姫の解放
夜が訪れる。
その国の夜は、とても暗く、冷たく、静かだ。
一部、街灯と月明かりに照らされている道を通って、城の近くに行くと、見回りの衛兵が見える。
あの姫さまは、どこにいるんだろうか。
昼の様子では、自由に往来に出られるような感じではないし、幽閉でもされているんだろう。
「とりあえず、入るか」
衛兵が俺の潜む近くを通る。
人数は1人、いけるか。
小石を手に取り、近くに投げる。
「いてっ。 なんだ?」
危ねえ。 笑いそうになった。
小石は衛兵に直撃して、兵は周囲を警戒しだした。
だが、それがいい。 中途半端に警戒されている方が、却って行動を予測しやすい。
「なっ。 ぐぅぅ」
俺は、兵士の後ろを取り、スリーパーをかける。
首を固く絞めることで、音もなく意識を刈り取ることができる。 が、俺は、会えて絞めを緩める。
「なぁ、姫さまってどこにいるか知ってる?」
「ぐぐっ。 お前のような賊に話すことなどない」
兵は、肘で俺の脇腹を打ち付けてくる。
少々の痛みはあるものの、自慢の腹筋はダメージを受けることなくその攻撃を跳ね返してくれる。
「お前……姫さまはすきか?」
「あたり……まえだ。 王に忠誠を誓ったその日から……姫さまにも、敬意を払っている」
「そう言うんじゃないけどな……まぁいいや。 姫さまの呪いを解いてやるから教えてくれよ。 これじゃダメか?」
「信じられる……わけがないだろ。 はやく……この手を離すんだな」
「いやだね。 教えてくれるまで話さない」
「強情だな。 分かったよ。 プランBに移行するよー」
「いいや。 そう言うわけにはいかないね」
ザザザって聞こえた。
兵士達が集まってくる音。
拘束しているこいつを含めると、合計4人。
手に負えない数ではないけどな。
「こいつを人質にしているって言ったら抵抗をやめてくれる?」
「くっ。 俺のことはいい。 こいつを捕まえろ」
「し、しかし」 「できません。 そんなこと」
「うんうん。 良い仲間愛だね。 なぁ。 姫さまってどこにいるのかなぁ」
「そ、それは」
「こいつの命がどうなっても良いんだ。 良いけどね。 せっかく集まったんだから、一人一人繰り返していくよ」
「姫さまは、この城の1番高いところにいらっしゃる」
「へぇ。 本当?」
「あぁ。 本当だ……だから、そいつの命だけは」
「うん。 良いよ離してあげる」
俺は、兵士の拘束を解き、他の兵士に向かって投げる。
さて、1番高いところって、あそこだよな。
窓がないし……外壁を壊したら、瓦礫がどんな被害を出すか分かったものじゃない。
仕方ない……か。
「ほら、どのみち4人に勝ち目はないし、捕まってあげるよ」
俺は、両手を差し出した。
兵士達が困惑し、警戒しながらこちらを拘束する。
手錠は木製だった。
連行され、城の中を通り、牢屋の中に入れられる。
「そこで待っていろ。 後で尋問官が来る」
「はーい。 あんまり待たせると悪いことが起きるから、気をつけてね」
「減らず口を」
牢屋の錠がつけられる。 俺は、閉じ込められた。
見張りの兵士は1人、牢は金属製。
よし、ここまでは計算通りだ。
さて、金属の牢は破壊に時間がかかるな。
まず見張りから手を出すか。
先程、兵士が集まったのは奴ら一人一人に情報を共有するアイテムが持たされているのだろう。
別段、珍しくもないものだ。 前世でいう、防犯ブザーみたいな感じか。
それをまた鳴らされると面倒だから、今回は一瞬で意識を刈り取る必要があるな。
よし、電気にしよう。
「なぁ兄さん。 ここに変なものがあるんだけど」
「ん? なんだお前、うるさいぞ」
「いや、これ動いてるし、絶対やばいやつだって」
