新パーティー結成祝い
空に星々が煌めく夜。
夢吹雪亭のテーブル席を、ラルゼース、ルリラーテ、ミレア、シュシュの四人は囲んでいた。
ルリラーテは葡萄ジュースの入ったジョッキを高々に掲げると、高らかな声で言う。
「それではっ、新結成パーティーの初陣成功を記念して、かんぱーいっ!」
「……乾杯」「か、乾杯よっ!」「乾杯」
四人のジョッキが綺麗な音を立ててぶつかり合う。ちなみにラルゼースのジョッキには苺ジュース、ミレアのジョッキには蜜柑ジュース、シュシュのジョッキには桃ジュースが入っている。
テーブルの上には豪勢な料理が並んでおり、どれもいい香りを漂わせていた。
ラルゼースは苺ジュースに口を付けると、目を細めて「……美味しいです」と微笑う。
「すっ、すすす、〈流星の大魔導士〉さまは、苺ジュースが、好きなのかしらっ……!?」
向かい側の席に座るミレアに上擦った声で尋ねられ、ラルゼースは「はい、そうですよ」と頷いた。
「そっ、そそそ、そうなのねっ!」
「ミレアちゃん、さっきから様子おかしくないですかー?」
にやにやしながらミレアの肩をつつくルリラーテに、ミレアは顔を真っ赤にしながら「だっ、だだだ、だって!」と大声で言う。
「…………ずっと憧れてた方と再会できて、どうしていいかわからないんだもの」
段々と消え入りそうな声になるミレアに、ルリラーテは心臓の辺りを押さえて「いやミレアちゃん可愛すぎるんですがっ!?」と叫ぶ。
(……私も、どのような対応を取るのが正解なのでしょう……)
密やかにそう考えつつ、ラルゼースは取り敢えず苺ジュースを飲む。酔ってしまえば、何かしらの力が働いて良質なコミュニケーションができるかもしれないと思いながら。
ふと右腕に違和感を覚え、見れば隣に座っているシュシュが腕を絡めてきていた。
「……何をしているのですか、シュシュさん」
「アプローチ。ミレアちゃんが正ヒロイン感出してるけど、自分だって負けてないから」
「三十九歳の私にはもう正ヒロインという枠は存在しませんよ……そして、貴女の腕は食事をするのに使用してください」
「むむむっ」
シュシュは不満げに頬を膨らませる。前世で飼っていたハムスターが思い出される。
(……シュシュさんに、同い年恋愛がいかに素晴らしいものかをこれから伝えていかないと……)
ラルゼースがそんな決意に浸っていると、マリが新しい料理を持ってきてくれた。
「はーい、〈電気を操る鶏〉の骨付き肉だよー!」
「うおー来ました来ましたっ!」
ルリラーテが笑顔でバンザイする。ラルゼースはマリからお皿を受け取ると、シュシュが移動させてくれた他の料理のお皿の隙間に丁寧に置いた。ミレアは顔を赤くしながら、ちらちらとラルゼースの様子を窺っている。
そんなミレアに気が付いたのか、マリの双眸が鋭くなった。
「ええと……確か、ミレアちゃんとシュシュちゃんだったよね?」
「そうですよっ! わたしの隣にいるのがミレアちゃんで、わたしの向かい側にいるのがシュシュちゃんです!」
にこにこしながら解説するルリラーテに、マリは「ふうん……」と頷いた。
それからラルゼースを覗き込んで、ふわりと微笑う。
「ねえねえ、ラルくん。耳、貸してくれる?」
「…………? 私の耳ですか? 構わないですけれど……」
「ありがと、ラルくん」
マリはぷるんと柔らかそうな唇をラルゼースの左耳へと近付けて、甘い声でささやいた。
「――随分、仲良さそうじゃない? 何だか、妬けちゃうなあ……」
ラルゼースは驚いたように目を見張る。マリは耳の側から唇を離すと、ふふっと微笑んだ。
「ちょっ、ちょちょちょ、ちょっと、今何の話してたの!?」
「……自分も、聞きたい」
焦った様子のミレアと、暗い眼差しをしているシュシュに、マリは唇の辺りに人さし指を添えながら、悪戯っぽくウインクしてみせた。
「内緒話、だよ? わたしとラルくんの二人だけの、秘密のお話」
「ひっ、ひひひ、秘密の話って……ず、ずるいわよ!」
「……大人げない」
「えっ、そうかな? それじゃわたし、仕事中だから……またね、ラルくん?」
またね、からの言葉をまたラルゼースだけに聞こえるようにささやいて、マリは楽しそうな足取りでカウンターの方へと戻っていく。
「すっ、すすす、〈流星の大魔導士〉さま!? 今の人とはどういう関係なのかしら!?」
「ええと……店主と客の関係ですかね……?」
「そうは見えなかった。ラルゼースくん、どういうこと?」
「私としても、今日のマリの様子には何か違和感を覚えており……」
「「名前呼び!?」」
がたんと椅子から立ち上がるミレアとシュシュに、ラルゼースは目を丸くする。
「ぷはあっ! 面白すぎる状況で飲む葡萄ジュースは最高ですねえ!」
そんなプチ修羅場のような状況で、ルリラーテだけが何だかとても楽しそうだった。




