91 愛玩奴隷 メッセージに震える
「どうしたの?」
「こ、こ、こ、コレ、何処から!?」
「これは……!」
僕は、何処からともなく表れた謎の付箋をティキさんに見せる。
「コレ、長距離用で返信機能付きの『トリレタ』よ!? 貴女って本名はレイニー・ソフィって名前なのね?」
「は、ハイ!」
そうなのよ。リーリスさんと一緒に暮らすことをエシル姐さんに認められた際に、ダリスに住民登録をさせて貰ったんだけど、その時、エシル姐さんの養子って事で登録したんだよね。
別にリーリスさんの養子でも良かったんだけど、この世界だと養子になるって事は、イコール『弟子になる』に近い扱いらしい。
まだ義足の無かった身欠けの僕の場合、冒険者であるリーリスさんの弟子になるには、そのペナルティを覆すくらいの強さを冒険者ギルドに証明する必要性があったのだ。
それよりも、薬屋としての評判が高いエシル姐さんの弟子の方が手続きが断然らくちんだったんだよね。一応、ペニシリンの実績もあったし。
そんなことより!
「長距離用で返信機能付きの『トリレタ』……デスか?」
僕は、思わず握りつぶしそうになった付箋を振るえる指で慎重に広げた。
この付箋、よく見れば形は十字架の横棒が鳥の羽みたいな形になっていて、縦棒の部分に宛先と文面が書けるようになっている。触り心地は、普通の紙よりもかなり丈夫でつるつるしており、まるで水をはじく加工がされているようだ。
聞けば、このトリレタ、通常のモノと比べると伝えられる文字は30文字以内、しかも日本語でいうとカタカナのような『簡易表記文字』のみ……と、かなりの制約がある。
その代わり、文字数が少なければ少ないほど遠距離まで飛行することが可能。
通常のトリレタだと、同じ町か、精々近くの隣町くらいが限界な所、これは3つ4つ遠くの街まで行くことができるし、目的の相手が高レベルの時空結界だとか、魔法が無効化される特殊犯罪者収容施設のようなところか、死亡して何年も経過してでもいない限りは、相手が遺体でも目的地まで飛んで行く。
流石に、戦地を飛行する際にたたき切られたり、火炎弾で燃やされたり、なんていうトラブルには対応していないが、台風くらいの悪天候であれば、岩陰や木のうろに張り付いてやり過ごしてから再び目的地に向かう事ができるらしい。
……高性能!
しかも、裏面に文字を書き入れることで、返信が可能。
まぁ、ダリスまでの距離を考えると海が有るので内容は10文字以内に抑えた方が安心らしいが。
「コレ、消耗品としては、すごく高いのよ……」
どうやら、お値段的には、以前、僕たちがダリスのお姫様から貰った報酬のほぼ半分以上がこれ一つで消し飛ぶ価格らしい。
リーリスさん……っ!!
申し訳ないやら、嬉しいやらで、目頭がジンジンして世界がゆがむ。
だが、今は感動などしている場合ではない!
それよりも、重大な事は「コレは、どこから入り込んで来たんだ?」ということだ。
「ごめんなさい、そこまでしっかりと目で追っていた訳では無いんだけど、あっちの方だったかしら?」
ティキさんが指さす方向は、部屋の扉のある壁。だが、この扉にはあの調教士の男の結界が張られているはずなんだけど……?
僕は、何か手がかりが無いかと、壁や扉に【鑑定】を発動させた。
すると、天井付近の装飾の一部に「換気口」という輝く文字が……!
そこかぁぁぁぁっ!
あ、うん。確かに……!
分かった上でよくよく見てみると、その欄間みたいに図案化された植物が彫りこまれた天井の一部から暖かい空気が流れて来ている。
「ティキさん、木で作られている、あの天井近くの壁飾り……外せマスか?」
「ああ、あれね……ちょっと待ってね。えーと、えいっ!」
ぱきゃっ!
おお!
ティキさんが、備え付けられていたテーブルを例の欄間の下へと運び、その上に乗って木材の目隠しを握りしめると、それほど力を入れて握っている様子は無いものの、あっさりと、乾いた音を立てたカバーが取り外された。
そして、ぽっかりと顔を覗かせる通気口。
こ、これだけの広さがあるならば、僕が小鳥に変身すれば、進んで行ける……!
都合よく外まで直行できるとは限らないが、それでも、あのドーム状の結界を張っている古代魔法遺物が保管されている場所が分かれば、隙を見てティキさんに破壊をお願いすることもできるかもしれない! そうなれば、残る障害はこの首輪だけになる訳だから、逃亡に一歩前進だ……!
「こ、この通気口、進んでみマス!」
「そうね……ギリギリの大きさだけど、行ってみましょうか!」
「へ?」
いやいやいや、ティキさん、その筋肉量だと絶対無理ですよ!? この通気口、ティキさんの右の二の腕より細いじゃん!?
思わず僕が否定の言葉を紡ぐ寸前。
「変化っ!!」
ぽわんっ
可愛らしい声が響くと同時に、仁王で猛者でマッスルの神に愛されたゴリゴリボディが、みるみるうちに小さくなる。
目の前にいたのは、やわらかそうなピンク色の毛並みに氷壁色の瞳の仔狐さん。大きさは大人の狐の半分くらい。シュルっとしたほっそりボディと、もふもふの大きな尻尾!!
人間時のあの筋肉の影も形も無いけれど……
うわぁぁぁぁぁ……か、かわいい……!!
「このサイズなら、ギリギリ通れそうね!」
「確かに……! でも、ティキさん、その姿だと……あの天井の通気口まで登れマスか?」
「……あっ……」
結局、僕たちは一旦人間の姿に戻り、二段ベッドを通気口の真下へ移動させ、その2階部分から飛び上がることで事なきを得た。




