92 愛玩奴隷 トリレタを追う
通気口の中は、僕ならば普通に飛べるくらいの広さがある。ただし、ティキさんにとってはかなり狭いらしく、ギリギリのサイズだ。まぁ、野生の狐って土中の巣穴で生活する動物だから、本人はそれほど苦しくはないらしい。
僕は、ティキさんが通路に潜り込んだのを確認すると、くちばしに咥えていた『トリレタ長距離対応版』をそっと放す。
『本文:ミカヅキジマ ラクエン 宛先:リーリス・リン 』
返信部分に書いた文字はこれだけだ。
でも、これがリーリスさんに届けば、僕の無事を知らせることができる。そのうえ、このトリレタを追って進んだら、出口に到達できる可能性すら存在しているのだ!
そんな訳で、スイスイと飛んで行くトリレタを僕たちは追いながら進んで行くと、左右方向と、真下垂直に切り立った分かれ道に出た。
入り込んだのが2階の通気口だから、この左右は恐らく他の女の子たちの個室に繋がっているはずだ。
仮に、この建物の地下部分に行くならばこの落とし穴のような通気口を、下に降りなければならない。
トリレタは、迷うことなく下へと進んで行く。
「ティキさん……」
「分かっているわ。でも、この狭さなら私でもなんとか進めるから……レイニーは先に行っても良いわよ? すぐに追いつくわ。 それより、あのトリレタを見失わないで!」
「分かりマシた……!」
ぱたたたたたっ!
僕は、危なげない速度で、トリレタを追って通気口の中を羽ばたく。
いっぱいリーリスさんの背中を使って飛ぶ練習しておいてよかった……!
秋の終わりには、一応、飛べる状態にはなっているのだよ!!
ま、最近は、寒さにヤられて、ほとんど飛んでいないけど。
しかし、小鳥の姿だと、暗いところは視力が落ちるみたいで、かなり周りが見えづらいなー。
こんな時、トリレタの白は僕にとって、大変ありがたいです。
三階分を一気に下り、地下に着いたところで、通路が左右と前方……三方向に分かれていた。トリレタが進むのはそのうちの右側の通路だ。
僕は急いで自分の羽毛を少し毟ると、右の通路に置いておく。
痛てててて……
黒い羽根だけど、ティキさんなら見つけてくれるよね?
そのままトリレタを追って、飛んだり跳ねたりを繰り返しつつ進む。
途中、分かれ道があった時は進む方向に羽を落としているんだけど……僕がズル剥けハゲ鳥にならない内に出口に出て欲しいものである。
そんなことを考えていると、突き当りの通気口の隙間から、するり、と外……地下部分の通路へとトリレタが飛び出して行ってしまった。
あっ! そうか、この通気口、建物内は欄間のような仕切りがされてるんでした!
この仕切りは、小鳥な僕の力ではびくともしない。その間にトリレタは地下からの作業用階段を上へと進んで行く。
ああああああ、待って、トリレター!!
かかかかかっ!!
キツツキみたいに木製の仕切りを叩いてしまったが、スズメ未満の僕の力ではびくともしない。
あぁぁ……トリレタがぁぁぁぁ……
しばらく、通気口の出口部分で呆然としてしまった。
今更ながら、あのトリレタに細い糸でも結んで置けばよかった……!
でも、とりあえず、リーリスさん達に僕の居場所は届くハズだし……!
地下の、この場所まで来れば、外に出られる可能性が大きいことは分かったし!
悪くない……悪くない成果ですよ!!
僕が、この階段のある場所が一体何処に当たるのか、キョロキョロと通気口の隙間から建物の中を伺っている時だった。
「どういう事です! メディロンさん!!」
何やら聞き覚えのある男の声が響いて来る。
どうやら、階段の上から、3人の男達がぞろぞろと下って来ているようだ。
声を荒げているのは、僕たちの居る第1棟管理責任者らしいスオウさんだ。その手には、お盆。どうやら、そこに載せられているのは、あの精神汚染ケーキなどのお菓子類だ。
「これにはアーファンの粉が入っているじゃないですか! アーファンは、確かに女性の感情の操作や性的興奮を引き起こす薬ですけど、強い依存性や中毒性がある事を知らないとはおっしゃいませんよね!?」
そのスオウさんに糾弾され、面白くなさそうに顔を歪めた赤い髪の男……コイツがメディロンと言う名前のようだ。
「フンッ……貴様のやり方はヌルくてまどろっこしいんだよ!」
「やれやれ、二人とも、声が大きいぞ。年寄にはうるさくて敵わん。」
明らかに歳を重ねたような口ぶりだが、三人の中で一番若々しく見える深緑色の髪の青年がその間に割って入る。
「廊下は音が響くでの。話し合いをしたいなら、いつもの会議室でどうじゃ?」
ジジイ口調の青年が直ぐ階段脇の部屋の扉を指差す。
「ええ、僕は構いませんよ」
スオウさんが深緑髪の青年に向かって頷く。
「フン……」
赤髪の調教士も不満気に唇を尖らせながらも、話し合いには参加するようだ。
三人の姿は足早にその部屋に吸い込まれて行く。
……隣の部屋か……今通って来た道の途中なんだよな……
僕が戻り始めた時に、ちょうど子狐のティキさんが通路を通ってこちらまで来てくれた。
(あ、ティキさん!)
(レイニー……どうだったの?)
(ハイ、あの、この先の通気口の蓋に阻まれて……でも、地下のこの先に、上にあがる階段があって、そっちにトリレタは進んで行きマシたよ!)
(なるほど、あの先ね?……見通せ【千里眼】!)
ティキさんは、ちょうど直線になっている通気口の先を千里眼で見つめる。
(あー……そうね。アレは……この姿のまま、内側から破壊するのは難しそうね)
だんッ!!
「「!?」」
僕とティキさんが、そんな会話をしていると、三人の調教士らしき男達が入った隣の部屋の方から低い衝撃音が響いた。