「なに、動いているだと? まさか、魔物……ちょっと見せてみろ」
「んー。 よし、捕まえた」
「どれだ?」
見張りがこちらに近づく。
牢の隙間から手のひらを差し出すと、それを凝視してきた。
「ちょっと逃げられるのやだからさ。 手を出してよ。 渡すから」
「なに、それで変な虫とかだったら……」
「え? なに。 虫が怖いの?」
「ええい。 怖くなどない。 ほら、渡してみろ」
見張りが手のひらを皿にして差し出してくる。
俺は、その皿に手を乗せる。
「ごめんな。 恨むなら、自分の愚かさを恨んでくれよ」
高圧の電気を流し込む。
強力な電気信号を受けた身体は帯電し、痺れ、身体の動きを制限する。
「あれ? 意識飛んでないな……まぁ結果オーライか」
俺は、顎に軽い一撃をかすらせ、意識を奪った。
これで、しばらくは大丈夫だろう。
バキっと、勢いをつけて、手錠を破壊する。
「木製など、拘束の意味を持たないな。 さて、鍵があるかな?」
気絶した見張りの懐を探ると、一つの機械を見つける。
「これは……危険を知らせるやつか。 よし、隠しとこ」
それを、ベッドの下に隠して、さらに懐を漁るがそれ以上はなにも見つからない。
「あれ? もしかして」
机の上を探ると、そこに鍵の束を見つけた。
「うわぁ。 面倒臭いなぁ。 まぁめんどくさいだけだけどさ」
俺は、鉄を炎で炙る。
だんだんと赤くなっていく。 熱いんだろうなぁ。
「鉄は熱に弱いんだ……なんてな」
赤くなったら、そこを蹴る。
できる限り強く蹴ると、そこは壊れる。
これが俺の思い描く、最高の策だ。
「よーし。 十分だ」
よいしょ。
全力で前蹴りを放った。
痛いし熱い。 しかも、鉄柵はビクともしない。
「はぁ。 ふざけんなよっ!!」
八つ当たりに、横壁を殴ると、それは小気味良い音とともに崩壊した。
「あれ? もしかして……こっちの方がもろい?」
石でできた壁の方が鉄よりももろい。 これ、小学生レベルの知識だよ。
俺は、その調子で壁を破壊していって脱出をした。
廊下を見回る兵士はいないようだな。
えっと、方向はあっちかな?
俺は、廊下を走り、城の離れにある塔を目指した。
「なに? 貴様、どうやって抜け出した!!」
道中、兵士に見つかることもあったが、通り過ぎに顎や首に強烈な一撃を加えると、意識を失ってくれた。
兵士の数がだんだんと増えていく。
が、問題なくそれを捌くことができた。
「兵士が多いってことは、この先に何かあるってことだよなぁ」
螺旋階段を見つけ、それを駆け上がり登っていく。
金属の扉を見つける。
よく見ると、それは、鎖で封じられていた。
「くそ、また金属かよ。 ええと、金属の壁破壊は……テルミット反応か。 俺の手持ちじゃ無理だな。 しょうがない。 せーの」
ガシン!! ガシン!! と、何度も蹴りを食らわせる。
その度に、あたりが揺れていく。
「くそ、やっぱり金属は硬いぜ。 だけど、何度も蹴っていれば。 諦めなければ……絶対に道は開ける!!」
蹴りを放つ。
何度も、何度も放つ。
そして、それは執念が起こした奇跡なのか。
鉄の扉は勢いよく飛んで行った。
「あれ。 扉よりも、それに固定される壁の方が耐えられなかったか」
「ええと。 貴方は、昼の……」
「あぁ。 名前、覚えてるか? 言ってみ? 俺の名前を言ってみろ」
「レム……様ですよね」
「あぁ。 お前を救いに来たぜ。 まずは名前をお聞かせください」
「私は……ローラと申します。 助けに来てくれたのは嬉しいけど、早く立ち去りなさい」
「なんで? あっ、聖者の遺灰あんじゃーん」
「そんなもので、この呪いは解けないんです。 それより、父の近衛兵が来る前に」
