39 ダンスの後始末
どうぞよろしくお願いします。
ステファンもアーノルドの後を追いかけようとするが、後ろから微かな力で引き留められた気がして、立ち止まり振り返る。
エスメラルダだった。
エスメラルダがステファンの上着の裾をつかんでいる。
その手は震えていて……。
「エスメラルダ……」
「……ごめんなさい!
あなたを止める権利なんて、私にはないけれど!
……行かないで欲しいのっ!」
エスメラルダの視線は既にこちらに背を向けてエントランスへ向かうリンデンバウム辺境伯爵夫人の後姿を見ている。
そして、ステファンを見つめた。
青紫の瞳には涙が滲み始めていた。
「エスメラルダ?」
「……あの人と一緒にいて欲しくない。
ごめんなさいっ!
こんな! 私らしくないのはわかってるっ!
でも……、嫌なものは嫌……」
ステファンはアーノルドや辺境伯爵夫妻の行った方を見やってから、エスメラルダに向き合い、微笑んだ。
「ありがとう。エスメラルダ。
私の今すべきことがわかったよ」
ステファンはエスメラルダをぎゅっと抱きしめた。
ロザリーが「ふぁっ!」と変な声を出し、ジルティアがびっくりしてロザリーを見て、笑ってしまう。
ステファンもエスメラルダも笑い出してしまい……。
ひとしきり笑った後、ステファンは片足をついて跪いてエスメラルダの手を取った。
「愛しの我が婚約者殿。
弟とその婚約者の友人を救うため、彼女と一曲踊る許しを頂けますか?」
エスメラルダはくすくす笑いながら芝居がかった口調で声を張り上げた。
「ええ!
ヴェステラント殿下は愛しの婚約者マデライン嬢を心配して急いで行ってしまわれたもの!
マデライン嬢の体調、悪くないといいのですが……。
急遽、マデライン嬢の代理を務めてくれたガスパール公爵令嬢にきちんと感謝を示したいですし!
でも、私は嫉妬深いのですよ!
1曲だけなら許しますわ!」
ステファンは満足気に立ち上がり、エスメラルダを抱き寄せ頭に愛おしそうにキスを落とした。
「ふわぁぁあああっ!」
ロザリーがまた変な声を上げている。
ステファンは名残惜しそうにエスメラルダから離れた。
「私の心は君だけのものだよ」
「……そうであるように、祈りますわ」
エスメラルダがにっこり微笑み、ステファンはジルティアの前に立つと手を差し出す。
「我が女神のお許しが出ましたので。
ジルティア嬢、一曲お付き合いいただけますか?」
「ジルティア! ダメだ!」
ユージンが慌ててジルティアを止めようとする。
ジルティアはそんな兄をちらりと見て、何か決意した表情をすると「ありがとうございます」とステファンの手を取った。
ロザリーは真っ赤な顔で両手で懸命に口を押さえ、全てのやり取りを見逃すまいとガン見している。
ホールにステファンとジルティアが現れると周囲のざわめきが広がる。
「あれ?
今度はステファン殿下と?」
「ヴェステラント殿下の……特別ではないんだな!?」
「ガスパール公爵家のジルティア嬢だもの。
王家にとって特別な方なのよ!」
「ヴェステラント殿下の婚約者が体調を崩してしまい、その代理だったようだ」
「なるほど! そういうわけだったのか!」
そんな内容の言葉が広がっていき、ガスパール公爵令息ユージンは顔を顰めた。
「やられた……」
視線の先にはエスメラルダ。
微笑んでステファンとジルティアを見つめている。
ロザリーが両手で口を押さえながらエスメラルダに近寄り、小さめの声で話し掛ける。
「お見事でしたわ!
エスメラルダ様!」
「あら、ロザリーの素敵な効果音もなかなか良かったわよ。
まるで……『創作』の中の登場人物のような気持ちでいられましたから」
「……素敵なお話しでした。
とても参考になります!
読者として心の声の迸りを抑えるのに大変でした……」
「抑えられていなかった気が……。
それより、ロザリーが書く話、楽しみにしてるわ!」
「期待してて下さい!」
ふたりはくすくす楽しそうに笑った。
読んで下さり、ありがとうございます。
ロザリー、鋭いんだか鈍いんだかよくわからなくて、好き。




