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90 愛玩奴隷 大企業と零細の懐事情を垣間見る


 ふと、気になって女の子たちを見回すと、彼女たちは全員チョーカーのようなこの『隷属の首輪』を装備しているものの、ステイタスに『隷属状態』の異常は出ていない。

 どうやら、この男に従うならば、一定の行動の自由が認められている、といったところか。 


「ルールを守れない悪い子にはお仕置きです」


 ひゅっ……ぴしっ!


「ひゃっ!!」


 調教士の男は、手にしていた鞭で、ティキさんのお尻を叩いた。

風を切る鋭い音の後に、案外、小さな衝撃音が響く。

もふもふ尻尾がくりん、と足の間に挟まっちゃってるでござる。


「貴女も反抗的な態度はダメですよ」


 ……ぺちり。


「ぴぃっ!!」


 おぅ? い、痛くは……ないな。

 一応、僕の方には加減してくれたのか、風切り音は聞こえなかった。


「わかりマシた。きちんと、お部屋に戻りマス」


「貴女も……ルールは守れますね?」


「…………わかったわ」


 ティキさんはたっぷり時間をかけ、ようやく、その一言を絞り出す。


「良いですか? あまり反抗したり、周りに迷惑をかけるようなことをしなければ、こちらも『隷属の首輪』を発動させることはしません。二人とも、気を付けてくださいね」


 男は、そう言うと、恐らく『隷属状態』を解いたのだろう。ティキさんが飛び上がるように膝立ちの姿勢になる。

 と、同時にステイタス異常の部分からあの光る文字は消え、僕の身体も自分の意思で動かせるようになっていた。


「ご理解いただけて幸いですよ、二人ともいい子ですね」


 調教士の男は、にっこりと笑みを浮かべて鞭をしまうと、僕たちの周りの女の子たちに「皆さんも、ルールはきちんと守るんですよ」と声をかけている。


「大丈夫ですの?」


 猫耳お姉さんが心配そうというよりは、いたずらをして怒られた自業自得の幼い子供を気遣うような眼差しで僕たちに声をかける。


「ちゃんと先生のおっしゃることを守れば、無体な真似はされませんわ。鞭だって痛くはないでしょう? スオウ先生は優しいんですのよ?」


 彼女曰く「時々、先生から鞭を貰う事にハマっちゃう困ったさんな娘が居るんですわ、そうならないようにお願いしますわ」とのことだった。

 そういう趣味嗜好を持っている奴はロレンさんだけでお腹いっぱいデース…… 



 そんな訳で、食事を終え、部屋に戻った僕は、さっきの首輪の情報をティキさんと共有する。


「……なるほど、そういうことだったのね……隷属の魔道具……ちょっといい? ふんっ!」


 ティキさんは、僕の首に張り付いている華奢なチョーカーを引き千切ろうと、両腕の力こぶを膨らませて引っ張る。だが、繊細なビロードの紐にしか見えないチョーカーは裂ける気配が無い。


 服と一緒で、例え変身しても、この魔道具は僕の小鳥の身体にぴったりとくっ付いている。

 じっくり【鑑定】したところ、これを取り外せるのは、あの主の証(アルピ・ビェーヴァ)の鞭を持っている者か、あの鞭の持ち手に付いていた青い宝玉を壊した時だけのようだ。


 そう伝えると、ティキさんがため息交じりに、しみじみと呟いた。


「はぁ……それにしても、この施設ってホントお金持ちなのねぇ……ソロルジアは財政難だから、わざわざ魔道具を使うなんて……考えられないわ。ウチなら、それこそ、力技よ。反抗的なヤツには筋肉言語でお話しをさせて貰っちゃうわ」


 肉体言語……つまり、フルボッコと。そ、それはそれで、怖いな。

 せめて、牢にぶち込む程度にしてあげてください。


「それにこの規模の結界を張れる古代魔法遺物《アーティファクト》でしょ……ウチの何年分の運営予算になるのかしら?」


 そんな事をぼやくティキさん。

 ……零細運営は辛いんだね。


 そういえば、僕が実験奴隷だった時は、素肌に焼き印だったもんなぁ。同じ奴隷でも、その扱いは天と地だ。しかし、そうなると、逃亡ルートを探れる時間は、姫妓の蕾(プランティア)の自由時間だけ、ということか。困ったなぁ……


 僕は、ひょいっと部屋に置かれていたソファークッションに腰を下ろした。

 ちなみに、この姫妓の蕾(プランティア)の私室に当たる部屋は、基本的に床で生活するようになっているらしく、毛足の長いふかふかした絨毯が敷かれている。


 その上に、二段ベッドと大きめなテーブルが一つ、それに女の子2,3人が一緒にゴロゴロできるような大きなソファークッションが一つ。


 部屋の隅には各々の名札が付いた籠の入った収納ボックスが一つ。それに僕たち個人の私物入れとして利用するのだろう。


 ……と、生活スペースが別に存在している個室としては、なかなか立派な部屋だ。

 きちんと窓も一つあるようだが、外側からしゃれた形の鉄格子が嵌められているため、普通の人であれば、窓から身を乗り出すことは出来ない。


 ま、僕には関係ない大きさの格子だけど。

 ……ちっ、外の結界と、この首輪が無ければなぁ……

 僕たちが無言になったその時だった。

 

 ぺたん。


 どこからか、付箋のようなものが落ちて来て、僕の額に張り付いた。


「?」


 ナニコレ?

 僕は、額にくっ付いた付箋をひっぺがす。


 何でゴミが降ってくるの? と、ちょっと腹立ちまぎれに握り潰そうとした付箋に書かれた文字を見て息を飲んだ。


『本文:ドコニ イル ヘンジ クレ 宛先:レイニー・ソフィ 』


「ッ!!?」


 り、リーリスさんの字だっ!!

 思わず、座っていたソファから、飛び上がる勢いで立ち上がってしまった。


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