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過去の邂逅

「ミレアちゃん、〈流星の大魔導士(ステランディラ)〉の大ファンだから。ラルゼースくんイコール〈流星の大魔導士(ステランディラ)〉って気付いたら、絶対メロメロになっちゃう」


 溜め息をつくシュシュに、ラルゼースは先ほどのミレアとのやり取りを思い出す。彼女が自分にメロメロになる姿は一マイクロミリメートルも想像できなかったし、そうなったらすごい困るとも感じた。


『ああ、今頃彼は何をしてるのかしら……元気かな……幸せだといいな……もう一度だけでいいから、お会いしたいな……』


 ふと、ミレアの言葉が脳裏に蘇る。


(……もう一度だけでいいから?)


 ラルゼースはようやくそんな疑問を抱いた。「もう一度だけ」ということは、過去に自分とミレアは会ったことがあるのだろうか……?

 シュシュなら何か知っているかもしれないと思って、尋ねてみることにする。


「……シュシュさん。一つ、お伺いしたいのですが」

「なになに!? ラルゼースくんが自分に興味を持ってくれて嬉しい。恥ずかしい質問でも、答えてみせる所存」

「恥ずかしい質問に答えるのは万事やめておきなさい。それと、ミレアさんに関する質問であり……」

「むむむっ」


 シュシュは再び頬を膨らませる。前世で飼っていたハムスターが頬袋いっぱいに向日葵の種を詰めていたのを、ラルゼースは何となく思い出した。


「まさか、ミレアちゃんに関する恥ずかしい質問……!?」

「違います。……その、さっきミレアさんが『もう一度〈流星の大魔導士(ステランディラ)〉に会いたい』といったことを仰っていたように思い……ですが、私にはミレアさんと会った記憶がなく……何かご存知かな、と思いまして」


 ラルゼースの問いに、シュシュは「ああ、そのこと」と頷いた。


「ミレアちゃんが子どもの頃、魔王の側近に町が襲われたんだって。それで、逃げ遅れたミレアちゃんを救ってくれたのが、〈流星の大魔導士(ステランディラ)〉なんだってよく言ってる」


(魔王の側近……)


 ラルゼースは記憶を辿る。


「……その町の名前は、もしかしてリンカトルベレでしょうか?」

「そうだと思う。ミレアちゃんはリンカトルベレ出身だから」

「なるほど……」


 ラルゼースは頷きながら、(……あの子か)と納得した。

 魔王の側近が見せしめに殺そうとした幼い少女。二つ結びにされた髪は確かに、ミレアと同じ桜色だったように思う。

 シュシュが再び口を開いた。


「ミレアちゃん、〈流星の大魔導士(ステランディラ)〉の表情の変化がずっと忘れられないって言ってた」

「表情の変化……?」


 不思議そうに眉を顰めたラルゼースに、シュシュは「そう」と首肯する。


「殺されそうになったミレアちゃんを救った〈流星の大魔導士(ステランディラ)〉は、敵に向けてものすごく怒った顔をしてたんだって。でも、ぼろぼろになった敵が魔王城に逃げ帰っていって、ミレアちゃんの方を振り向いた〈流星の大魔導士(ステランディラ)〉は、とても優しい顔をしてたそうで。ミレアちゃんの頭を撫でて、一言、『……本当によかった』って微笑んで。その微笑が、花みたいに綺麗だったって」


 ラルゼースは雪に溶け出すような白さの耳を微かに赤く染めながら、シュシュから視線を逸らして「……そうなのですね」と小声で言った。過去の話ではあるが、自分の微笑みを花に喩えられていたとは何というか、照れる。


「……あれ。ラルゼースくん、耳、赤い?」

「……気のせいではないでしょうか」

「自分の目は誤魔化せない。耳たぶ、ふにふにって触ってもいい?」

「ダメです。自らの耳を触りなさい」

「むむむっ、ラルゼースくんはけちんぼ」


 納得がいかない様子で唇を尖らせてから、シュシュは「……でも、驚いた」と淡く微笑う。


「ラルゼースくん、怒ったりすることあるんだ。こんなに穏やかなのに」

「ああ……まあ、それには少し事情がありまして」

「事情……?」


 きょとんとした表情のシュシュに、ラルゼースは再び地図へと視線を落としながら「……余り面白い事情ではありませんよ」と口にする。

 ……転生しても、ずっと頭の中にいる。



 ――お兄ちゃん!



 真夏でも殆ど日焼けせず真っ白な肌だった、黒い長髪をポニーテールにしていた彼女が。

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