよね!」状態になれるだろう。
ちなみに「君キス」とは、
某女性向け漫画雑誌で連載中の王道少女漫画で、正式なタイトルを「君にキスするはこの世の必定」という。
長いのでみんな「君キス」と約するそうだ。どうにもイケメン俳優が演じる実写映画が公開前から話題らしく‥
とまぁ、そんなこんなで、こういう訳なのだ。
では自分はどうするべきか。言わずもがな、この状態を放置するわけにはいかない。何もせずとも期限である12月27日の皆既日食は迫ってくるのだ。
(ちなみに「君キス」の映画の公開日は12月23日だ。クリスマスにカップルにどうぞの作品に仕上がっているのだろう。自分には関係ないか…)
幸いにもクグス神もマルの能力もだいぶ理解して、連日の修行の成果もあり、護神術も気やすめ程度には使えるレベルに達している。
となれば、もはや待つのではなく、積極策にうって出るべきところなのだ。そこで昨夜、自分はマルを呼び出し、この懸念を伝えた。
するとマルは気怠そうに断るのかと思いきや、案外やる気を出して話に乗って来たのだ。
「いいぞ。その話乗った。で?クグス様の力を借りるんならどうやって交渉する気だ?ああ見えて結構シビアだぞ。チャージだけで3本、1時間3枚ってところだな。うちは高えぞ。」
謎の業界用語についていけてないが、どこか酒の匂いだけは感じる用語だ。
「その3本に1時間あたり3枚ってなんかお金取るの?」
「当たり前だろ!どこで無料で祈祷する神職がいる!それと同じで、最近は神様も直接お金を取るスタイルなんだよ。一時期流行ったフェアトレードだ。人間達のピンハネが酷くて、生産者も立ち上がったんだ。これからは神様も儲ける時代だぞ!」
神様が儲ける時代?てか神様が生産者って、何か作ってるとは思えないけど。
あのアロハ姿で、大根を嬉しそうに両手に持つ姿を想像するが、まったく似合っていない。まあ、何かにつけてお金が必要なのは事実なんだろうけど。
ようは有料なのは確からしい。そうは言っても自分のお金なんて、お年玉と、お小遣いの残りしかなく。そんなの足し合わせても大した額にはならない。
「でさ、その3本っていくら?」
「300だな。あと1時間あたり、3万円。まあ、話を聞くにそんなに時間はかからないから追加料金は3万円で済みそうだな。」
300?300は円だと助かるが、万の場合。
そうなら本格的に臓器売買レベルの闇取引、特殊詐欺のお手伝い、はたまた仮想通貨のサーバーをサイバー攻撃して不正送金する。などの犯罪行為に手を染めなければ容易に手に入る額ではない。




