44 過去の話
どうぞよろしくお願いします。
長めになっちゃいました。
リンデンバウム辺境伯爵家の馬車の中。
セレイラが夫と従弟であるアーノルドに説明を始めていた。
「6年前、システィナ大叔母様が亡くなる時のことを……、覚えている?」
アーノルドは頷き言った。
「私はそこまで接点がありませんでしたが、マディはかわいがって頂いたようで、最期の時も呼ばれていましたね……」
「……システィナが昔、王子の婚約者だったことは知っている?」
「えっ?
大叔母様の年代だと、先々代の王が王子ぐらいの時ってことですか?」
アーノルドの言葉に辺境伯爵も驚いている。
「ええ、当時は隣国との関係が悪くて、王家の武力が……」
◇ ◇ ◇
王家は危機に見舞われていた。
友好的であった隣国が突如、敵意を見せ、戦争が起こりそうになったのだ。
隣国の内紛が原因ではあったが、友好派、敵対派のどちらが主権を取れるかわからない状況になった。
王家としてはどちらの状況になってもいいように対策を取らなくてはならない。
しかし、王家としての武力はそれほどの力がなかった。
そこで王家は『王家の盾』と古くから呼ばれていたシュベイク侯爵家を頼った。
シュベイク侯爵家は伝統ある武門であり、他の高位貴族、特に武力で高名な家との繋がりが強かった。
シュベイク侯爵家の長女システィナと第1王子カールマイネの婚約が発表された。
王家に武力の家門としての協力の約束の政略的な婚約だ。
システィナは受け入れ、第1王子を支えることを決意していた。
システィナは侯爵令嬢でありながら騎士としての力量もあり、隣国との境界の砦や防衛線の視察なども嫌な顔を見せずに第1王子に付き添い、支えた。
第1王子もそんなシスティナを頼りにするようになり、2人の間には確かな絆が生まれていた。
政略でありながら、王国の危機を乗り越えるために、お互いの気持ちを寄り添わせ、通わせていたのだ。
婚約者として自分を認めてくれ、騎士としての仕事もさせてくれつつ、大変なことはないか、辛いことはないかと労わってくれる第1王子。
システィナはいつの間にか、本当にカールマイネを愛していた。
隣国での内紛が収束し、友好派が力を取り戻し、平和が戻って来た。
これまでの危機を乗り越えた安堵感。
そして、シュベイク侯爵家の王家への尽力を皆が褒め称えた。
このまま、カールマイネ第1王子とシュベイク侯爵令嬢システィナが結婚し、強い王国を率いていくと、誰もが思っていた。
あれは隣国からの友好使節が来た時の最後の夜会だった。
隣国からの使節は第2王女殿下が直々にいらしていた。
それは愛らしい方だった。
金の髪に青い瞳。白い肌にバラ色の頬。
体躯はほっそりとしていて、剣など持ったことなどないというような姫君だったのである。
第2王子とのお見合いを兼ねていたようだが、恋に落ちてしまったのは第1王子だった。
第1王子と隣国の使節の思惑が合致。
隣国との友好をもっと深めたい貴族達、それはシュベイク侯爵を始めとする武の家門の力を削ぎたい貴族達であった。
目的は違うが、求める結果は一致してしまったのだ。
隣国との友好を深めるためという大義名分を振りかざした者達、その筆頭が、愛していた婚約者の第1王子だったのだから、システィナの心は大変傷ついただろう。
システィナはごねることなく、求められるがままに婚約破棄を受け入れた。
ひとつは国のため。
そしてもうひとつは愛する第1王子の幸せのため。
彼はシスティナより、儚くて美しい姫である王女と生きたいと願ったのだ。
王女と生きることが自分自身の幸せだと思ったのだ。
それならば、彼を愛する自分は身を引くのは当然と……。
張り裂けそうな心を隠し、毅然と婚約破棄を受け入れた。
◇ ◇ ◇
「システィナ様はどうなされたのだ、その後?」
リンデンバウム辺境伯爵が心配そうにセレイラに訪ねる。
「シュベイク侯爵領で、侯爵の妹で騎士のひとりとして領地をお守りに。
婚姻の申し込みはいくつかあったのだけれど、すべて断ったと聞いてるわ。
そして、歳を取り、王都に来られて、小屋敷で生活されてたの」
セレイラはふっと笑った。
「私達はまだ子どもで、詳しいことは知らなかったけれど……。
私もマディも剣に興味があって、まあ才能もあったから、それが縁でシスティナ様のところに指導を受けに行くことなんかもあり、かわいがられてた。
でも、6年前、システィナ様が病を得て、寝込みがちになった時に……」
読んで下さり、ありがとうございます。
50話で完結です。
後もう少し、最後までお付き合い頂けたらうれしいです!!




