表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/9

前世の記憶

 ラルゼースは前世で、弓人ゆみひとという名前だった。

 そして六歳差の妹は、矢子やこという名前だった。


 二人の名前を合わせると弓矢になる。だから、弓人には矢子が必要だし、矢子には弓人が必要なんだ――両親に名前の由来を尋ねると、きまってそう告げられた。


 だからか、弓人と矢子は子どもの頃から本当に仲がよかった。歳が若干離れていることもあってか喧嘩になることは殆どなく、楽しく笑っていた思い出ばかりだ。

 それは二人が成長しても変わらなかった。死ぬまでずっと仲良し兄妹なんだろうなと、弓人はそう信じきっていた。


 ()()()だって、信じていたと思う。


 大学を卒業し社会人になった弓人は、高校三年生の矢子に外へと連れ出された。じっとりと蒸し暑い夏の夜だった。

 矢子は星が好きな少女だった。星の中でも流星を最も愛していた。流星は人の祈りを叶えると言われていたから。

 矢子は夜空を見ながら、笑顔で弓人へと夏の星座の解説をする。


 ――大学受験を頑張って、宇宙の研究者になるんだ!


 矢子はそう言って、煌めく星々のように美しく笑う。


 その数分後に、信号無視の車に矢子は轢かれた。真っ赤な血が地面に溢れていた。星への愛も星への夢も、血液と一緒にさらさらと流れ落ちていく。


 そうして矢子は亡くなった。弓人の目の前で。


 トラウマを忘れるように食べることも眠ることもままならないまま働いて、弓人もまた過労で亡くなった。

 そうして異世界に転生して、ラルゼースとして第二の人生を歩むことになった。


 ラルゼースの中には最初から前世の記憶があって、だから誰よりも必死に魔法の勉強をした。魔法を自由自在に操れれば、きっともう大事な人たちが自分の手のひらから零れ落ちない。


 だから、世界を救う旅にも同行した。


 そして悟った。どれだけ自分に力があっても、時やタイミングに見放されれば人を救えない。人の死体を見るたびに、ラルゼースは泣き叫びたくなった。


 勇者たちと共に魔王を討ったあの瞬間に強く思ったことは、(……もう、戦うのはやめよう)だった。幸い、世界には平和が訪れたことだし。

 心のどこかで(本当にそれでいいのだろうか)と考えながら、自堕落に生きる日々が幕を開ける。


 十三年もそうしていたから、(本当にそれでいいのだろうか)という思いがいつの間にか膨らんでいて、だからルリラーテから差し伸べられた手をつい握ってしまったのだと思う。


 その選択が正しかったのかはわからない。

 正しくするしかないのだと思う。自分にできることを全てやって。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