破壊されたドアから、人の気配を感じる。
「もう、手遅れじゃよ。 族よ、よくも兵をなぎ払いここまで侵入したものじゃ」
「王よ、お下がりください。 ここは私めが」
「あぁ、レム。 なんとか逃げて、貴方じゃ……」
「うるせえなぁ」
俺は、聖者の遺灰を包帯に擦り込む。
「ぺっぺ。 口の中に……やめてよ」
「お前、娘になんてことを……」
「うるせえってお前ら。 そもそも、こいつと俺との距離が近いんだから、人質になってるんだよ。 だから動くなって」
「そ、それは」
「それにさ。 俺は、ローラを救いに来たんだ。 これがお前を不幸にしてることがわかったから。 だから、邪魔するなよ」
「そんなこと……出来るわけがない」
王が言い放つ。
だが、俺はそれを無視して、ローラの包帯に手を伸ばす。
包帯をつかんで、引っ張ろうとする。
バチバチと、周囲に魔力が溢れる。
「痛えな。 くそっ」
「レム。 やめて。 貴方が辛い思いをする必要はない」
「黙れっ!! そんなつまらねえ嘘なんて聞きたくない。 お前はどうしたいんだ? お前は……どうなりたい。 本音を言えよ!!」
「私は……私は、本当はこんなのやだよ。 私も、素顔で……学校に行って、みんなと笑いたいよ」
「それが聞きたかった。 それだけの思いがあれば大丈夫だ。 俺がなんとかしてやる」
包帯をさらに強い力で掴む。
引き離そうとすればするほど、痛みは強くなり全身を走る。
拒絶しているのだろう。
呪いが、形状を変えることを拒否しているのだろう。
だけど、お前がいると、ローラは幸せになれないんだ。
だから、壊れちまえ。 外れちまえよ。 包帯。
「くぅぅううおおおお」
右手に力がこもる。
流出する魔力と、俺の持つ魔力が接続される。
単純な綱引きが始まった。 そして、俺の力は、そんな呪いになんか負けない。
「まさか……娘が助かるのか……族よ!! 頑張れ」
「頑張れっ」 「負けるなっ」
いつのまにか、周囲の人々は、俺に応援をしてくれていた。
負けられない。 負けたくない。
「レム。 頑張って」
ローラまでも、俺を信じてくれた。
「あぁ。 これで、お前も自由だっ!!」
包帯は引き裂け、その呪いは効力をなくした。
「やっぱり、可愛い顔してるじゃねえか。 もう泣かなくていいぜ。 笑えばいいんだ」
「はいっ。 でも、涙が止まらなくて……どうすれば」
「簡単だ。 泣きながら、笑えばいい」
ローラは、可愛らしい笑い顔を見せてくれた後、俺の胸でたくさんの涙を流した。
「まさか……本当に呪いが解けるとは、君は一体何者だ」
「んーと。 説明が面倒だな。 これを見てくれ」
俺は、王に父からの文書を渡す。
王は、それを読んだ後、ものすごい勢いで頭を下げた。
それは、とても綺麗な土下座だった。
「頭をあげてくれよ。 一体どうしたんだったんだ?」
「いや、君こっちに来た前」
「えっと、ローラ。 もういい?」
「うん。 ありがとう。 レム」
俺は、ローラを置いて、王様についていく。
そこは、玉座の間であり、王様は椅子に腰をかけた。
俺は、適当に立っている。
すると、兵士の1人が椅子を持ってきてくれた。
「いいの? 座っても」
「構わん。 むしろ、座ってもらわないとこちらが礼を欠くことになる。 君は、姫を救った恩人であり、世界を救った恩人の息子であるのだから」
「ええと。 それ、トップシークレットにしてもらえます?」
「あぁ。 分かっている。 しかも、まさか、こんな頼みをされるなんてなぁ」
一体、あの文書には何が書いてあったのだろうか。
その内容が、王の口から明かされる。
ブクマ1人ついたうれしいよー。
ありがとー。




