第15章 ⑦ 神と人
第15章 ⑦ 神と人
「ヌイヤ流だからですか?」
「その通り。自然の力を借りてものを複製する。それはヌイヤ流の術式でも中々難しいですけど、これを修行ついでにやってもらいたい。その中で、ヌイヤ流のヌプルの使い方をマスターしてもらう。ってのはどうですか?」
「自分はありがたいですけど。いいんですか?本当は味方にしてから教える前提とかだったんじゃ?」
「いいですよ。そんなこと気にしなくて。言ったでしょ、上手く誤魔化すって。それに、虹一さんの息子さんをみすみす殺すわけにもいかない。最悪ヌイヤ流のヌプルを使えれば、身の危険を感じればそれで切り抜けられる可能性もありますからね。」
「なんかすいません。色々気を使ってもらって。」
「いえ、こっからは気を使いませんよ。とにかく時間がない。学校から帰ったここで修行。土日も修行してください。それで、やっと少しは使えるようになるかと。」
「そうなんですね‥ちなみにそれくらいやってどのくらいできるようになるんですか?」
「上手くいけば、静電気から火花を起こして火をつけるとか、そよ風を吹かす程度ですかね。マッチやライター、扇風機のいらない人生はなかなかいい人生だと思いますよ。」
ま、マジか。さすがに二ヶ月弱ではそれが限界なんだろう。
しかし火起こしとそよ風を操れれば、日常生活程度なら使い道もあるだろうが、相手が神やら、人間やらとなると心許ない。
「そのくらいの力ならライターと扇風機を持っていった方が役に立ってません?」
「ああ、そうですね。ぶっちゃけ、その方が早い。今のままでは到底実戦で使えるレベルに達しない。だからお札が登場するんです。」
「お札ですか?あらかじめパワーを込めておくんですか?」
「そう言うことです。しかし、自分の霊力を注ぎ込むのと異なり、自然の力を注ぎ込む。だから、自分の霊力の消費がほとんどないし、自分の限界値を大幅に超えた術式を発動できる。って寸法です。」
「それは凄い。何枚も作って持っておけばめちゃくちゃ強いじゃないですか!」
「いえ、お札の耐久性からも術式を込めてから3時間が限度ですから、そう何枚も作っておけません。相当練達すれば、お札の量産も可能でしょうけど。」
「そんな短いんですね。なかなか厳しそう。」
「ま、考えても仕方ないですから始めましょう!」
そう言うと、宮田さんは自然にあるヌプルを感じる訓練を始めた。バックから金の天秤を取り出すと、天秤を持って目を瞑る。
すると、何も載せていないのにも関わらず天秤がかたむく。
「この天秤は触れている間ヌプルを感じやすくなる術式を施してあります。こんな感じで、天秤の上にある空気を操ることで天秤を動かしてください。その感覚が掴めれば、天秤に触れずに天秤を動かす。習得すれば、最終的には空気圧や水蒸気、体内の電気を操れる。そうすれば雷を落とすくらい簡単にできますよ。」
「ちなみにその最終的には、の最終ってどのくらい先ですか?」
「飲み込みが早いと1年半。長いと一生かかってもできませんね。ちなみに倉橋君は半年ほどでその段階にいきましたけど。」
「えっ!あいつも使えるんですか!敵じゃないんですか?何で教えるんですか!」
「いえ、彼が教わったのは6年も前のことです。その当時は先生も会長とは懇意の中でした、だから新たなる可能性を探る上でもヌイヤ流のヌプルの扱いを学ぶことは必要だったんです。その時に術式の訓練を受け始めた彼はまだ、8歳とかだったでしょうか。そもそも彼は素質があった、彼は特別なんですよ。」
8歳でそんなことをやってたのか、あいつは。通りであんな闇を抱えていたわけだ。それを聞くと、あいつの今までの言動には納得がいく。
「そんな訓練を8歳から受けてたなんて、あいつは傭兵でもなる気だったんですか?」
「受けていたんではない。受けざるを得なかったのが本音でしょう。倉橋君の両親は大学教授です。私たちの業界は権力者にパイプが深い。そう言ったところが影響しているのでしょうね。」
「まさか、お金のために子供を売ったんですか?」
「そう取る人もいるでしょうね。でも最近は彼自身の探究心がそうさせるんでしょうね。私にはそう見えますが。」
「あいつに何があったにせよ、それでもあいつはやると決めたんならやるやつです。それなら自分もやるだけです。」
「そうですか。では頑張ってください。」
宮田さんから天秤を受け取ると、自分も目を瞑る。すると大きな力を感じる。自然が体に溶けていく感覚だ。
そして目を開けると、天秤を傾けることに成功していた。
「流石です。次のステップにいきましょう。」
宮田さんがこの成功を予測していたかのように微笑む。
「わかりました。あいつが6ヶ月ならこっちは2ヶ月でマスターしますよ!あいつ当時の年齢の1,75倍こっちは生きてますから。人生経験の違い、見せてやりますよ!」
今度は天秤を地面に置いて再び集中する。
こんなことを繰り返して、時にはアペ・フチ・カムイの助言も受けながらも、修行を行った。
そして12月20日ツトメの日を前に、自分はヌイヤ流のヌプルの使い方を一通り習得することとなる。
しかし、それはまだ、先の話だ。
そして、迫り来る思いは、常に善意でないことを自分は思い知る事となる。
その思いに、自分は、命の儚さと尊さを知る。




